表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/66

54 飛行船2 ~ラトリエ・デ・アンジェにて~

ラトリエ・デ・アンジェの片隅にある白い扉を抜けると、白を基調とした簡素なホールが広がっていた。彼女に先導され、ホールの奥へ進むと下へ下る螺旋階段が現れる。


所々に嵌められた色とりどりのガラスから差し込む陽の光・・・。

アリシアは、楽しそうに軽くスキップしながら階段を降り始める。赤いシンプルなミニワンピースのフリルが、一段一段下がるたびにフワフワと揺れ動く。普段、彼女の突拍子もない行動に振り回され、頭を悩ませているが、たまに見せる可愛らしい動きに、不覚にも愛らしさを感じてしまう。


階段を下ると、所々に照明が付けられた石造りの地下道を軽快に進んでいく。

道すがら、何処に向かっているのですか?と何度か聞いてみたけれど、口に指を当てて『秘密よ?』と教えてくれないのだ。暫く歩き続けると、上り階段とその先に、頑丈で無骨な扉が見えてくる。


ギギッー。

重い扉が軋む音を出しながら扉が開く。同時に明るい陽の光が飛び込んでくる。


―――眩しい。

目が慣れてくると、アーチ状の一切飾り気のない巨大な格納庫と巨大な格納庫目一杯に収納された円筒状の物体が目に飛び込んできた。物体は、製造中の様で、何人かの作業員が作業をしている様子が見える。


アリシアは、指を綺麗に揃えた右手を上にあげて自信満々に話し始めた。

「今日見て頂きたいのは、これよ!!」

挿絵(By みてみん)


目の前にある円筒形の物体は、この世界で既に運用されている魔力熱球にも似ているが、外観や形状は、前世の1900年代前半に活躍した飛行船に似ている。


しかし、見える範囲に動力源や推進機がない。国力を誇示するための大きな魔力熱球かもしれないが、特徴的な形状は必ず意味があるのだ・・・。


目の前の物体周りを彼女と一緒に歩きながら、俺は感想を述べる。


「陣地測地用や式典で使用される魔力熱球に似ていますが違いますね。空飛ぶ船?『飛行船』と表現すればよろしいですか?」


俺の答えに、アリシアは、両手を胸の前に合わせると嬉しそうに口を開く。

「飛行船!?ピッタリな言葉ね!この船は、魔力熱球を流線形にして、魔力の力で動かすことを考えているのよ? 今日は、船を動かすアイデアについて相談があるわ」


二人で飛行船の周囲をゆっくり歩きながら相談を聞いた。

「課題は、魔力を動力に変換する方法ですね・・・」


この世界は、石油や石炭が無いので、化石燃料由来の技術応用が難しい。

だが、数年前に、魔力と電気特性の類似性を発見してから、前世のエレクトロニクス技術が応用できることに気付いた。その成果の一つが、リボルバカノンだ。


そこで、リボルバカノンの魔術を応用した魔動機や人工魔石の魔力で沸騰させた水による蒸気タービンが思いつく・・・。


会話をしながら、右手で顎を触り変換魔術について頭をフル回転させて思案する。


そんな俺を横目にアリシアは、元気そうに手を振る。

すれ違う職人気質の作業員は皆、アリシアに「よぉ!アリス!元気かぁ」や「お嬢ちゃん!前の差し入れ美味かったぞ」など気軽に挨拶をしていくのだ。


二人で飛行船の周囲を一周回ると、自然と格納庫の外に出た。

一周回って思い付いたアイデアは、結局、蒸気機関と魔動機を動力源とするプロペラ推進。蒸気機関は、大量の水を抱えて飛行することになるので、移動距離も短く巨体になる。魔動機が現実的だろうか?


目を瞑り、腕組みしながら思案していると、アリシアが俺の顔を覗き込み話し始める。

「見てもらいたい魔術があるのよ」


完全に煮詰まっている俺の様子を見た彼女なりの気遣いなのだろうか?

