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42 研究発表4 ~第一野外演習場~

俺は、席から立ち上がり、会場の人々に向けて、挨拶するとメイドに案内され、正面に貼られた大きなポスター資料横に設置されたカウンターテーブル前に登壇した。


「只今、ご紹介いただきましたエリック・ルネソンスでございます。本日は、20分ほどお時間を頂戴し、マジッククォーツサンドの結晶体を利用した魔力加速器の構造と、その基本原理について、ご報告させていただきます」


題目を、理解できなかったのか、多くの参加者が首を傾げている。無論、研究者でない貴族が参加しているので、専門的な話をするつもりはない。興味や理解を促すため、簡単な実験装置も用意している。一々気にしていても仕方ないので先に進めることにした。


「私たちの活動に欠かせないエネルギ。身近なエネルギとして『魔力』がございます。人体の魔力は、熱や電気、光など素早くエネルギ変換することが出来ますので、汎用性が高く、生活、医療、国防など幅広く利用されております。しかしながら、人体の魔力は、エネルギ量が少ないという問題がございます」


俺の言葉に会場がざわつき、一部の貴族から不満や憤り、怒りの眼差しが俺に向けられ、ヤジが飛んできた。


反発の理由は何となくわかる。この世界で、聖教会の熱心な信者は、魔力は『霊的なもの』で、神が人に与えたギフト。魔術は神の奇跡だと本気で信じている。


特に、聖教会との繋がりが深い王族や貴族が信じている考え方だ。その価値観を持つ貴族がいることを知りつつ、俺は魔力を『エネルギ』だと言い切ったのだから、反発は当然だと思う。しかし、アリシアは、『事実なのだから、そのまま話しなさい』と事前に指示したのだ。


ヤジが収まる様子の無い会場で、舞台袖の年配技官は「ご静粛にお願い申し上げます」と何度か丁寧に発言したが、一向に収まらず、アリシアが「静かにしなさい!」と一喝すると、ヤジを飛ばしていた貴族達の顔が一斉に青ざめ強張る。


なぜなら、アリシアの言葉は、事前に発表内容を承知していることを意味するからだ・・・。顔を強張らせ、驚きの表情を浮かべる貴族を横目で見つつ、俺は話を続けるため口を開く。


「更に、私たちには、魔力から仕事、つまり、『動力』を得る手段がございません。動力を得る手段がないため、馬車は馬が引き、農民は人力で田畑を耕し、人々が機織りをしております。これらの労働は、すべて動力で置き換えることが可能でございます」


貴族達から向けられる懐疑的な視線とは裏腹に、騎士や局長級の技官らからは、好意的な視線が一斉に向けられる。なぜなら、セントラルで魔力は、体内の魔石から得られることが常識。魔力に神と人の繋がりを見出すことをせず、論理的なものとして捉えているからだと思う。


一方で、セントラルでも科学に対する偏見は根強く、『科学』という言葉さえ使うことを避けている。会場の雰囲気に流されて、思い付きで言葉を使わないように細心の注意を払いながら、更に話を続けた。


「一般的に、知られておりませんが、私たちが普段利用する熱や電気は、動力に変換することが可能でございます。しかしながら、複雑な『魔術』の組み合わせと変換過程の損失が大きいという問題がございます。そこで、本研究では、魔力を直接動力に変換する『魔術』についてご報告させていただきます」



俺は、導入部の説明を一通り終えると、魔力加速器の基本原理を説明するため、カウンターテーブルから、正面に貼られた4枚の大きなポスター資料横に移動する。


「こちらの図をご覧ください。魔力を良く流す金属フェールに魔力を流すと、魔力の流れを中心に同心円状の魔力場が生じます。この魔力場の流れに垂直に魔力を流すと、魔力場と魔力の流れ方向に垂直な方向に力が発生いたします。図の説明では分かりにくいかもしれませんので、今から簡単な実験装置で、魔力を力に変換する魔術をご覧いただきましょう」


舞台袖で控えている2人のメイドに目配せすると、合図に気付いたメイドは、実験装置が乗せられたキャスター付きのテーブルを2人で押して、ステージ中央まで運んできた。俺は、実験装置の傍に立つと、机上の実験装置を説明するために口を開く。


「こちらの実験装置は、フェール製の2本のレールと、2本のレールを跨ぐように置かれた同じくフェール製の丸棒でございます」


金属フェールは、魔力を良く流すため、魔杖や魔刀などの武器や魔道具の材料として昔からよく利用されているため、改めて説明する意味がない。


俺は、長さが1,500ペデスの2本のレール上に跨いで置かれた丸棒を手に取り、会場の人々に見えるように掲げると、実験装置の構造を説明しながら、再び、丸棒をレールに跨がるように置いた。


次に、2本のレールの端部を両手でつかみ、続けて説明するために口を開く。

「まず、2本のレールの両端を手で持ち、魔力を右手からレールに流し、丸棒を経由して左手に戻します。この時、目で見えませんが、レールを中心に魔力場が生じます。この魔力場に垂直な丸棒に魔力が流れると、丸棒がレール上を転がり始めます」


説明を終え、魔力を右手からゆっくり流すと丸棒がカタカタと小さく音を立てて振動し、魔力を強めに流すとゆっくりと転がり始める。


会場から、「おぉー」と驚きの声が上がると、何事が起きたのかと、会場後方に座る人々が、実験装置を見ようと何人も立ち上がる姿が見えた。会場の険悪な雰囲気が徐々に好意的なものに変わり、好奇心で満ちていく雰囲気を感じて内心ホッとする。


俺は、魔力を流す方向を変えるため、一旦、レールから手を離し魔力を止めると、会場の人々を見渡した。


「次に、魔力を流す向きを変えるため、左手から魔力を流します」

再び、レールを掴み左手から魔力を強めに流すと丸棒が動き、ゆっくりと戻ってきた。会場から、再び「おぉー」と驚きの声が上がる。


「以上の実験結果から、魔力の流れと魔力場、力に相関関係があることが分かります。より専門的な説明は、次回のセントラル研究報告会で説明させていただきます」


この場は、研究者でない貴族がいるので、専門的な説明をしても意味が無い。そこで、この原理の利用方法の一つにフォーカスして説明するため口を開く。


「このように、魔力場に魔力を流すと力に変換されます。この新しい原理を活用した魔術は、弾丸の射出、馬車や船の動力などに応用可能でございます。次に、魔力を力に変換する魔術を応用した、魔力加速器についてご説明させていただきます・・・」


舞台袖で控えていた2人のメイドに再び目配せし、実験装置が乗せられたキャスター付きのテーブルを下げさせると、俺は、正面に貼られた4枚の大きなポスター資料横に移動する。



ギャアアアーーーー



突如、辺り一面に、耳をつんざく悲鳴のような叫び声が聞こえた。天幕越しに走り回る人々の慌ただしい足音や叫びにも似た大声が聞こえる。会場の貴族達は何事かと立ちあがり、ざわつきはじめ、会場の何人かの騎士は、状況を確認するためだろうか、天幕から外へ飛び出していった・・・。

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