11 二人の大臣
そのころ、城の中では、新王であるヴィクター王が厳かな面持ちで報告を受けていた。報告の内容は、アリアが死亡したという悲報だった。コズモとシャルマルが詳しい調査の結果を述べていた。
「特に怪しい点は見当たりませんでした」コズモが言葉を続ける。
「馬小屋の馬たちがすべて解き放たれていましたが、何者かが意図的に行ったのか、偶然によるものかは不明です。さらに、スノウが姿を消しています」
その言葉に、新王様は表情を硬直させた。
スノウは、亡き王が愛用していた馬であり、彼にとっても特別な存在だった。その馬がいなくなったという事実は、アリアの死と共に、新王様の心に深い痛みを与えた。
シャルマルもコズモに同意するように頷き、
「塔の中はひどく黒焦げになっており、調査の結果、ろうそくの火が倒れたことで火事が発生したと考えられます。そして、アリアは…焼かれて亡くなりました。遺体はすでに地下へ移しております」
一瞬間を置き、ため息をつきながら再び口を開いた。
「アリアの家族へ、これから正式に連絡を取る予定です。彼らには十分な配慮を持って伝えます」
新王様は険しい表情を崩さずに、静かに報告を聞いていた。
同席していたリディア王女は不満げな様子で、シャルマルに目を向けた。
「アリアという子が着ていた服は、お父様がくださった大切なものだったのに!焼け焦げてしまったなんて。シャルマル!すべてお前のせいよ!」
その言葉にシャルマルは驚いたが、新王様はすぐに姉を叱責した。
「何ということをおっしゃるのですかお姉様!服ではなく、人が亡くなったという事にもっと敬意を払うべきです!」
リディア王女は一瞬言葉を失ったが、すぐに微笑みながら弟ヴィクターを見つめた。
「あら、ヴィクター。王様らしく、民に寄り添うような事を言うようになりましたね。しかし、まぁ、二人の優秀な大臣がいるというのに、即位式の日にこんな悲劇が起こるなんて、本当に不吉ですわね。まるで王位を継ぐこと自体が間違いだったと言わんばかりだわ」
新王様の眉がピクリと動いたが、姉に向かって優しく語りかけた。
「お姉様、このような悲しい出来事があった今、あなたも心休まる場所で静かに祈るべきです。どうか、部屋で休まれてください」
リディア王女は新王様の意図を察したのか、鋭い視線を彼に向けた。
「まあ、ヴィクター。優しい弟の言葉をありがたく受け取って、少し休むことにいたしますわ」
彼女はゆっくりと部屋を出て行ったが、その背中には大きな不満が垣間見えた。重苦しい沈黙が残された部屋に漂っていた。
新王様は姉が完全に去ったのを確認すると、大臣二人に視線を向けた。コズモとシャルマルは、緊張した様子で頭を下げ、口を揃えて謝罪した。
「新王様、我々の監督不行き届きでこのような事態が発生してしまい、大変申し訳ございません!」
新王様は静かな声で答えた。
「国民には城で人が亡くなったということを知らせないようにしてください。姉のように、よからぬことを言う人たちが出てくるでしょうから」
二人の大臣は再度深く頭を下げ、厳粛な表情で
「すべては新王様のご指示に従います」と答えた。
その場に重苦しい空気が流れ、部屋の中は静まり返っていた。新王様の胸には、亡きアリアへの深い哀悼の念と、スノウの不在による悲しみが渦巻いていた。
* * * * * *
シャルマルとコズモは部屋を後にし、長い廊下を並んで歩いていた。二人の足音が静かに響く中、コズモは低い声で切り出した。
「俺は念のため、当日、町で不審な人物がいないか確認しておく。何かが引っかかる」
シャルマルは頷きながら、考え込んだ表情を見せた。
「…えぇ、お願いします」
「シャルマル、アリアの家族に何と説明する?」
「…そうですね…それは私が何とかしましょう」
それを聞いてコズモは一瞬の間を置いてから、横に並ぶシャルマルをじっと見つめた。
「お前、俺に何か隠していないか?」
シャルマルはその問いに驚く素振りも見せず、逆にコズモの顔を見返した。
