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60 大鎌を持つ黒い天使3

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

クリステルの腕を引っ張りながら、再びアンティシャンブル前に辿り着く。右手で扉の取っ手を掴み、勢いよく開け放つ。


バァーン


扉を開け放つとお茶をワゴンに乗せて運ぶクロエとバッチリ目と目が合い彼女が固まる。プレッシャーを掛けすぎないようにと顔に笑みを浮かべて優しく話しかけることにする。

「アリシアさまはご在室かしら?」


ヒィィ


彼女は、怯えにも似た叫び声を僅かに上げて、半歩後ろに仰け反る。


「し、失礼いたしました。直ぐにご案内いたします」

彼女は、姿勢を正し表情を元に戻すと、冷静沈着を装いながらスカートを摘み軽くお辞儀をして非礼を詫びてきた。


そんなに驚くことないじゃない。逆にショックよ・・・。プレッシャーを掛けすぎないように「お願いするわ」と丁寧に語り掛ける。


「こちらへどうぞ」

クロエは、執務室前の扉まで私たちを先導して歩き始めた。別人のようにテキパキ動く彼女の姿に、やればできるじゃないと感心する。


ドンドンドンドン!


彼女が扉の前で立ち止まりノックする。その様子は、闇ギルドの取り立て屋にしか見えないわね。プレッシャーを掛けないように注意していたつもりだけれど、頭が混乱しているのかしら?


バァーン


彼女は、返答を待つことなく扉の取っ手を掴み豪快に開け放つ。


「きゃぁぁ!」

扉の解放と同時に、執務室の中からアリシアさまが悲鳴を上げる。クロエは大人しい見た目だけれど、怖いもの知らずで大胆ね!さすがの私も怖くてできないわ!今度お茶に誘おうかしら?


彼女は室内に一人で入ると冷静な声音で話始める。

「アリシアさま。アンヌ・マリーさまがいらっしゃいました。アンヌ・マリーさま。どうぞお入り下さいませ」


クロエの案内を聞き終えるや否や、間髪入れずにクリステルの腕を引っ張り執務室に飛び込み口を開く。

「アリシアさま!!」


「ビックリしたぁ! 揃いも揃って凄い剣幕ね? どうかしたの?」

ソファーからずり落ちて、テーブルとソファーの間に挟まるアリシアさまと目が合う。何をして遊んでいたのかしら?と沸々と怒りが込み上げてくる。


「どうかしたの?ではございません」


アリシアさまは座り直すと私から目をそらし、笑みを湛えてクリステルに優しく話しかける。

「あら? クリステルもいらっしゃい。話を聞くからお掛けになって」


ソファーを勧められて腰を掛けるとクリステルと話そうとするアリシアさまとの間に割り込み口を開く。

「クリステルは『私の騎士になりなさい』と言われたそうです!」


「あたりまえよ?ちゃんと伝えたわ!」

アリシアさまは偉そうに腕組みして、えっへん!と自信満々に胸を張りソファーで可愛くふんぞり返られるけれど、不覚にも怒鳴り散らしたい気持ちが和らいでしまう。


「ふぅ・・・。クリステルは騎士の自覚がありません」

C研で確認した事実をアリシアさまに伝え、騎士の自覚のないクリステルの目を見つめると彼女は口元に手を当てて困り顔でアワアワし始める。


結果的に言いつけることになってしまったけれど、そもそも自覚を持たせていないことが問題なのよ。視線をアリシアさまに向けると取り澄ました表情を浮かべて彼女は話し始める。

「それは本人の問題よ? 私は証をちゃんと渡したわ」


クリステルの手首に付けられたブラスレ・タンジェを露わにするため、彼女の左手を手で掴み、アリシアさまに見えるように持ち上げながら口を開く。

「はい。おっしゃる通り、ブラスレ・タンジェを確認いたしました。


アリシアさまは、すまし顔で無関係を装うけれど、やるべき手続きをしていないから騎士の自覚が無いのよ!忘れていると思われる手続きを思い出させるため口を開く。


「アリシアさま。クリステルがアルマの家で居候するしかない状況をご存知ですか? そもそも!彼女にお給料を支給されていますか? 騎士となれば専用の邸宅が与えられ、侍従も付けられます。対応されましたか?」


「ダンテスに話したわ!もし何もないなら彼が忘れたのよ?」

明らかに目が泳いで動揺なさっているわね!大声で反論なさって、ダンテスに責任を押し付けようとしているけれど絶対に逃がさないわ!


「話すべき相手は、現統括執事のセルバンです。お忘れですか??」


「ダンテスに話せば、セルバンに伝わると思ったのよ。ダンテスが忘れるはずがないから、セルバンが忘れたのね!きっとそうだわ」


今度はセルバンに責任を押し付けようとなさっているけれど、素直にご自分の責任だと認めないのはなぜかしら?


