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43 魔獣ヴイーヴル1 ~第一野外演習場~

暫くして、天幕から飛び出した騎士の一人が速足で会場に戻ると、アリシアの前に跪き、報告を始める。

「陛下。上空に大型魔獣ヴイーヴルが出現いたしました。直ちに避難をお願い申し上げます」


騎士の報告を聞いた貴族は、我先にと天幕の出口に駆け出し、逃げ始めた。アリシアは、席から立ち上がると、俺の前に駆け寄り、両手を胸の前で合わせながら上目遣いで話し始めた。

「エリック助けてー☆」


わざとらしく目を潤ませたアリシアを見ながら、ダンテスの忠告通りの事態に自作自演だよな!?と思いつつも天幕内に居続けるのも危険だ。アリシアは、緊迫した状況を気にすることもなく、ラパンのように何度か飛び跳ねて、両手を頬に当てながらクネクネしている。

「アリシアさま・・・」

「きゃー☆ 私を守って☆」


俺は、アリシアの右手を丁寧に取ると、彼女を真剣な目で見つめながら口を開く。

「ここで、空を舞う魔獣と戦う手段がございません。逃げましょう」

「えっ?」

俺の言葉を聞いたアリシアの目が点になりフリーズする。回りくどい言い方が分からなかったのかもしれないと、具体的に話すことにした。

「リボルバ・カノンが手元にありません」


状況を理解したアリシアは、両手を頬に当てて、慌てふためいた表情で叫んだ。

「えぇ―――!!!どこにあるの?」

「演習場です・・・」

事前の打ち合わせで、持ち運びが大変だから演習場に設置しておくと、何度も何度も念押ししたが、何を聞き間違えて研究報告会に持ち込むと勘違いしたのだろうか?と頭が痛くなったが、今更、考えても仕方がない。


アリシアは、叫びにも似た声で俺に指示を出すため口を開く。

「すぐに持って来て頂戴」

「かしこまりました。アリシアさまは避難をお願いします」


アリシアが頷くと、俺は右手を胸に当て、頭を軽く下げると外に向けて駆け出した。同時に大きな声で呼び止められる。

「エリックさま! 魔石をお持ちください」


アンが、宝石箱から魔石を取り出すと、右手を伸ばし俺に差し出す。リボルバ・カノンを天幕に運ぶことだけを考えていたが、移動中に戦闘になる可能性もあることに気付き、アンが持つ魔石に手を伸ばす。

「お借りします」


心配そうな顔で見つめるアンから魔石を受け取ると、天幕の外に飛び出した。上空を見上げると、地上の様子を伺い、旋回しながらゆっくりと降下する魔獣が見える。


全身が、黒っぽい赤色をした巨体から、フラム・ヴイーヴルだろうか? フラム・ヴイーヴルは、炎を吐くので厄介だが、魔石作りに必要な原料の一つ、油が沢山採取できるので貴重だ。


ヴイーヴルは上空を飛行しているが、爪や目が目視で見えるほどの高さまで降下している。火炎放射が始まる高度まで猶予が無いように感じた。俺は、ヴイーヴルを横目で見つつ、演習場に設置したテントまで全力で走る。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

テントに到着すると、技官らが射撃台に固定設置したリボルバ・カノンの取り外しを終え、荷物も纏められ、局長のレオンが、避難する者と天幕に向かう者の人選をしていた。想定外の出来事に狼狽えず、自ら考え行動しているレオンに、さすが局長だなと感心する。

俺の到着に技官のレオが真っ先に気が付き、一歩前に出ると慌てた様子で話し始めた。

「エリックさま!ヴイーヴルが現れました!」


俺はレオンの肩に手を乗せ、「よくやってくれた」と声を掛けながら、机の上に置かれたリボルバ・カノンまで進み出るとレオに状況を確認するため質問する。

「分かっている。直ぐに打てるか?」

「魔石を繋げれば打てます。榴弾も装填済です」

レオは緊張のためか、顔を引き攣らせながら大声で答える。彼は、初めての実戦だろうか?と思ったけれど、確認している余裕などない。リボルバ・カノンの可動部を手動でガシャガシャと動かし、弾丸の装填と作動を確認する。異常はない。


「よし。荷物を持ち、全員塹壕に避難しろ」

俺はリボルバ・カノンを担ぎ、テント内の技官らに避難を指示した。俺が避難せず別行動すると察したレオンは心配そうに話しかけてくる。

「エリックさまは、いかがなされますか」

「アリシアさまの命令を受けているから別行動だ。レオン。部下たちを頼む」


レオンは、黙って俺の目を見つめてから静かに口を開く。

「お任せくださいませ。ご武運を・・・」

局長のレオンを筆頭に、技官らは胸に手を当て、俺に頭を下げた。しかし、一向に避難しようとしない彼らに、「走れ!」と言うと、バタバタと避難し始める。全員がテントから出ていくのを確認すると、武官のブランだけが俺の目の前に跪き、話し始めた。


「エリックさま。私もお供します」

彼は、王立レゼル士官大学校から、王立軍事研究所で魔術博士号を取得した武官のエリート。士官大学時代に騎士としての正規訓練や、実戦経験もあると言っていたので、足手纏いにはならないはず。


正直な所、護衛がいなければ危険だと思うので、彼の申し出はありがたい。しかし、『アリシア劇場』に付き合い、彼が大けがをして、将来を棒にふるリスクを負わせる訳にもいかない。俺は、一瞬、目を閉じ考えて、結論を伝えるため口を開く。


「だめだ。塹壕に行け」

俺の言葉に彼は一歩も引かず、食い下がってきた。

「ヴイーヴルの叫びで、他の魔獣を呼び寄せた可能性があります。射撃時、無防備になるので護衛が必要です。必ずお役に立ちます」

彼の目は真剣だった。

付いてくるなと言っても付いてきそうな強い信念を感じる。


「・・・分かった。俺の刀。リュミエール・エタンスラントを使え」

ブランは、アンジェ・ガルティエーヌの騎士に貸与される刀を、恐れ多いと受け取ろうとしなかったが、半ば強引に押し付け受け取らせる。この刀は、魔力を流すと刀身に電撃を纏うため、掠るだけでもダメージが入る。


しかし、魔力を食うので長時間の使用に向かないのだが、以前、リボルバ・カノン用にとアリシアから支給してもらった人工魔石を使い、魔改造したことで使いやすく、潤沢な魔力で魔術のバリエーションも増えた。

「時間がない。いくぞ!」

「かしこまりました」

俺は、ブランに刀の使い方を教えながら、ヴイーヴルが降下しつつある現場に急いだ。

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