「…あなたこそ、何か隠していませんか?」
コズモは冷静な声で答えた。
「俺は何も隠してはいない。報告すべきことはすべて伝えた」
しかしシャルマルは微かに眉をひそめ、コズモに鋭く問いかけた。
「では、看守の一人がいなくなっていることに何か心当たりは?」
コズモの表情が一瞬硬くなった。
「看守の一人?それは初耳だ」
シャルマルはコズモの反応を観察しながら、静かに言葉を続けた。
「軍を率いるあなたが知らないとは。…本当に何も隠していないのですね?」
コズモは視線をそらさずに、毅然とした声で答えた。
「もちろんだ。お前も同じだろうな?…もし、王様を欺くことがあれば、俺はお前に剣を抜くぞ」
シャルマルは一瞬の沈黙の後、軽く頷いた。
「えぇ、もちろんです。しかし、この件に関してはお互いにもっと調べるべきでしょうね。嘘の報告があってはいけませんから」
二人の間に漂う疑念と緊張が、次第に廊下の空気を重くした。そのまま無言のまま歩き続ける二人の背中が、次第に暗い影に溶け込んでいった。
* * * * * *
それはチョビが王室の医師になるための試験を受ける日で、エミカは朝から大忙しだった。普段なら二人で分担して行う診療も、今日は一人でこなさなければならない。ようやく患者の足も途絶え、昼食をとろうとしていた時、外から馬車の音が聞こえてきた。
「おじゃましますよ」
現れたのはシャルマルだった。お付きの者が二人、家の中を見張るように立っている。シャルマルは部屋の中を珍しそうに見回し、テーブルの上にあるパンを見て言った。
「ずいぶんと遅い昼食ですね」
エミカはパンを一口かじり、口の中に入れたまま、ぶっきらぼうに答えた。
「…突然なんの用?」
「チョビが試験を受けていると聞きましてね。あなたが一人だと知って、今日来ることにしました」
シャルマルは微笑んで言った。
エミカは一瞬、シャルマルの狙いを感じ取ったが、特に表情を変えず、冷たい視線で返した。シャルマルはそんな彼女に笑顔を向け、懐から小さな袋を取り出すと、それをエミカの前に差し出した。袋の中には少量の金貨が入っていた。
「アリアが亡くなりました。これは王様からです。ささやかなものですが、どうか受け取ってほしい。それと…」と彼は続けた。
「金貨を受け取ったサインを書いてください」
エミカは袋を無言で受け取ると、その奥にこっそり隠された手紙に気づいた。彼女はシャルマルに冷たい視線を送り、言った。
「あなたはいつもそうよ」
シャルマルは肩をすくめ、エミカを見つめた。
「ペンが奥にあるから、書いてくるわ。少し待ってて」
エミカは背を向けて奥の部屋へ向かった。
部屋に入ると手紙を読んだ。そしてエミカは素早く薬の瓶を取り出し、少量の薬を金貨の袋に入れた。戻ってきたエミカは、何食わぬ顔で袋をシャルマルに差し出しながら、軽く息をついて言った。
「サインは袋の中に入れてあるわ」
エミカは視線を一瞬だけ周囲に巡らせ、お付きの者たちがこちらを注視していないことを確認すると、そっと低い声でささやいた。
「アリアは生きている」
その言葉を聞いたシャルマルの笑みは一瞬だけ消えたが、すぐに何事もなかったかのように微笑みを取り戻した。
「どうしたの?」
シャルマルがエミカをじっと見つめていた。
「…エミカ、口にパンくずがついてる」
慌ててエミカは手で口元を拭い、つい顔が赤らんだ。
シャルマルは再びその特徴的な笑みを浮かべた。
「君も相変わらずだな」
エミカはその言葉に対して何も返さず、冷たい視線を投げかけたまま黙っていた。シャルマルが去った後、彼女は入っていた手紙に再び目を落とし、静かな空気に包まれた部屋で、今後のことを考え始めた。
チョビが試験を終えて帰ってきたら、どう伝えようか。
外で誰かの足音が聞こえた。患者だろうか、チョビだろうか。解決策が浮かばないエミカの心は、さらに重くなっていた。
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