表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙島のアリア  作者: 酉月(ゆうげつ)
2/15

2 灰に覆われた真実

王様たちは、何が起こったのかを明らかにするため、現場の調査を開始した。

火災は鎮火したが、研究所は焼け焦げ、あたり一面が黒い灰で覆われていた。

王様、コズモ、シャルマル、そして同行した数人の兵士たちが慎重に焼け跡を調べ始めた。



調査が進むにつれ、いくつかの証拠が見つかり始めた。

研究室の奥にあった金庫の錠前が壊されていたのだ。


「誰かがここに侵入したのだな?」王様が尋ねた。


「そのようです。これを見てください、錠前が無理やり壊されています」

シャルマルが指差した。


調査が進む中、煙島の看守の一人が王様の元に来て報告を始めた。

「王様、アリアがその日、「奥森」で何かしているのを目撃しました」


「あの…森で?何をだ!詳しく教えてくれ!」王様は興味を示した。


「具体的には分かりません。しかしアリアは動物と会話をしていました」


「動物と会話?それは本当か?」王様が驚いた声を上げた。


「はい、何度も彼女がヤマネコと話しているのを見かけました」


「王様、アリアが動物と会話できることは、ライルから報告が上がっています」

シャルマルが告げた。



その頃、家の寝室からエミカと、連絡を受け本土から帰ってきたチョビが、重たい足取りで現れた。

二人の顔には、深い悲しみと絶望の色が濃く影を落としていた。

アリアはその様子を見て、心臓が張り裂けそうになるような痛みを感じた。


「お父さんは?」

アリアは、震える声で尋ねた。


エミカは、何も言わずにアリアを抱きしめた。

その温かい腕の中に、アリアはようやく自分の感情を解放できた。


チョビは、うつむいたまま、何も言わずにいた。しかし、彼の握りしめた拳は、彼の心の動揺を物語っていた。


その後、残されたアリアの家族は焼け跡の研究所へ呼び出された。

研究所の前に立つと、まだ焼け焦げた匂いが漂い、焼けた壁や破壊された道具が散乱していた。

破壊された場面を目の当たりにし、アリアたち家族の心は重く沈んでいた。




「医師エミカよ、ライルの死因はわかったか?」

王様が、冷ややかに尋ねた。


「…はい、刃物が胸部の骨に当たっていることを確認しました。恐らく胸を刺されたことが死因だと思われます。また、使用された凶器は鋭利なナイフか短剣であると推定されます」

