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煙島のアリア  作者: 酉月(ゆうげつ)
10/15

10 朝のレカウア国

隣国レカウア国に入り、しばらく馬車を走らせていたが、開けた場所で朝食をとる準備を始めた。太陽が高く昇り始め、温かな光がすっかり彼らの周りを包んでいた。


リサはアリアのそばに座り声をかけた。

「さあ、アリア。火をつけてくれる」


アリアは小枝を前にし、火打石を手に取った。

しかしアリアの表情が一瞬にして曇った。火を見ると、彼女の心には煙島と、塔で起きた悲劇が蘇ってくる。隣にリサがいるせいか、塔が燃え、本当のメグが炎に包まれた光景を思い出していた。アリアは手を震わせながら、小さな声で答えた。


「ごめんなさい。火をつけるのが怖い…」


「…そう。わかったわ」

代わりに火をつけながら、どこかしらリサの表情も曇っていた。


焚き火がパチパチと音を立てながら燃え上がり、リサが鍋に野菜や肉を入れて煮込んでいた。


火がついた鍋の中で、野菜が柔らかくなり、肉がじっくりと煮込まれていく。ジンがパンを切り分け、カイ団長がスープを器に注いで皆に配った。スノウもすぐそばで大人しく草を噛み、猿は檻の中で芋を食べていた。


アリアは器を手に取ると、その香りに思わず顔を近づけ、目を閉じた。

「さあ、食べましょう。冷めないうちにね」


リサの声に促され、アリアはスープを一口すすった。口の中に広がる野菜の甘みと肉の旨味が、久しぶりに味わう豊かな食事の感動を引き起こした。スープが喉を通り過ぎるたびに、心まで温まっていくようだった。


「すごくおいしい…」アリアは感動しながら言った。


「そうでしょう?このスープはレカウア国の料理なの。私はこの国の出身だから得意料理の一つなのよ。レスカという乾燥した葉っぱを入れると肉の臭みを抑えて、深みのある香りがでるの。さぁいっぱい食べて」リサが誇らしげに言った。


硬いパンは軽くお湯に浸し焼くと、外はカリカリ、中はふわふわとした絶妙な食感になった。アリアはそれを一口かじり、口の中に広がる小麦の豊かな風味とほんのりとした甘さをじっくりと味わった。思わず笑みがこぼれ、その表情に周囲の仲間たちもつられて微笑んだ。


焚き火の暖かな炎が朝の冷たい空気を和らげ、みんなの心も次第にほぐれていく。鳥たちのさえずりが森の静寂を彩り、穏やかな朝食のひとときが広がっていた。


「アリア、お代わりはどう?」リサが優しく問いかけた。

アリアは空になった器を差し出し、リサの厚意に感謝の笑みを返した。


その様子を見ていた仲間たちも、

「よしアリア、その調子でどんどん太れ!」

和やかな雰囲気に包まれて会話を続けた。


しかし、その穏やかな空気を切り裂くように、おばばの低く厳かな声が響いた。

「みんな先ほどから、アリアと呼んでおるが、そこにいるのは『メグ』じゃろう?」


一瞬にして場の空気が凍りつき、全員の視線がアリアに集まった。

焚き火のはぜる音だけが静寂を埋める中、おばばはさらに続けた。

「アリアはイノト国で死んだ。それを忘れてはならぬ」


アリアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに深く息を吸い込み、頷いた。

「そうですね。皆さん私は『メグ』です」


リサは注いだスープの器をアリア—いや、メグに手渡した。

「名前が何であれ、今は生き抜くことが大事よ」


テリーもそれに頷き、

「俺も名前を変えるべきだな。じゃあ、“トム”にしておこう」

と冗談っぽく言ったが、皆もその案に賛同した。


「じゃあ、メグとトムか。すっかり新しい名前になったな」

とカイ団長が笑いながら言った。


メグは穏やかに笑みを返しつつも、その心の中には複雑な思いが渦巻いていた。名前を変えることは、自分の過去を捨てるような気がして、どこか寂しかったが、それが今の彼女にとって必要なことだと理解していた。


トムが話を切り出した。


「実は俺たち、このレカウア国で君達とは別れようと思ってるんだ」


その言葉に、団員たちは驚きの表情を見せたが、すぐにカイ団長が頷いた。


「それは…どういうことだ?」とジンが問いかけると、トムは続けた。


「エミカさんからアリア…いや、メグの為に十分なお金を預かってる。二人でどこか静かな場所を見つけて、そこで落ち着いて暮らそうと思う。ずっと逃げ続けるのも疲れるだろうしな」


メグはトムの言葉を聞いて、彼女の中でも、それが最良の選択だと感じていた。


「俺達もチョビから国境を超えるための報酬しかもらっていない。これ以上俺達が、君らにできることはないだろう」


リサはそっとアリアの手を握りしめ、優しく言った。


「あなたがどこに行こうとも、私たちはいつでも仲間よ。だから、どうか無理せず、あなたたちの道を歩んで」


「ありがとうございます」とメグは微笑んだ。


「それじゃあ、町に着いたら二人を下ろすことにしよう」とカイ団長が最後に言った。


焚き火の光が揺れる中、仲間たちはしばらく無言で火を見つめていたが、そこには静かだが確かな絆があった。

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