14 夢
メグは熱にうなされ、目を閉じたまま小さな声でうわ言のように何かを呟いていた。深い眠りの中、彼女は夢の中に引き込まれていた。
青い空の下、風が花畑を揺らしている。無邪気に笑いながら、顔がぼやけた父と母の手を取って走り回っている自分がいた。
「お前は強い子だよ」と父が安心させるように言った。
「どんな時も、私たちはお前のそばにいるよ」と母が微笑みながら優しく言い、アリアを抱きしめた。
しかし、突然空が暗くなり、花畑は灰に変わっていった。どこからか、低く重い音が響き、遠くにそびえる塔が炎に包まれていた。アリアの足元には、赤い花がぽつんと咲いている。その花びらが一枚、ゆっくりと空に舞い上がり、火の粉となって消えていった。
「お父さん…お母さん…」アリアは両手を伸ばし叫んだ。しかし目の前に現れたのは、黒い影のような存在――漆黒獣だ。その目が赤く光り、彼女をじっと見つめていた。
「逃げろ!」誰かの声が響く。アリアは反射的に後ずさりするが、足が動かない。影は次第に近づき、彼女を包み込もうとしていた。
心の中に広がる不安と恐怖。そして、自分の正体――漆黒獣の子供であるという事実に気づいた瞬間、胸の奥で激しい痛みを感じた。
「助けて…」アリアは必死に手を伸ばしたが、誰の手も届かない。その瞬間、影が彼女を飲み込もうとする――が、突然目の前が真っ白に輝いた。光の中から、優しい歌が聞こえてきた。そしてはっきりと言葉が聞こえた。
「アリア、大丈夫だ」
その声は、ライルのものだった。暖かい光に包まれ、影は消えていった。しかし、アリアはまだそのぬくもりに触れることができなかった。ただ、全身に温かさが少しずつ広がり、彼女を包み込みながら夢の中の世界は静かに薄れていった。
現実の世界に戻りつつあるアリアの顔には、安堵の表情がかすかに浮かび、彼女は静かに息を整え始めた。
* * * * * *
おばばはアリアの額に手を当て、熱が引いていくのを感じた。
「ふぅ…やっと落ち着いたかのう」
おばばは囁くように言い、湿った布でアリアの顔を軽く拭きながら、微かに笑みを浮かべた。山小屋に着いて二日は経っていた
トムも、少し離れたところで見守っていたが、アリアの呼吸が穏やかになったのを確認すると、緊張で固まっていた肩をようやく下ろした。
おばばはトムに目を向けた。
「完全に熱が下がったわけじゃないが、ひとまずは危険な状態から脱したようじゃ。あんたも安心していいぞ」
トムは、何度もこわばった拳を開いたり閉じたりした。
「あぁ、ありがとうございます。本当に…よかった」
おばばは苦笑しつつ、湯気の立つお茶を差し出した。
「ほれ、これでも飲んで少し休むがいい。わしらも無理して倒れたら、この子を見てやる者がいなくなる」
「そうですね…ありがとうございます」
トムは礼を言ってお茶を受け取ると、暖かい湯気に包まれたその香りに、少しだけ心が落ち着くのを感じた。
おばばは火のそばで薪を足しながら、炎の揺らめきをじっと見つめていた。
「この娘も、色々なことを抱え込んでおるんじゃな。夢の中で戦ってるように見えたわい」
トムはアリアの顔を見た。彼女の安らかな寝顔にトムは久しぶりに笑顔を見せた。
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