エミカは気丈に伝えた。


「では状況を整理しよう」

コズモが、厳粛な表情で言った。


「ライルは我々に研究の成果を報告するため、一足先に研究所へ向かった。エミカは焼却所へ案内をしていた。チョビは学校へ行っていた。アリア、君はどこへ行っていた?」

コズモが、鋭い眼差しでアリアを問い詰めた。


「…花を摘みに行きました」


「具体的にどこで摘んできた?」

コズモは尋ねた。


「森です」


「どのあたりの森ですか?」

シャルマルは、アリアの言葉を深く掘り下げようとした。


「あの…、灯台の後ろにある…「奥森」です」


「あそこは禁止された森だぞ。なぜ、そこに行った?」

コズモは、驚きを隠せない様子だった。


アリアはうつむいた。


「…王様が学校に行ってもいいと許可をもらえるかもしれないから、綺麗な花を飾りたいと思ったんです」

しかしモコと一緒だということは言わなかった。


「王様、今朝アリアが学校へ行きたいとライルと口論になったそうです。ライルは頑として認めなかったとか」

シャルマルが追加した。


「違います!口論というほどでもありません!」

エミカが、衝動的に反論した。


「たわいもない、ただの会話です。口論だなんて、一体誰がそんなことを!」

エミカはあの朝、訪れた看守を睨みつけた。


「アリア、君が答えなさい。ライルと口論になったのでしょう?」

シャルマルの冷たい目線がアリアに注ぐ。


「いいえ…私は…ただ…ただ学校へ行きたいと言っただけです…」

アリアの声は小さく、震えていた。


「…では、花を摘んで研究室へ行くと、ライルはどうしていたんですか?」

シャルマルは続けて質問した。


「奥の部屋で倒れていました。…胸が血だらけで…息が…ありませんでした」


「誰が刺したのか見たのか?」コズモが問うた。


アリアが首を振る。

「わかりません。部屋に行ったときはすでに死んでいました」


「ではその時、火の手は上がっていたのか?」


「いいえ…摘んできた花が…燃えたんです」


王様は眉間に深い皺を寄せた。

「本当なんです!」


「王様、アリアは気が動転しています!普段はこんな馬鹿なことは言いません!」

チョビが言った。


「アリア、君が漆黒獣から生まれた子供だということは知っているか?」


「し、漆黒獣?!」

突然の質問に、アリアは驚いた表情で王様を見返した。


「それが、何の関係があるんでしょうか!」

エミカは激怒した。


「アリアが漆黒獣の子供であること、それを知った逆恨みなのではないかと我々は疑がっているです」

シャルマルが続けた。


「…あの…煙島の戦いの化け物が?…私…私は…母さん、母さんの子供…じゃないの?」


漆黒獣は、隣国のバンダニ国が極秘に開発した生物兵器だった。強力な破壊力を持つその生物は、一度戦場に解き放たれると、止めようのない勢いでここイノト国を脅かした。


「ライルからは『アリアには伝えている』と、報告が来ていましたが」シャルマルが言った。


「…報告?」


「漆黒獣は、化け物じゃないのよ。人間なのよ」

エミカは、アリアを落ち着かせようとした。


「でも、どうして私が…?」

アリアは、自分のことを理解できずにいた。


「…もしかして…研究していたのは灰色病…だけじゃなく、私も研究していたの?」

アリアは、自分の出生の秘密に打ちのめされた。

感じていた違和感はこのことだったのか。


エミカが無言で目を伏せた。頬には一筋の涙が流れた。


「アリアは何も知らないんだよ!だから、父さんを殺す理由がないんだ。それに証拠もないだろう?」

チョビが必死に叫んだ。


「そこなんです」

シャルマルは自分の顔を撫でながら言った。


「刺されたという凶器が見つかっていません。…アリア、どこに隠しましたか?」


「…私?私は隠してません!何もしていません!」アリアは驚きと恐怖に満ちた声が出た。


シャルマルは冷静さを保ちながら、鋭い目つきでアリアを見つめ続けた。

「…しかし、研究所にはナイフやはさみが沢山あります。血を拭き取って、その中に紛れ込ませておけば、誰も気づかないでしょう。研究所を知っている人であれば出来る事ですよね?」

その言葉は鋭く、アリアを追い詰めるように感じられた。


チョビはすかさず反論した。

「凶器なんて、あなたの腰に差している剣だって、証拠になる可能性がありますよ」


「貴様、我々を疑っているのか!」

コズモの目がチョビを鋭く睨みつけた。


「まぁよい」王様がやり取りを制した。


「それではチョビ、君は、犯人に心当たりはあるのかね?」


チョビはしばらく言葉を失い、視線を泳がせたが、やがて決意したように口を開いた。


「私は誰も犯人だとは思いたくありません。でも、父は何か重大な発見をしたようでした。それが原因で誰かが邪魔をしようとしたのかもしれません」


「重大な発見?」王様は眉をひそめた。


「それは、金庫の中ににあったものが関係しているのか?」


「わかりません。でも父は金庫の中に研究に関する書類を入れていました。それは僕には絶対見せてくれませんでした。でも、母にだけは何か話していたようです」


エミカは涙を拭いながら、困惑した表情を浮かべた。


「彼が何を見つけたのか、私にも正確には教えてくれませんでした。でもアリアの事ではなく、『灰色病』についての事です。昨日そんなことを言っていました。……アリアは…いたって普通の女の子です」


