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49 晩餐会3 ~大広間~

授賞式が終わると、晩餐会が催される離宮2階の大広間に移動するように促された。

大広間に入ると、高い天井から幾つも吊り下げられた荘厳な金色のシャンデリアが目に入る。シャンデリアがキラキラと輝く光が、大広間を美しく照らし出し、圧倒的な美しさに声も出ない。


目線を下げると、長テーブルが縦に4列並べて配置され、長テーブルを挟んで椅子が横並びに等間隔で置かれている。正面上座を眺めると、アリシアや王族が座ると思われる長テーブルが真横に配置されていた。


メイドに導かれながら、テーブルを見やると、純白のテーブルクロス上に背の高い金のキャンドルスタンドと装花が交互にズラリと並び、ピカピカの金食器とカトラリー、グラス、綺麗に畳まれたナプキンが整然と並べられ、華やかな雰囲気を醸し出している。


座席に案内されると、アンヌ・マリーとアーロンの間に案内された。アンは、数人の貴族に囲まれて、彼らの質問に答えている。俺は、アンと目が合い軽く会釈して、アーロンと軽く会話を交わすと、面識のない貴族や騎士に取り囲まれ、開式までの間、挨拶や質問を受けることになった。


暫くすると、楽団の演奏が始まり、アリシアの入場を告げる。会場の人々は一斉に起立すると、扉が開き、深紅のドレスに煌びやかなティアラを着けたアリシアや連合国の国王らが入場した。彼女らが正面上座の椅子に着席すると同時に会場の人々も着席し、男性給仕が、淡いピンク色をした発泡酒をグラスに注いで回る。


アリシアの乾杯の挨拶と共に晩餐会が始まった。

ジュースのように甘い発泡酒を飲み干し、着席すると、壁に控えていた女性給仕が、クラレットボトルを持ちアキテーヌ産の赤クラレットをグラスに注いで回る。クラレットは、前世の赤ワインに近い飲み物で、とても飲みやすいお酒だ。


同時に、銀製の大皿や鍋を抱えた何人もの男性給仕が、前菜、ヴイーヴルの赤身肉と香味野菜を煮込んだスープ、レヴィアタンのポワレ、ヴイーヴルのロースト、サラダを次々にお皿に盛り付けていく。その場で、お皿に盛り付ける量が調整できるので、女性に好評らしいのだが、いっぺんに盛り付けられるので直ぐに料理が冷めてしまうのだ。


お皿に盛り付けが終わり、グラスに口を付けてクラレットを少し飲むと、アーロンがいつもの明るい調子で話しかけてくる。

「リボルバ・カノンの威力に驚きました。ところで、魔術に名前を付けられましたか?」

「アリシアさまに、『ティル・オ・フュジール』と命名して頂きました。名前の意味は射撃だそうです」


一般的に魔術の名づけのルールは無いが、セントラルで開発された魔術は、古語で名付けられるルール。リボルバ・カノンはセントラルで開発された魔道具ではないけれど、悪魔襲撃事件で、ハンドカノンの攻撃を見たラファエラが、アンジェ・ガルティエーヌの武器として制式採用するからと魔術名を付けてくれたのだ。


魔術名を聞いたアーロンは、羨望の眼差しで俺を見ながら口を開く。

「あの様な簡単な仕組で、丸棒が動くことに驚きました。私の研究は、地味な通信魔術ですが、リボルバ・カノンのように、豪快にぶっ放してみたいものです!」


アーロンは、自分の研究を地味だと卑下するが、通信魔術は、人工魔石と同じく最高機密扱いで、軍事用に限定されているけれど、音声通信が可能なレベルまで進歩している。


一方で、他国の騎士団や、国内の領主軍は、未だ手紙や手旗、煙を使って交信しているのだから、情報量と正確性、スピードがまるで違う。レゼル王国が他国との戦争で負けない理由は、戦う前の情報の質に他ならないのだ。


彼が、何を望んでいるのか分からないが、人工魔石の登場で、通信魔術が民間に普及すれば、その影響は計り知れない。正に今、エネルギ革命が起きようとしているが、前世と同じ歴史を辿るならば、次は情報の時代。豪快に肉を頬張るアーロンに、俺の考えを伝えるため、グラスをテーブルに置いた。


「通信魔術が民間に普及すれば、経済が爆発的に成長します。アリシアさまもお喜びになるでしょう」


この世界のお金は、貴金属で出来ていて、お金の価値は、金や銀の『重さ』だと考えられている。現に、貨幣に数字が刻印されていないし、貨幣の単位は、重さの単位リブラだ。人々は取引のたびに、重い硬貨を持ち歩いてお金を支払っているから、お金が循環するスピードがとても遅い。


しかし、通信を使えば、お金の回転スピードが一気に上がるので、経済が成長する。俺の言葉を聞いたアーロンは、驚いた表情を浮かべて口を開く。

「なぜ、軍用の通信魔術で経済が成長するとお考えですか?」


「通信魔術で、お金を瞬時に移動できるようになるからです」

彼の質問に迷わず即答したが、前世、お金はデジタル通貨と呼ばれる2進法のデータ。お金はゼロと1の組み合わせで表示されていて実体が無いから、一瞬で送金できた。この世界の人々は、重さに価値があると考えているけれど、この考えは間違えている。


