15 久しぶりの食卓
おばばはアリアの額に手を当て、熱が引いていくのを感じた。
「ふぅ…やっと落ち着いたかのう」
おばばは囁くように言い、湿った布でアリアの顔を軽く拭きながら、微かに笑みを浮かべた。
山小屋に着いて二日は経っていた
トムも、少し離れたところで見守っていたが、アリアの呼吸が穏やかになったのを確認すると、緊張で固まっていた肩をようやく下ろした。
おばばはトムに目を向けた。
「完全に熱が下がったわけじゃないが、ひとまずは危険な状態から脱したようじゃ。あんたも安心していいぞ」
トムは、何度もこわばった拳を開いたり閉じたりした。
「あぁ、ありがとうございます。本当に…よかった」
おばばは苦笑しつつ、湯気の立つお茶を差し出した。
「ほれ、これでも飲んで少し休むがいい。わしらも無理して倒れたら、この子を見てやる者がいなくなる」
「そうですね…ありがとうございます」
トムは礼を言ってお茶を受け取ると、暖かい湯気に包まれたその香りに、少しだけ心が落ち着くのを感じた。
おばばは火のそばで薪を足しながら、炎の揺らめきをじっと見つめていた。
「この娘も、色々なことを抱え込んでおるんじゃな。夢の中で戦ってるように見えたわい」
トムはアリアの顔を見た。彼女の安らかな寝顔にトムは久しぶりに笑顔を見せた。
* * * * * *
カイ団長とリサ、息子のジンはリサの実家へ着いていた。
家にはリサの母親と父親がいた。
「おぉ、お帰り。久しぶりだねぇ!」
リサの母親は温かい笑顔で3人を快く迎え入れ、すぐに家の中へ案内した。
父親も彼らを見て、穏やかな声で尋ねた。
「メグはどうしたんだ?一緒じゃないのか?」
カイ団長は軽いため息をつきながら答えた。
「途中で高熱を出してしまって…今はマルタおばばと一緒に山小屋で休んでるんです。この町で食料を調達したら、迎えに行くつもりです」
「そんな…大丈夫なのか?」
父親は驚いた顔をして心配そうに問いかけた。
リサが、心配する父親に優しい口調で言った。
「父さん大丈夫よ。おばばがついているし、すぐに回復するはずよ」
その時、ジンがお腹を抑えながら不満げに声をあげた。
「それより、おばあちゃん!何か食べさせてよ!もう腹ペコで倒れそうだよ!」
「はい、はい、わかった、すぐに用意するから待って」
リサの母親は腕まくりをしながら台所へ向かった。
豪華な料理がテーブルに並べられ、温かな食事の香りが家中に広がった。 ジンはいきなり料理に飛びつき、夢中で食べ始めたが、リサとカイ団長は久しぶりにテーブルに付いて食事ができることに嬉しさが込み上げた。
リサの父親がふと窓の外、山の方を見つめながら静かに口を開いた。
「メグはいくつになったか?」
「…もう15歳よ。早いものね。ここに来たときはあんなに小さかったのに…」
父親は軽いうなずき、何か思い出したような表情を浮かべた。
「15歳か…。もうそんな年か…」
リサはフォークを手にしながら、父親に聞いた。
「ところで…今、町の話題は何かある?」
父親に代わってリサの母親がその質問にすぐに反応した。
「王様がご成婚されるのよ。それでいろんな国から人が来るだろうから、今から商品をたくさん作っておこうって、みんな張り切ってるよ」
「王様が遂に結婚か…。あの王様は、剣に夢中でまだ結婚には興味がなさそうなんだけど、やっぱり国のためとなれば話は別か」 カイ団長が感慨深く話した。
ジンは口いっぱいに料理を頬張りながらも、話に耳を傾けていた。
リサは笑いながら、ジンの頭を軽く撫でた。
「まったく、食いしん坊なんだから。まぁでも、旅人の私たちにはあまり影響がないかもしれないけれど、平和で暮らせるならそれが一番よね」
「そうだな…」リサの父親が深くうなずいた。
「お前たちは食料を調達して、アリアのところへ行くんだろう?ならば、また帰りに家に寄りなさい」
「…父さん、私たちそのまま次の国へ行かなきゃならないの」
リサは戸惑いながら言った。
「ちょっと、メグに話をしなければならないことがあるんだ」
父親は真剣な顔でリサを見た。
「何の話をするんですか?もしよければ先に聞かせてもらえませんか」
カイ団長は思わずフォークを置いた。
「来たときに話す。必ず連れてきてくれ」
リサは無言で母を見るが、母は目を伏せて目の前の食事を見ていた。リサの父親が話す内容をどうやらわかっているらしい。
「まさか父さん、結婚話とかじゃないよね?」
リサは冗談めいて言ったが、ジンは驚いて言った。
「え!冗談だろ。何でメグが先に結婚してんだよ!俺だってまだなのに!」
「いや、そうじゃない。そうじゃないが、きちんと伝えておかなければならないことがあるんだ」
父親の真剣な表情と、母親の口をつぐむ様子から、ただ事ではない何かがあることを皆が感じていた。
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