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62 入省式2 ~セントラル本部 大広間~

コツ、コツ、コツ

静寂の中、ラファエラが舞台上を歩く音が響き渡る。彼女がカウンターテーブル前に立ち「コホン」と右手を口元に当て可愛らしく咳払いをすると元気よく話し始める。


「初めまして。わたしも皆様と同じ新人です! 分からないことも多いですが、皆様と手を取り合いながら、女王陛下と陛下が愛する民のため、この身を捧げ・・・」


彼女は徐に両手を小さく握り、両手首を胸の前で折り曲げ、恥ずかしそうにポーズをキメて口を開く。

「一生懸命ご奉仕します。にゃん」

「よろしくおねがいします。にゃん」


ベールが邪魔して表情を伺うことが出来ないけれど、彼女が謎のポーズのまま固まる。最近、市街の喫茶店で流行っていると噂される家畜化された白毛の魔獣『シャブロン』の真似だろうか?公式の式典でおどける意味が分からない。頭の中で次々に疑問符が溢れ出し、思考がフリーズする。


「「「・・・・・(シーン)」」」」

想定外の挨拶に聴衆も誰もが完全に凍り付き唖然とする。誰も反応することができず、時が止まったかの様に誰も微動だにしない。凍てつく大広間で誰かがスッと立ち上がる気配を感じてハッと我に返る。


パチパチパチパチパチ!


満面の笑みを浮かべたアリシアが、ラファエラに向かって歩きながら拍手を始めた。彼女が拍手し終えると両手を広げて聴衆に語り掛ける。

「なんて可愛らしいのかしら? それに新人だなんて謙虚で素晴らしいわね!そう思わない?」


パチパチパチパチパチ!


大広間に集まる技官らは盛大な拍手と共に熱狂的な歓声を上げる。


うぉぉぉぉ!!!

「「「 ヴィーヴ・ラレーヌ! 」」」

「「「 ヴィーヴ・ラレーヌ! 」」」

「「「 ヴィーヴ・ラレーヌ! 」」」

(女王陛下万歳!)


熱烈な歓声の中、熱狂的な技官らが整然と居並ぶ人垣を掻き分けて、次々に進み出てきた。彼らは、舞台袖を埋め尽くし、両手を上げながら両膝を付いて懇望を始める。


「「「 漆黒の聖女さま! 祝福を! 」」」

「「「 漆黒の聖女さま! ご慈悲を!」」」

「「「 漆黒の聖女さま! 愛の力を!」」」


ヒィィィ!

舞台袖に集まる狂信的な技官らを見たラファエラの悲鳴が広間に響き渡る。彼女は仰け反りながら数歩後退りたじろいだ。


アリシアは、後退るラファエラの手首をガシッと掴むと逃がさないとばかりに不敵に笑みを浮かべた。怯えにも似た表情を浮かべるラファエラは、アリシアと向き合いワチャワチャし始める。


耳を澄ますと聞こえるか聞こえないかの小さな声で会話が漏れ聞こえてきた。

「彼らは祝福を望んでいるわ。答えてあげなさい」


ラファエラはアリシアに縋り付くと首を横に振りながら話し始める。

「アリシアさま。無理です。無理です。恥ずかしくて死にそうです」


アリシアは、恥ずかしさで混乱する彼女の頭を右手で優しく撫でると口を開く。

「彼らは、あなたの可愛さにメロメロよ? ほら、見てごらんなさい」


アリシアは、舞台袖に向けて左腕を大きく伸ばす。

彼女は、アリシアの左手指先が指し示す先を恐る恐る顔を向ける。


「ヒィィィ。目が血走っています!怖いです。怖いです!」

指先が示す場所にいた聴衆を見るや否や悲鳴を上げてアリシアに抱きつき涙声で訴えた。


アリシアは、右手人差し指を彼女のおでこに優しく当てながら口を開く。

「スネパラ・ファン・デュモンド。サヴァ・サランジェ・・・」

(Ce n’est pas la fin du monde. ça va s’arranger )


古の魔術詠唱に似た言葉が紡がれ、彼女の指先が強く輝きラファエラを包み込む。同時に二人の様子を見ていた聴衆が歓声を上げる。

うぉぉぉぉ!!!