「本当に、通信魔術でお金を動かせるのですか?」

アーロンは、何を言い始めるのかと不審の眉を寄せ、疑いの目を向けてくるが、お金の価値は、重さの『数字』。例えば、紙に書かれた重さの数字もお金として通用するはずだから、通信機さえあれば、お金を一瞬で送金できる。


「動かせます。例えば、取引で、物と貴金属の貨幣を交換しますが、貨幣は、紙や紙に書かれた数字でも通用するものです」


前世、デジタル通貨の他に、高齢者は数字が書かれた紙幣を使用していたし、通貨の大半は、通帳に書かれた数字、預金通貨だった。全てに共通するのは、額面に釣り合う価値がない点と、数字に価値があることだ。アーロンは眉間にしわを寄せ、顎に手を当ててしばらく考え込んでいたが、頭を振ると口を開く。

「もう少し分かるように教えていただけないでしょうか」


突然、紙に書かれた数字がお金だと言われても分からないかもしれないなと考えて、具体例で説明することにする。

「両替商の帳簿上に書かれた数字もお金として通用するという意味です」


具体例で説明するとアーロンは、成程と小声で呟くと難しい表情を浮かべながら口を開く。

「帳簿上の数字がお金かどうか私には分かりませんが、通信で帳簿上の数字を人が書き換えれば、帳簿上の数字が移動できますな」


通信機を開発しただけあって、さすが理解が早いと感心し、グラスを手に持ちクラレットを飲み干すと、彼の意見を補足するために口を開く。

「その通りです。各都市にある両替商を通信で結び、ある人の帳簿上の数字を別の人の帳簿に数字を書き加えるだけで、お金が移動できます」


「帳簿に書かれた数字の書き換えを指示するだけの魔術にしか思えませんが・・・」

地味な方法に、彼は、ガッカリした表情を浮かべるが、各都市の両替商に通信機を配置するだけでも目に見えて効果が出るはずだ。なぜなら、新農薬で農産物の生産量が増加した影響で、盗賊が街道を走る現金輸送車を襲うことが増え、高速輸送網ターンパイクを運営する国営企業は、貴族から批判に晒されていると聞く。


通信があれば、現金輸送の頻度や量が減るから盗賊の問題は解決するはずだ。

「通信でお金を移動すれば、アリシアさまが頭を悩ませている盗賊の問題を解決できます。人の動きも、リボルバ・カノンの技術を応用した魔道具で、大幅に短縮されますから、数年後、何十倍ものお金が回り始めて、経済が急成長するはずです」


当たり前だが、人工魔石のエネルギや通信魔術だけでは経済は成長しない。人・物・お金は緊密に関係しているから、3つの質と量、スピードを同時に高めなければ成長しないのだ。アーロンは、盗賊の問題を解決できると聞いて身を乗り出して反応した。


「確かにその通りですな!王都に送金する金もあれば、王都から送金される金もある。月当りで計算すれば、現金が動く量をグッと減らせる。ただ、両替商を信用できますか?」


「国が両替商を営むか、国が両替商を認定すれば、信用が担保されると思います」

両替商は、外貨の両替や商人の貯金の受入れ、貸付などを行い、前世の銀行に近い仕事をしている。彼らが、通信で帳簿に書かれた数字、預金通貨を移動すれば、幾らでも改ざん出来てしまうから、国の役割が重要になると思う。


アーロンは、グラスのクラレットを一口飲むと、目を輝かせながら語り始める。

「なるほど。通信魔術と両替商を抱き合わせる発想は革命ですな! まさか、経済にも精通していたとは驚きました! エリック殿のアイデアを私に頂けないですか?」


彼の言うとおり、新しい価値は、ゼロから生み出す必要はない。今ある2つ以上の価値を組み合わせることでも生まれる。例えば、通信機は、人工魔石と魔杖を組み合わせた革新的な魔道具だが、通信機と両替商とを組み合わせれば『銀行』になるし、通信機と新聞とを組み合わせれば『無線放送』になる具合だ。


通信の重要性に気付いた彼ならば大丈夫だろうと思い、任せることにした。

「かまいません。是非、ご検討ください」

アーロンは、満面の笑みを浮かべると、グラスを掲げてクラレットを一気に飲み干した。


「ところで、クリステルは如何ですか?」

通信の話が一段落したので、研究員のアルマと一緒に暮らしているクリステルの最近の様子を確認することにした。彼は、腕組みしながら首を傾げると口を開く。


「婚約者殿は、最近見かけませんな。アンヌ・マリーさま。何かご存じですか?」

アーロンは、黙って会話を聞いているアンに話を振ると、彼女は、グラスのクラレットを少し飲み、ニッコリと微笑むと俺の目を見ながら話し始める。


「私の研究室に遊びに来ているわ。いつも二人でお茶しているのよ」

レゼル王国で最も治安が良いセントラル本部で勉強してくれているので安心なのだが、元宮廷省の技官とはいえ、一般人扱いのクリスが、立ち入り制限がある研究エリアへ入場出来るのか?と腕組みして考えていると、アンが俺の顔を覗き込んできた。


「エリックさま。わたしにも新しいアイデアを頂けないかしら?」

自然に話が打ち切られたように感じるも、ダンテスに調べさせればよいと考えて、各都市に建設する魔力発電所の話を二人にして、晩餐会を終えた。

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