12 寄り道
イノト国を出てから三日が経った。もう数日で町へ着く。体が鈍ってはいけないと、旅の合間に団員たちは稽古をしていた。トムもまた、真剣な表情で剣を振りかざしている。
その時だった。ふとジンが、少し離れたところにいるメグの様子がおかしいことに気がついた。彼女はいつもなら猿や馬と元気に動き回っているのに、今日はじっと膝を抱え座り込んでいた。
「おい、お前…何してるんだ?」ジンが声をかけ、メグに近づいた。
返事がないので顔を覗き込むと、メグの顔は赤く、額には冷や汗が浮かび、うわごとのように「はぁ、はぁ」と小さな声を漏らしながら苦しそうな息をしていた。ジンの心臓がドキリと鳴った。
「…熱だ」ジンは驚き、すぐにカイ団長に知らせに走った。
「父さん!この人、熱を出してる!」
ジンの叫びに、カイ団長もトムも稽古を中断してメグの元へ駆け寄った。トムはメグの額に手を当て、その異常な熱さに目を見張った。
カイ団長はしばらく黙って考え込んだ後、決断した。
「この状態で町へ行くには体力が持たない。一旦、近くの山小屋へ避難しよう。木こりたちが使っていた小屋だが、冬の間は無人だ。そこなら少しは休めるだろう」
皆はその提案に即座にうなずいた。状況は深刻で、今のメグを連れて長旅をするのは無理だと誰もが感じていたからだ。こうして一行は急いで稽古を切り上げ、山小屋を目指すこととなった。
リサは彼女の苦しそうな様子に胸が痛んだ。今の彼女を見ていると、たとえ偽りであっても、自分たちの仲間であることに変わりないと思えてならなかった。
「ジン、トム、荷物をまとめろ。リサ、おばば、メグを支えてやってくれ」
皆が動き出し、一行は山小屋へと向かうために足早に出発した。
山小屋は町の喧騒から離れた、静かな森の中にぽつんと立っている。木々に囲まれ、ひんやりとした空気が漂っていた。カイ団長は、メグを抱え、慎重に彼女を小屋の中へ運び入れた。リサが暖炉の薪に火をつけ、周囲を暖かくし始める。
ジンがふと薪を見つめながら、ため息をつくように言った。
「ここで休むのはいいが…俺たち、食料がほとんど残っていない。あと数日もすれば底をつく」
トムはその言葉を聞いて、決意を固めたような表情で口を開いた。
「みんな、俺たちはここで別れようと思っている」
リサは驚いて目を見開き、すぐに反論した。
「何を言っているの?ここで別れたら、あなたたちは餓死するかもしれないわ」
カイ団長も同意するように強い口調で言った。
「そうだ、トム。いくら食料が足りないとはいえ、ここで別れるのは無茶だ。今はみんなで助け合おう」
トムはそれでもなお、固い表情を崩さなかった。
「でも、このままみんなと一緒にいたら、それこそ迷惑をかけるだけだ。食料が足りないなら、余計に俺たちが甘えるわけにはいけない」
その時、ジンが静かに口を開いた。
「俺はトムに賛成だ。二人をここに置いていこう。ここにいるメグは俺の本当の妹じゃない。赤の他人だ」
リサが驚いたようにジンを見つめた。
「何を言ってるの?メグは…たとえ偽者でも、今は私たちの仲間でしょう?それに、トムだってそうよ!」
しかし、ジンは冷静な声で続けた。
「母さん、現実を見ろよ。食料が底をつくのは時間の問題だ。俺たちが生き延びるためには、誰かを犠牲にしなきゃならない。二人を置いていくのは冷たいかもしれない。でも俺たちが困ることになるのはもっと最悪だ」
ジンはさらに追手の可能性にも言及した。
「それに、追手が来るかもしれないだろ。俺たちがずっと面倒を見る義理なんてないんだ。ここで足手まといを増やして死ぬのは馬鹿げてる」
リサは怒りに震えながらジンを見つめた。
「ジン!なんてことを言うのよ!」
その時、おばばがゆっくりと立ち上がり、ジンとリサの間に割って入った。
「まあまあ、落ち着きなさい。わしにいい考えがある」
トムとカイ団長はおばばに目を向けた。
「メグとトム以外は町まで行って、食料を補充してくるんじゃ。町まで行く分の食料は十分あるじゃろう。少しばかりの時間が必要じゃが、それでまたここへ戻ってくればいい。そしたら、もう一度みんなで町へ行けるじゃろ?」
カイ団長は驚いた表情でおばばを見た。
「…食料を補充して戻ってくる?」
おばばはうなずき、微笑んだ。
「あぁ、そうしてメグが元気になったら、また町まで送り届ければ良いだけの話じゃ」
カイ団長はおばばの提案に納得した表情を浮かべた。
「それなら確かに問題ないな。俺たちが町まで行って、必要なものを調達して、ここに戻ってくればいい。数日で往復できるだろう」
トムは少し迷いながら言った。
「…でも、本当にいいのか?」
カイ団長は大きく頷いた。
「それでいこう。無理に別れるより、戻ってきてみんなで安全に進むほうが賢い」
おばばは、メグの身体にかけられた布を整えながら静かに言った。
「わしもここに残るよ。しばらくメグと一緒に休んでおくから、みんなは安心して町へ行ってきなさい」
カイ団長はジンとリサに目をやり、二人ともそれぞれ頷いた。
ジンは大きく息を吐き、カイ団長の隣に立って言った。
「わかったよ。父さん、母さん、準備を整えて、早く戻ってこよう。時間は限られている」
カイ団長はジンの肩を軽く叩き、リサは少し微笑んだ。
「よし、それでこそ俺たちの子供だ。さあ、メグのためにも、すぐに戻ってこよう」
こうして、ジン、カイ団長、リサの三人は山小屋を後にし、町へ向けて出発した。
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