歓声の中、アリシアとラファエラの会話が漏れ聞こえる。

「どのようなおまじないですか?」

「古のおまじないよ。怖い時に唱えると勇気が湧いてくるのよ!」


「ありがとうございます! あの方たちが赤目のラパンに見えてきました!」

「よかったわ。祝福できれば、特別にお休みをあげるわ」


「本当ですか!?」

「本当よ。その前に祝福なさい。ギューっとしてから、モミモミして、パッーとするやつよ?」


「わかりました」

真剣な面持ちでラファエラが一歩前に出た。

彼女は、佩剣の柄に手をかける。ガチャリと美しい音色と共にスカバードから細身の剣を引き抜くと刀身を胸の前で捧げた。


同時に、膨大な魔力が溢れ出す。

何と言えばいいのか・・・。人外の魔力だけれど機械的に増加していく魔力に違和感を感じる。聴衆は気にする様子もなく歓声を上げ、ある者は天を仰ぎ、涙を流し、床にひれ伏す。


ラファエラは、美しい声音で詠唱を唱える。

「ベネディクシオン・ドゥ・レスプリサン・・・」


詠唱が終わると同時に剣身に魔力が集中して、金色に輝き出す。右手に持つ剣を頭上に掲げて口を開く。

「私たちの門出に祝福を」


剣身に溜められた魔力が光となって大広間に解き放たれる。同時にシャボン玉のような色取り取りの大小様々な光の玉が現れ、空間に満ち溢れる。


うぉぉぉぉ!!!

技官らは雄叫びを上げながら、触れると消える不思議な光の玉を無我夢中で掻き集め始めた。同時に申し合わせた訳でもなく技官らが大連呼を始める。


「「「 ヴィーヴ・ラ・サントノワール! 」」」

「「「 ヴィーヴ・ラ・サントノワール! 」」」

「「「 ヴィーヴ・ラ・サントノワール! 」」」

(漆黒の聖女さま万歳!)


舞台袖に集まった技官らは、興奮が最高潮に達して絶叫し始める。

「もう死んでもいいわ!」

「すべてをお捧げします!」

「結婚してください!」

「お食事にいきましょう!」

彼らは大量の涙を流し、ある者は放心状態となってバッタバッタと床に倒れていく。


「あわわ・・・。ありがとうございました」

ラファエラは、スカートを少し摘み、チョコンとお辞儀をするとアリシアの背後に回り込んで身を隠した。


―――夢じゃないよな??

信じられない光景に、自分が寝ているのではないか?と疑ってしまう。太ももを軽く摘まむと痛みを感じる。現実で間違いなさそうだ。どうしたらよいかと思案する横で、コツコツコツコツと何かを叩く音がする。


音の主に顔を向けるとアンヌ・マリーが人差し指で肘置きを叩いていた。彼女は苛ついているのだろうか? 仮面で表情が読み取れないけれど、今の状況が不快に感じているはずだ。

「私たちは、何を見せられているのでしょうか・・・」


アンは、右手でおでこを押さえながら「はっ~」と深くため息を付くと呆れ声で話し始める。

「ええ。本当に。ガッカリよ・・・」


彼女の言葉から、ある程度事情を知る中、想定外の事態が起きたのだろうか? 詳しく聞くために口を開こうとするとカウンターテーブルに再登壇した総務局局長が、青ざめながら話し始める。

「閉式の辞に代わりまして、アリシアさまによる歓迎演奏をお届けいたします」


司会が声を震わせながら、演題の変更を告げる。

局長ともあろう者が怯えているのは何故だろうか? 逃げるように舞台裏に退場する彼の姿を目で追いながら、その理由が分からず不安が高まる・・・。


舞台中央に立つアリシアに視線を戻すと、満面の笑みを浮かべた彼女がマントの中から円錐形の金管楽器のような魔道具を取り出した。その瞬間、先ほどまでの喧騒が嘘のように会場が静まり返る。


アンと目と目が合い、彼女が席から立ち上がると真剣な表情で口を開く。

「直ぐに逃げましょう!!」


理由を尋ねる暇さえ与えられず、手首をギュッと掴まれ舞台裏へと引きずられるように歩く。他の騎士も血相を変えて「退避しろ!急げ!」と声を荒げて避難を指示した。広間に目を向けると局長が中心となって避難を呼びかけ始めた。


パパパパーン! パパパパーン!

高らかにラッパの音が鳴り響く。

ラッパの音は、一瞬で全ての窓ガラスを粉々に吹き飛ばす。舞い上がるガラス片は陽の光を浴びてキラキラと輝きだした。幻想的な景色に思わず「美しい」と口ずさむ。


ドォン!

ラッパの音に僅かに遅れて、暴力的な空気の圧が襲い掛かる。体がフワッと宙を舞い目の前の光景が走馬灯のようにゆっくりと変化し人々が宙を舞う。アリシアのラッパで死ぬのだろうか? ふざけた状況に怒りを通り越し笑えてきた。


突風の様な空気の圧が通り過ぎ、体が自由落下を始める。


バァン!

床にたたきつけられたのだろうか?強い音と衝撃を体に感じて意識を失った・・・。

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