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5 離宮1 ~邸宅にて~

穏やかで心地よい風、差し込む木漏れ日。ふかふかの布団。死んだら地獄に行くだろうと漠然と考えていたが、ここはどこだ? 


ゆっくり目を覚ますと白を基調とした部屋。開けられた大きな窓、窓の外に広がる広大な草原と森。透き通る青空が見えた。しばらくするとコツコツと人が歩く音が聞こえてきた。


「トントン。失礼いたします」

扉がノックされ、黒い服に白いエプロンを付けたメイドだと思われる女性が部屋に入ってきた。メイドは、茶色い髪を上で束ね、上品な雰囲気が漂う女性だった。


メイドが、ゆっくりと俺が寝ているベッドの前まで来ると足の膝を軽く折り曲げ、スカートの裾を手で軽く持ち挨拶をした。

「おはようございます。体の具合はいかがでしょうか?」


メイドは、俺の顔の表情や体の状態を目で確認して、異常がないか確認しているように感じた。


「問題ない。ところでお前は誰だ?助けてくれたのか?」

軽い脱水とめまい、空腹感があるものの、体調は戻りつつある様に感じた。首や左腕、足首の順に触ってみるが包帯や布当ては無く、完全に治っている。


しかし、体調よりも今の状況が分からない。俺は確実に自分の首を刀で引いた。生きている訳がなかった。


「申し遅れました。私は、アンジェ・ノワール侍従局所属のメイド。マリーと申します。ラファエラ様のご指示でエリック様のお世話をさせていただいておりました」


メイドは、マリーと名乗り、ラファエラの指示で世話をしていると話した。しかし、話を始めたばかりなのに分からないことが多く頭がパンク寸前だった。


「エリック!?誰だ? 俺はアランだが・・・」

マリーは、ラファエラの指示で世話をしていることを教えてくれたが、俺のことをエリックと呼んだ。ラファエラは俺の名前を知っているはずだが、間違えて伝えられたのだろうか?


「失礼いたしました。アラン様」

名前の間違いを指摘されたマリーは慌てる様子も悪びれた様子もなく、冷静な装いを一切変えずに間違えを謝罪し、『アラン』と呼び名を訂正した。


「長いことお目覚めになりませんでしたから、何かお召し上がりになりますか?それとも、水浴びをなさいますか?」


マリーは食事と水浴びを勧めてきたが、体は定期的に拭かれていたのか、匂いや痒みがなく清潔が保たれていたが、空腹感が強く、気持ちが悪い。しかし、状況がまるで分からないので、食事や水浴びどころではなかった。


俺は、状況を整理するため、血の贖罪から経過日数を確認するため質問した。

「今日の日付を教えてくれないか」


「統一歴、1945年5月10日でございます」

マリーは、首を少し傾げつつも、理由を尋ねることなく暦と日付を教えてくれた。


この世界で、初対面の人に日付を聞かれた場合、日付と共に暦を示すのが常識である。なぜなら、世界の多くの国々は、建国紀元や聖教会の神暦などを採用するため、国ごとに使用する暦と日付が違うからだ。


最近、レゼル王国を中心とした連合国やその周辺国で国毎に異なる暦の統一化を図るため、新たな統一歴を制定した。しかし、制定して間もないため、日付と共に暦を示さないと齟齬を生じる可能性がある。


今日は、5月10日。

反乱鎮圧は、統一歴5月3日。7日経過したことが分かった。


「ここに運ばれた日付が分かるか?」

俺の質問攻勢にマリーは嫌な顔一つせずに丁寧に答えてくれた。


「4日前の5月6日でございます」

マリーは、4日前だと教えてくれたが、彼女の答えが正しければ、7日間飲まず、食わずで、寝続けたことになる。この世界で、7日間も飲食せず寝続ければ間違いなく死ぬ。


最近、王都で、輸血や点滴の様な医療行為があると聞いたことがあるので、失血や脱水、栄養補給は輸血や点滴で説明できる。しかし、死にかけた人を完全回復させるような神の御業や手を翳すだけで傷や病が治癒できる夢のような魔法や魔術はない。


「7日か・・・そうだ。フーシェ伯領での反乱は知っているか?」

俺は、フーシェ伯領の反乱について少しでも情報を得ようとマリーに尋ねた。


「世情は疎いものでして。申し訳ございません」

マリーは分からないようだ。窓から見える光景は、緑が生い茂り空気も程よく水分を含んでいる。一方で、フーシェ伯領は乾燥が強く、空気が乾いているため、この場所がフーシェ伯領ではないと直ぐに分かった。


しかし、フーシェ伯領は地方の領地とはいえ、反乱の情報は国内に伝わるはずだ。しかし、窓から流れ込む心地よい風を感じると、世間から隔絶された天国のような場所にいると錯覚してしまう。そんなことを考えていると、マリーが俺の顔を覗き込み話しかけてきた。


「お目覚めになり次第、女王陛下が、お会いになりたいとおっしゃっておりました。いかがなさいますか?」


マリーは、女王陛下との謁見の予定を組みたいと相談してきたが、そもそも、なぜ俺は生きているのか? 生きているということは、血の贖罪の契約が無効になるのではないか? と頭の中でグルグルと考えたが、全く状況が分からなかった。


そもそも、俺は、女王陛下が住む場所に居るのだろうか。

「ここは王宮なのか・・・?」


王宮は、王都の中心にあることを当然、知っている。窓から草原や森が見える訳がない。しかし、マリーから少しでも情報を得るために敢えて尋ねたのだった。


「いえ。王室領レプリューム、首都ジャルダン・エデンにございます離宮シャトー・エデン。アンジェ・ガルディエーヌの本拠地でございます」


マリーは、聞いてもいないアンジェ・ガルティエーヌの本拠地を躊躇なく俺に教えてくれた。今更感もあるが、反乱を起こす前に必死で調べたアンジェ・ガルティエーヌの本拠地に関する情報が、思いもよらない形で知ることができた。

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