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煙島のアリア  作者: 酉月(ゆうげつ)
13/15

13 指輪の謎

アリアの呼吸は荒く、熱は一向に下がらない。おばばは薬草を手に取り、鍋で煮詰め始めた。メグの額に水で濡らした布を当てながら、彼女の顔をじっと見つめた。


「…早く良くなるといいが」


「そうですね…」


トムは暖炉の火を見つめながら答えた。火がぱちぱちと音を立てる中、メグの苦しそうな声が時折響く。


外は冷たく暗い夜だった。風が山の中を吹き抜け、木々がさやさやと揺れる音がかすかに聞こえてくる。そんな中、おばばはアリアの体を濡れた布で優しく拭いていた。


「体が細すぎるわい。この子はいったい何をして閉じ込められたんじゃ?」

おばばは低くつぶやくように言った。


トムはメグの身体を直視しないように、気まずそうに背を向けて答えた。


「本人曰く、進入禁止の森へ入ったそうです」


おばばは眉をひそめ、鋭い目つきでトムを見た。


「それだけか?それだけで牢屋に入れる国があるんか?」


「それ以外にも…いろいろと複雑な事情があって。俺も、どこから話せばいいのかよくわからないんですが…」


「そうか。それにしても、イノト国に進入禁止の森があるなんて、聞いたことがなかったが…」


「煙島にあるんですよ」


おばばの目が鋭く光った。

「煙島か…あの島は、昔、漆黒獣との戦争の舞台になった場所じゃったな。あそこは元々はレスカ国の領土だったんじゃぞ」


「ああ、そうでしたね」とトムは頷いた。


「それをイノト国が奪ってしまったわけじゃ…。お前も知っておろうが、イノト国、バンダニ国、レスカ国、アガタイ国、それにチェバン国とポーロウ国の六つの国があった時代があったんじゃよ」


「チェバン国か…」とトムがつぶやいた。


おばばは遠い昔を思い出すように、静かに語り続けた。


「だが、戦争に負けたバンダニ国とチェバン国は消滅してしもうた。今や六つ国は消え、四つの国が残るのみ…。ここレスカ国も、イノト国との戦争になりそうだったが、あの島を譲ることで戦争を避けることができた。それも束の間の平和じゃったがな」


おばばの声は徐々に低くなり、歴史の重みが彼女の言葉に染み込んでいるようだった。


「だがその後、バンダニ国が漆黒獣を引き連れ、イノト国に戦争を仕掛けた。イノト国は天照の珠を持っておる。その珠は誰もが欲しがる宝じゃ。人の欲が強ければ強いほど、その珠の光はさらに輝く。そして、光が強ければ影も濃くなる。漆黒獣もその影の一つかもしれんのう」


トムは興味深げにおばばの話を聞き、彼女の言葉が過去の出来事を生き生きと呼び起こすかのように感じていた。


ふと、おばばの視線がメグの首元に止まった。彼女の目が細まり、皮紐に結ばれた指輪に気づいた。おばばは静かに近づき、そっとその指輪に手を伸ばした。


「この指輪…」おばばがそっと指で触れながら言った。


「何ですか?」

トムは後ろを振り向きたかった。


「ちょっと待て」

おばばはメグの首から紐をはずし、トムに手渡した。


煤こけた指輪には、触ると細かな模様が刻まれていて、まるで何かの印のように見えた。


「エミカさんがこれをメグに渡してましたね…」


「…この指輪は、何かありそうじゃな」


「磨けば模様が見えると思うんですが…」


「そうじゃ、磨いてみるといい。もしメグに文句を言われたら、おばばのせいにしてもかまわん。早く磨いてくれ」


トムは言われた通りに指輪を受け取り、小さな布で磨き始めた。擦るたびに、煤けた表面が徐々に輝きを取り戻し、細かな模様が浮かび上がってきた。模様は複雑で精巧なもので、何かの紋章や符号のようにも見えた。


「これで、何が分かるんでしょうか?」トムは磨きながら不安そうに言った。


おばばはじっとその様子を見守り、指輪が完全に磨かれたときにその模様をじっくりと眺めた。

「この模様…ただの装飾品ではないな」


トムはその言葉を聞くと、再び指輪を注視した。外は冷たい夜風が吹き荒れていたが、小屋の中は不思議な静寂と緊張感に包まれていた。何か重要な謎がこの場所で解き明かされようとしている――そんな気配が漂っていた。


「これは古いバンダニ語で書かれてある」


「本当に…バンダニ語が記されているんですか?」


おばばは軽くうなずき、指輪をもう一度見た。

「そうじゃ。『シナリ・グレ』と刻まれとる。バンダニ国の古い言葉じゃ」


トムは驚いたように目を見開き、少し戸惑いながら言った。

「おばばがバンダニ語を知っているなんて、驚きました」


「わしの旦那は吟遊詩人じゃったんじゃ。各国を渡り歩き、歌を歌っておった。そうしていろんな国の言葉を自然と身につけたんじゃ。大道芸人たちも同じで、各地を回っていれば、自然と多くの国の言葉を話せるようになる」


「なるほど…それで、『シナリ・グレ』ってどういう意味なんですか?」


おばばはしばらく黙り込んで考え込んだが、やがて静かに語り始めた。

「『闇のなかに光あれ』という意味じゃ。この指輪は、バンダニ国の王が身に着けておったものに違いない」


トムはますます驚いた。

「王様の指輪…なぜエミカさんがこんな貴重なものを持っていたんだろう?」


「それはわからん。しかし、歌に伝わっていることがあるんじゃ」

そう言うと、おばばは静かに目を閉じ、詩のようなメロディを口ずさみ始めた。


「遠き昔、王の影、闇の中に眠る光。

王の血と共に流れ、漆黒の闇に守られし者、

その指に光るは誓いの証。

復讐と守護の狭間にて、王は今も待つ。

闇の奥底に、光を求めて…」


おばばの歌は古いバンダニ国の伝承を語るものだった。トムはその歌に聞き入りながら、指輪に秘められた謎に心がざわついた。


その場には、静けさが戻った。

トムはメグに視線を戻した。

「メグ、君はやはり何か…重要な役割をしなければならないのかもしれない…」


毎週日曜日『午前8時』に投稿します。

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