ゆっくり目を開け、彼女と視線が合うと微笑み返答する。

「魔術ですか? 是非見せてください」


アリシアは格納庫正面の広い草原に進み出ると、彼女から膨大な魔力が溢れ出す。両手を大きく広げると、白金の髪が大きくなびく。全身の輝きが両手に収束していく様は、神々しさを感じる。まるで本物の『天使さま』だ。


彼女は、集めた魔力をゆっくり優しく愛でるように目の前に集め、球状の魔力の塊を作り出すと、ゆっくりと口を開く。


「まず、この丸い玉に強弱を付けた魔力を繰り返し流して、玉の中に空気を押し込むから見ていてくださる?」


魔力の動きに合わせて、周囲の空気がアリシアに向かい流れ始める。悪魔ベリアルも緩急付けた魔力を放射することで、暴風の様な風を起こしていたが、目の前の状況は、その逆。さしずめ魔力圧縮だろうか? 人外の魔力に固唾を吞みながら見守るしかない。


程なく、彼女は視線を上げ、魔力を流す手をそのままにして、ニッコリ微笑むと口を開く。

「出来たわ。次に、圧縮した空気の玉に、魔力をドーンと流すと、稲妻のように輝きだすわ!」


その言葉の瞬間、一気に魔力が注ぎ込まれると同時に、圧縮した空気が小さい太陽の様に輝きだす。前世、この輝きを何度か見たことがある・・・。


目の前の現象は、原子から電子が電離し、高エネルギーの電子とイオンに満たされた輝きに見える。このままでは、空気中の分子も連鎖的に電離し始めて、雷のように大地に放電を開始してしまう!

「あっ。アリシアさま! 空気が電離してプラズマ化しています!!危険です」


「これは、『プラズマ』と言うの? かっこいい言葉ね!」

彼女は、ケロッとしているが、魔力を注ぎ続けた圧縮空気は高温高圧のはずだ。想定通りなら生身の手は大やけどを負ってしまう。このまま続けさせれば、放電も追加され最悪な事態になる!止めなければ・・・。


「そうです!プラズマです!十分、確認しました! 直ぐに止めてください!」

「まだまだよ!!もっともっと輝かせてみせるわ!」

突如、光の玉が閃光を放ち、瞬間的に増幅した魔力が衝撃波として襲い掛かる。


閃光は収まるどころか増幅し始め、目の前がホワイトアウトし始めた。

アリシアを見失わないよう開け続ける目に、容赦なく光が飛び込む。

目に激痛が走り、アリシアがうっすらした影の様に消えていく。

制御できているかどうかも分からない。俺は大声で叫ぶ。

「もう十分です!本当に止めてください!」


ホワイトアウトした空間の何処からか暢気な声が聞こえてくる。

「もう心配性ね!わかったわ」


プラズマが消滅し、何事もなかったかのように、心地よいそよ風が通り過ぎる。

痛みが走る目を閉じ、目頭を押さえ回復を待つ。

回復も程ほどに急いで彼女の下に駆け寄り、跪くと口を開く。

「失礼します。お手を・・・。大丈夫ですか?手を火傷していませんか?」


開け続けることが出来ない目を瞬きしながら、柔らかな手を取り念入りに触診する。手に傷は無いようだ。胸を撫で下ろしホッとする。

「大丈夫よ? あなたは心配性ね」


あれほどの惨事に釈然としないが、彼女なりに対策をしていたのだろうか?無傷の理由を聞きたいけれど、聞けば同じ魔術を使いかねない。話を先に進めよう・・・。

「本当に、無理をなさらないでください・・・。今日の相談は、プラズマエネルギの動力化でよろしいですか?」


少し前に、飛行船の周りを歩きながら、彼女は『光る玉をフッーと噴く・・・』と話していた事を思い出す。意味が分からず聞き流したけれど、今の魔術を見て、その意味を完全に理解した。


