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46 魔獣ヴイーヴル4 ~第一野外演習場~

「下に降りる階段がございます」

高台脇に接地されている古びた階段を見つけたブランが、手を上げて大声で叫び知らせる。ガルムがバリゲートを乗り越え、何時襲ってくるか分からない。古びた扉を急いでこじ開けて、慎重に階段を下りていく。階段を降りると高台の上からガルムの吠える声が小さく聞こえたが、振り返ることなく、ヴイーヴルの落下地点に急いで向かう。


落下地点が見えてくると、上顎と片翼が吹き飛んだ血まみれで目を閉じたヴイーヴルが見えてきた。


「死んでいるでしょうか?」

ブランの呟きのような言葉に、俺も死んでいると思う。しかし、死ぬ間際に起き上がろうとしたのか、両手、両足の爪を地面に突き立てた状態で頭を地面に伏しているので、遠目で寝ている様に見える。魔獣の頂点に立つヴイーヴルの姿は、死してなお威厳や品格さえ感じられた。


「そうだな・・・」

俺はブランの意見に同意し、頷き答えると、ゆっくりとヴイーヴルに近づく。


「どうしますか?」

ブランの問いに、ヴイーヴルを安らかに眠らせてやりたい気持ちもあるが、目の前の魔獣は、毛の一本まで値が付くほど貴重な素材の塊で無駄がなく、体内に大量の油がある『フラム(火属性)・ヴイーヴル』なのだ。


油は、結合剤を作る貴重な材料の一つ。

前世、原油は湯水のように油田から沸いて出てきたが、この世界に原油が見当たらないため、原油の代替油は、魔獣由来の油を使用するしかない。


そして、目の前のヴイーヴルを解体すれば、当面の間、必要な油を確保することができる。横たえるヴイーヴルの表皮に触れながら、状態を確認するとブランの質問に答えるため、口を開く。


「革や鱗、爪、歯、角は防具や武器、骨は農薬、肉は食用、油は魔石作り、脂肪は最近流行りの石鹸の材料になるらしい。アリシアさまに解体をお願いしよう」


「油が魔石造りの材料なのですか?」

ブランは驚きの表情を浮かべて話したが、人工魔石の造り方は、関係者を除いて、アンヌ・マリー付きの技官たち以外に誰にも開示されていない。結合剤の作り方は、俺とクリステルしか知らず、アリシアやアンヌ・マリーは目下、勉強中だ。


「そうだな。バイタルレコードだから詳しく話せないが、油から作られる材料を使う」

結合剤は、油由来の合成樹脂の一つ。

合成樹脂は、油を加熱、蒸留して得られるナフサを更に加熱分離して得られるプラスチック原料に、魔獣の溶解液を反応させて作られる。


前世、原油から大量の合成樹脂が造られ、身の回りに溢れていたけれど、原油が無いこの世界で、合成樹脂の材料、ナフサを精製する油は、火属性の魔獣から取り出すしかない。


機密情報を聞いたブランは、背筋を正し話し始める。

「魔石に油を使用する情報は、機密扱いで承知しました。ガルムも油があるので、後ほど油を採取いたしましょうか?」


ガルムも火属性で、油が採れるのだが、油の色が黒く、前世で残油とされた重油やアスファルトが多く含まれている。合成樹脂に必要なナフサが少ないので、扱いに悩んでいたが、魔石を焼結する燃料として使えることを思い出す。

「そうだな。ガルムもアリシアさまにお願いしよう」


「かしこまりました」

ブランの返事を確認してから、彼とともに、ヴイーヴルの周りをゆっくり歩き、損傷部位を確認した。暫くすると馬に跨り、駆けつける人々の集団が遠くに見えてくる。


アリシアと護衛のアンジェ・ルージュの騎士達だろうか? 俺は、位置を知らせるため手を振ると、アリシアが嬉しそうに手を振り返して答えてくれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ヴイーヴルの擱座地点に到着したアリシアは、赤いマントとジャケット、胸元の大きな赤いフリル・リボン、黒いキュロットとブーツに着替えていた。


馬から降りた彼女は、俺の目の前に駆け寄ると、胸の前で両手を握り、上目遣いで心配そうな声音で話し始める。

「エリック! だいじょうぶ?」


アリシアの表情や口調から、本気で心配してくれていると感じたが、何故か解せない。ヴイーヴルだけならば、労せずして倒せたが、次から次に襲い掛かる大量のガルム。一歩間違えれば、死んでいたのは俺とブランだ。


「ヴイーヴルと大量のガルムに襲われましたが、問題ありません」

解せない理由は、ダンテスの忠告も一因だ。しかし、彼の話が本当かどうか分からないのだからと、怒りたい気持ちを押さえて、口先まで出かけた言葉を飲み込んで『問題ない』と伝えたのだ。


俺の言葉を聞いたアリシアは、胸をなでおろして、嬉しそうに話し始める。

「安心したわ。ところで、凄い攻撃魔術ね! 向こうまで攻撃と轟音が届いていたわ」


「恐れ入ります」

アリシアの言葉に、リボルバ・カノンの弾丸から発生した衝撃波とその轟音でガルムが集まってきていたことを思い出し、ブランを危険に晒したことに申し訳ない気持ちが溢れだしてきた。