呆れて開いた口が塞がらないけれど、言い訳をさせないために畳み掛けるように話すことにする。


「ダンテスは、セルバンの補佐役からエリックさまの執事長に異動されましたよね? 大切な話を伝言したからミスが起きたと思いませんか? 未払いの給与も含めて、直ぐに対応してくださいませ!」


アリシアさまが怯むと透かさずキッと睨みつける。思い起こせば、ダンテスが統括執事の頃、アリシアさまはちゃんと仕事をなさっていたし、立ち振る舞いもしっかりしていたのよね。


セルバンに引き継がれてから、翼が生えた天使の様に自由に振る舞う様になったと思う。今度、クロエにアリシアさまの様子を聞いてみようかしら・・・。


ふっーっとため息を吐くと、アリシアさまはわざとらしく怯えた表情を作り、大げさに話し始める。

「今日のアンはもの凄く怖いわ!」


バァーン


私は手前のローテーブルを両手で叩いて、身を乗り出しながら口を開く。

「ふざけないでくださいませ!」


不毛な会話を断ち切るため一喝する。同時にアリシアさまとクリステルがソファーから飛び上がり、二人が血相を変えて口を開く。

「も、もちろんよ!瞼を開けるよりも早く対応するわ!あなたやクリステルの期待に答えて見せるわ」


「ごめんなさい!ごめんなさい!私がトロいからです。皆さんにご迷惑をお掛けしてしまって、本当にごめんなさい!」


二人同時に訳の分からないことを言い始めて頭が混乱し始める。クリステルを見やると彼女は両手を胸の前に合わせて涙目で懇願していた。あなたじゃないのよ?話がややこやしくなるからやめて頂戴!と頭を抱えたいけど、クリステルの不安をなだめる余裕もないので、彼女を抱き寄せ頭を撫でながらアリシアさまをキッと睨みつけて口を開く。


「次に! アンジェ・ノワールの件です。あの説明では納得できません!」

「何が問題なのよ?」

「城内で、アンジェ・ノワールの騎士がどのように思われているのかをご存じないのですか?」

「あなたがたが勝手に悪いイメージを持つからよ? 私は違うわ!」


頬を膨らませたアリシアさまと何度か言葉の応酬を繰り返す。さっきは『ギャップ萌えを狙ったわ』と話していたけれど、そんなくだらない理由で配属なんて絶対に許せない。改めてお考えを聞くことにする。

「理由をお聞かせいただけないでしょうか?」


アリシアさまは真面目な顔で間髪を入れずに口を開く。

「クリステルは、万物に命と力を与える聖霊の祝福を受けたのよ。『特別な存在』だからアンジェ・ノワールなのよ? わかった?」


諭すように理由を話し聞かされて、アリシアさまの意志が堅いことが分かったけれど、クリステルが不利益を被らないように釘を刺すことにする。

「左様でございますか。全く理解できませんが! もし、彼女に不利益がある場合、アリシアさまが先頭に立ち、お守りくださいませ。よろしいですか?」


「当然よ。悪魔ですら彼女に触れようものなら消されるわ!大丈夫よ!安心して?」

胸を張り、自信に満ちあふれた口調でアリシアさまは返答なさるけれど、私を安心させるためだと思われる言葉が気になって仕方がない。


「不穏な言葉に不安しか感じません・・・・」

配属先を覆せず、はぁ~と息を吐く。


目を瞑り他に手が無いかしら?と思案しているとクリステルが体をゆっくり起こして話始める。

「アリシアさま・・・、私はどのようにいたしましょうか?」


不安そうな顔で話すクリステルの言葉に続けて、私も言葉を続ける。

「そうです。そもそもアリシアさまが、『研究員』に拘る理由が分かりません」


彼女は、チラチラと私の目を見ながらバツが悪そうに理由を話始める。

「エリックとの約束なのよ?彼が望んだから約束を守らないといけないのよ」


私は呆れた気持ちを目いっぱい込めて、ジト目でアリシアさまを睨み付けながらエリックさまと交わされた決めごとを聞くことにする。

「どの様な約束を交わされたのですか?」


作り笑いを浮かべたアリシアさまは、身振り手振りを交えながら饒舌に話し始める。

「わたしは特別推薦枠を使おうと考えていたけれど、彼は、試験を受けさせろと言うのよ!クリステルは真面目だから、特別枠は嫌がると言うのよね」


アリシアさまは一気に言い終えると、テヘッと照れ笑いしながらペロッと舌を出す。流石に自分が何をしたのか気付かれた様ね・・・。呆れて物も言えないけれど、クリステルの意見も聞く必要がありそうね。

「その様な約束を交わされた中、騎士になされたのですか? はぁ・・・。分かりました。クリステル。今の話を聞いてあなたはどう思う?」


クリステルはソファーに座り直し、アリシアさまの目を見据えながら力を込めた口調で話し始める。

「私は、アリシアさまのご命令ならば何でも従います」


彼女の意志を確認して、私も透かさず言葉を添える。

「だそうです! 研究員を取り下げて、直ぐに騎士の通達を出してくださいませ」


アリシアさまはソファーから立ち上がり、パンと手を叩くと目を輝かせながら口を開く。

「それだと面白くないわね!サプライズをしましょうよ!」


「アリシアさま!!」

「「ヒィィィ!」」

二人の悲鳴が部屋に響く。

アリシアさまは、全く反省していないわね!小一時間、日頃の不満もぶちまけてから執務室を退室した。

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