俺の質問に彼女は満足そうに頷くと、嬉しそうに話し始める。

「そうよ! その通りよ。プラズマ化した空気を『フッー』と噴き出せば、飛行船を動かせると思うのよ? どう思う?」


今しがたご乱心あそばされた『白金の天使』さまと同一人物の言葉なのかと疑いたくもなるが、前世の知識すら斜め上から超えてくる彼女の発想に感心する他ない。


本来、『前世の進んだ科学技術の知識』は、圧倒的なアドバンテージを生み出すはずだ。しかし、その知識を知り、理解し、何故か分からなければ、大して役立たないということだ。


例えば、前世、プラズマを利用したものとして、人工衛星に搭載されるイオンエンジンが実用化されていたが、知っていた「だけ」なので、圧縮空気をプラズマ化する発想自体が思い浮かばないのだ。


「さすが、アリシアさまです。私は、魔動機によるプロペラ推進で船を動かそうと考えましたが、空気をプラズマ化して利用する発想が浮かびませんでした・・・」


アリシアのアイデアを称えて、遠回しに敗北を認めたが、彼女は気にすることもなくフッ~と一息つくと、不安そうな顔のまま同じ質問をしてくる。

「そう。分かったわ。どちらのアイデアでも良いのだけれど、実現出来るかしら・・・」


「魔動機であれば、直ぐにでも実現できると思います。将来的に、プラズマ推進魔術も実現できるのではないでしょうか」


俺の答えを聞いた彼女は嬉しそうに飛び上がると、上ずった声で話し始める。

「本当に?」

「ええ。大丈夫だと思います」


躊躇なく即答したが、リップサービスした訳ではない。

魔動機は、リボルバカノンの魔術を応用できるし、プラズマ推進は、前世のガスタービン技術を魔術として応用できるはずだ。そして、巨体を動かすため、より大きな人工魔石の開発も必要だ。

だが、とても手が回らない。頭を抱えたくなるが、そんな俺を気にすることなく、彼女は目を輝かせながら口を開く。

「エリックは、きっと手伝うはずだわ!」


俺の状況は、執務室で報告したばかりだ。

忘れるはずがない。優先すべき開発が山のようにあることも知っているはずだ。それどころか『真顔』でプレッシャーまで掛けてきた。


真意が分からない。

目先に目を奪われる状況を憂いているのか?将来への投資も大切だと俺に伝えているのだろうか?プラズマ推進を考えたアリシアのことだから、何か考えがあるのかもしれない。

「承知しました。私も興味があるので、手伝わせてください・・・」


アリシアは、目を輝かせて両手を胸の前に合わせると、嬉しそうに飛び跳ねて話し始める。

「やったわ!これで、みんなを空に連れていけるわ!」


―――空に連れていける???

飛行船は『将来への種まき』ではないのか? 俺の予想が一方的な妄想なのか?と不安になる・・・。想定外の言葉に、彼女の考えを聞くため恐る恐る口を開く。

「なぜ、空に行きたいのですか?」


俺の不安を知ってか知らずか、彼女は、つま先立ちで両手を広げてクルッと一回りしながら話し始める。

「空から眺める地上、雲の上で見上げる空、宇宙と地上の堺は絶景で綺麗なのよ? 絶対に見てもらいたいわ」


想定の斜め上を行く答えに、いつものパターンだよなと苦笑いがでる。肩の力が完全に抜けて気兼ねなく話すことにする。

「見たことがある言振りですね」

「そうよ? 何度も飛んで見ているわ」

「まさか、翼があるとか言いませんよね?」


「あるわ」

時々、アリシアの言葉の真偽が分からなくなるのだが、さすがに翼があるとか嘘だろう。彼女の言葉を適当に聞き流し、今日の相談を終えた・・・。

次回から、

クリステルの入省試験です。

彼女もAIに書かせてイメージ通りに出来ました。

是非見てください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