気持ちが沈んでいく俺に全く気が付かないアリシアは、ヴイーヴルを見て、驚きながら口を開く。

「ヴイーヴルは、ボコボコね!」

「はい。このヴイーヴルと高台でガルムを山積みにしました。ご確認ください」


「ありがとう!エリック」

ヴイーヴルとガルムの献上を伝えると、アリシアは目を輝かせながら何度も飛び跳ねた。魔獣を解体して売れば、平民が10年働かずに、生きていけるお金になる。国家予算に比べたら僅かな臨時収入だけれど、アリシアは、お金に細かいので僅かな収入でも喜ぶのだ。


俺は、鼻歌交じりでヴイーヴルに触れているアリシアの傍に立つと、最も重要なことを彼女に伝えるため口を開く。

「お願いがございます。アンヌ・マリーさまに、ヴイーヴルとガルムの油をご支給していただけないでしょうか」


「かまわないけど、ねちょねちょした白い油の塊でいいの?」

「いえ。脂肪ではありません。照明用に使われるヴイーヴルの油と黒くドロドロしたガルムの油が必要です」


「分かったわ。アンに渡すように指示するわ」

周りに護衛の騎士、遅れて技官や貴族の姿もチラホラ見え始めて、アリシアと俺の会話を誰でもきける状況になりつつある。


あまり大きな声で具体的に話すのも不味いなと感じて、結合剤の材料として使用することに気付かせるため、強く念押しすることにする。

「貴重な油。液体です」

「分かっているわ」

アリシアは小さな声で念押しに答え、真面目な顔で頷くと、俺の右手に抱えたリボルバ・カノンをマジマジと見つめながら、不思議そうに話し始める。

「ところでエリック。リボルバ・カノンの見た目が変わっているけど、どういうこと?」


俺は、リボルバ・カノンが見えるように両手で抱えると、彼女の問いに答えるため口を開く。

「何が起きても対処できるように、準備した結果でございます」

オリジナルは、6本のバレルを備え、射撃ごとにバレルを回転させて、空気で砲身を冷やしていたけれど、構造が複雑で重かった。


強化品は、空冷方式を廃止し、この世界で夏場、食品庫の冷却に使用されていた魔術『魔力冷却』を採用した。空冷式の廃止で、バレル1本化による構造の簡略化、小型軽量化が実現できたことで、バレルを延長する余裕が生まれ、加速域を伸ばすことで威力を更に高めたのだ。


魔力冷却は、元々、魔杖に魔力を流した後、杖が冷える現象を応用したものらしい。前世、磁性体を磁化と消磁することで、加熱、冷却する磁気冷却の技術に似ていることに気付いて応用することを決めた。


アリシアは、両手を合わせて驚きの表情を浮かべて叫ぶ。

「さすがエリック! 最強の騎士ね!」

俺は、笑顔を顔に張り付けながら右手を胸に当て、軽く頭を下げて答える。

「臣下として、陛下のために力を振るえたこと。大変、幸せでございます」


アリシアは、頭を下げた俺の顔を覗き込むと、不安げに尋ねてくる。

「もしかして、怒っている?」

俺は、下げた頭をもとに戻すとダンテス直伝の愛想笑いをしながら、彼女に答える。

「いえ。怪我のない陛下のお姿を拝見できて、安心いたしました」


アリシアは頬を膨らませ、左手を腰に当てながら、俺の顔に右手人差し指を差し向けると動揺しながら慌てて叫ぶ。

「ぜーったい、ぜーったい、怒っているわ!ダンテスと同じ作り笑いが証拠よ!」

俺は、アリシアの目を見つめながら、ニッコリと微笑み口を開く。

「クリスのお約束を守って頂けるのです。たとえ、魔王と対峙したとしても喜んで陛下の盾となりましょう」



「あ! あっ・・・ぶらは、まかせてちょうだい」

激しく動揺するアリシアに、嫌味を言いすぎたかなと反省し、いつも通りの顔と態度でアリシアに答える。

「油ですか? アリシアさま。油がどうかなされましたか?」

動揺が収まらないアリシアの顔をジッと見つめながら、隠しごとがあるのではないかと詮索していると、彼女は作り笑いをしながら、強めの口調で話題を変えてくる。


「何でもないの。勘違いよ! ところで。刀も変えているわね!」

アリシアの問いに、両手で刀を捧げるブランから刀を受け取ると、人工魔石を入れた圧力容器と刀とを繋ぐケーブルをアリシアに見せて、詳しく説明するために口を開く。


「刀にアリシアさまにご支給して頂いた魔石を繋げました。人工魔石がベースロード、体内の魔石がピークロードの魔力を出力するように調整して、劣化対策をしました。しかし、実戦で、魔力波の振動が人工魔石に伝わり魔石の劣化が抑えられませんでした・・・」


一通り説明を終えるとアリシアは、明らかに上の空で、人の話を聞いていないように見える。アリシアの顔を覗き込むと、俺に気付いたアリシアが、我に返り答える。

「そ、そう! 残念ね!」

「アリシアさま。上の空ですが・・・。如何なさいましたか?」

「ちゃんと聞いているわ! 時間が無いわね。今度、ゆっくりと教えてくださる?」

「かしこまりました」

アリシアは、晩餐会を理由に話を打ち切ると、「さぁ!パーティーよ!」と大声で叫びながら、そそくさと逃げるように離宮に戻っていった。

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