シャルマルは深いため息をつき、

「普通…ですか…」と言ってアリアに再び視線を向けた。


「アリア、君を犯人と断定することはできません。しかし、『花が燃えた』という、君のおかしな発言には疑問が残ります。ライルを殺していないとしても、仮に君が火を放ったのならば、それはそれで重罪ですからね」


「…では私、燃える花を見つけてきます!それが本当に燃えたなら、私の言っていることが正しいと証明できます」アリアは強く反論した。


「だめだ!あの森に何人たりとも入ることは許されん!」王様が立ち上がって言った。


「そんな!」アリアは驚き、「馬鹿げている」とチョビも不満を漏らした。



シャルマルが冷静な口調で続けた。

「王様、アリアには禁止された森へ侵入した罪があります。彼女を捕らえるべきではありませんか?」


「そうだな」王様は速やかに答えた。


すると、チョビが強い口調で言った。

「待ってください。それなら俺も、俺も森へ行ったことがあります。俺も捕まえてください!」


「私も、私もあります!」エミカも言った。


「君たちが森へ行ったという目撃者はいない。だからそれはできない」コズモが即答した。


「…目撃者?」

アリアは不思議そうに眉をひそめたが、ふとあの時、風が吹いたと思ったのは誰かが見ていたのだと気づいた。


「確かに、森に行ったとき、誰かがいた気がします。でも、それならばその目撃者も侵入罪になるはずです」


シャルマルは首を横に振った。

「違う。目撃者は君の行動を監視するように命じられていたのです。彼は王の命令に従っていただけで、罪に問われることはありません」


「話にならないよ!」チョビは激怒した。


「とにかく!ライル殺人の犯人である可能性と、森への侵入罪の両方でアリアを追及する!」コズモが言った。


「では『灰色病』患者を収容する焼却の檻がありましたが、そこに入れましょうか?」シャルマルが王様へ提案した。


「…いや、アリアを城に連れていき、幽閉する。ライルの殺人犯や研究の真実も一緒に調べ、真実を明らかにするのだ」

王様が厳しい顔で命じた。


「そんな!」

アリアは、城から来た兵士に両腕を握られ、無理やり船着き場へと連れて行かれた。

エミカとチョビは、その様子を見守ることしかできなかった。



船着き場に着くと、最後に家族に別れのあいさつをすることができた。

「アリア、漆黒獣のことを言わなくてごめんなさい」エミカは震える声で言った。

彼女の目には、母親としての心配と悲しみが溢れていた。


「母さん、私は…」

アリアの声はかすかに震えていた。言葉に詰まると、彼女の目から一筋の涙が頬を伝った。


「アリア、僕たちもお前が犯人じゃないのはわかっている。無実であることを証明するまで、僕たちもできる限りのことをするよ」


チョビは力強く言った。彼もまた涙を堪えながら、妹を見つめていた。


「あなたは強い子よ。どんな困難も乗り越えられる。だから、絶対に諦めないで」

エミカはアリアの手を握りしめた。その手の温もりが、少しだけアリアの心を慰めた。


「母さん、だれが何と言おうとも母さんが、私のお母さんだからね」

アリアは深呼吸をして、気持ちを落ち着けようとした。


その時、アリアの足元にモコが駆け寄ってきた。モコは、いつも通りの明るい瞳でアリアを見上げていた。


「モコ!どうしてここに?」

アリアは驚き、モコを抱きしめた。モコは、アリアの頬に鼻を擦りつけ、甘えた声で鳴いた。


モコはアリアの瞳を真っ直ぐに見つめた。


(それって、どういうこと?)アリアは驚いてモコを見つめ返した。

モコは二度、瞬きをした。


「…モコ!」


(モコが言った言葉が本当ならば、犯人は……)


エミカとチョビ、そしてモコの言葉を胸に、彼女は本土へ向かう船に乗り込んだ。


あんなに行きたがっていた、本土にこんな形で行くなんて。


「無実を晴らして、この島へ戻ってくる」

アリアは静かに誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