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40 研究発表2 ~第一野外演習場~

朝、ダンテスの意味深な忠告を受けて、演習場内のテントの一角で、リボルバ・カノンの強化部品の取付やら発表準備をバタバタと終えて、昼食を掻き込むように食べた。その後、一息つく間もなく、開会式が行われる式典会場へ徒歩で向かっている。


朝の段階で、準備が終わるのかと冷汗が出たが、無事に終えることが出来てホッとした。空を見上げると、透き通るような青い空。青い空に浮かぶ、綿毛のような白い雲。心地よい風を感じながら、目線を下げると、広大な芝生の上に常設されている大きな式典会場が見えてきた。


会場に到着すると、芝生の上に幾つもテーブルと机が並べられ、巨大な野外ステージの手前のオーケストラピットで、楽団が奏でる優雅で華やかな音楽が人々を迎えている。どこかで聞いたことがあるような旋律が流れ始める。


確か、パッヘルベルのカノンだろうか・・・? 前世の記憶にあまり執着はないが、妙に懐かしく感じていると、一人のメイドが俺に近づき、スカートの裾を持ちお辞儀をすると、座席まで案内するため先導して歩き始めた。


移動中、面識のある騎士に軽く会釈や握手、挨拶を交わしながら座席に付くと、音楽の演奏が止み、会場が静けさに包まれる。舞台袖のカウンターテーブルに一人の男性が登壇するとゆっくり話し始める。

「女王陛下がご入場されます。ご起立くださいませ」


会場の全員が一斉に立ち上がり、男性は右手を胸に当て、頭を下げ、女性はスカートの裾を持ち、膝を曲げてお辞儀を始めた。同時に、オーケストラが壮大な音楽を演奏し始めた。この旋律は、何だったか?ワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガーに似た曲だった。


元々、音楽に興味はないが、前世、国際学会の授賞式やレセプションパーティ、現地の観光で訪れた教会など、生オケの演奏を聴く機会が多く、式典で流される音楽、レセプションのダンスパーティーで意気投合した女性研究者を誘いダンスしたワルツなどを思い出し、不思議と懐かしく感じた。


ジャンや俺のほかにも同じ世界の前世の記憶を持つ者がいそうだなと考えていると、腰に大きな赤いリボンを付けた真っ赤なドレスに、頭に大きな赤いリボンを付けたアリシアが、6人のアンジェ・ルージュの騎士を従えて、ステージに入場してきた。


アリシアが、ステージ中央のカウンターテーブルに登壇し、6人の騎士が彼女の後ろに控えると音楽がピタリと止み、静寂に包まれた。事前に、実射テストだと聞いていたのだが、予想していた状況とまるで違う。


アリシアは、右手でテーブル上に置かれたマイクのような魔道具を引き寄せると演説を始めた。


「統一歴1945年6月17日。今日のこの日は、この世界の歴史における時代の大転換点となります。よく覚えておきなさい。私たちは400年間、文明や文化の大きな進歩がなく、長きにわたり変化のない時代を生きてきました。そして、内乱や戦争を繰り返し、人類は徐々に衰退しています。しかし、衰退は今日で終わりを告げ、私たちは、新たな時代に向けて成長していきます」


アリシアは、身振り手振りを交えながら力強く、時に優しく、希望を感じる声音で会場にいる人々に語りかけた。


すっかり忘れていたが、『白金の天使』と呼ばれていたことを久しぶりに思い出した。彼女の話す内容に感心していると、アリシアは演説を続けた。


「この後、直ぐに私たちは時代の転換点を目の当たりにします。そして、世界がこれまでと同じものではなくなります。新たな時代は、変化を受け入れる者が勝者となり、変化を受け入れず抵抗する者は敗者となります」


アリシアの言うとおり、人工魔石の登場は時代の転換点となるはずだ。恐らく、前世の産業革命と同じか、それ以上のインパクトになると思われる。


しかし、この世界の人々は、400年間、変化のない世界で生きてきた。変わらないことが当たり前で、変わらないことが普通なのだ。


今まで正しいと信じてきた価値観を捨て、新たな価値観を受け入れることは簡単な様で簡単ではない。多くの脱落者が出るはずだが、逆を言えば、波に乗ることが出来れば大きなチャンスを掴むことができるはずだ。


会場内の貴族を見やると、彼らは、明らかに動揺していた。そんな彼らを気にすることもなく、アリシアは演説を続けた。


「私は、あなたがたが、変化を受け入れる限り、失敗しても必ず手を差し伸べることを約束しましょう。しかし、変化を受け入れず抵抗する者は、容赦しない。動き始めた時代は、だれも止めることが出来ない。恐れず、変化を受け入れ、付いてきなさい。ここに、あらたな時代の始まりを宣言します。アリシア・ラポートル・デ・ラデース・レゼル」


普段のアリシアから全く想像もつかない、女王に相応しい立派な演説だった。アリシアの演説が終わると、アンジェ・ガルティエーヌの騎士やセントラルの武官や技官、文官の熱狂的な拍手喝さいをもって歓迎された。


対照的に、遠回しに変化を受け入れず抵抗する者として揶揄された貴族の拍手はまばらで、明らかに戸惑い、困惑の表情を浮かべて、互いの顔を見合っていた。


アリシアがステージ上の玉座に移動し着席すると、貴族代表のジョセフ・ド・ギース公の挨拶、セントラル重鎮の挨拶など暫く続き、開会式が終了した。


開会式が終了すると、会場の人々は、演習場内に設けられた多数の小さい天幕に散らばり、テント内のテーブルでお茶を飲みながら議論を始めていた。彼らの話題は、アリシアの演説の内容と、これから目の当たりにする転換点についての予想のようだ。


一方で、アリシアやアンジェ・ガルティエーヌの騎士、上級貴族は、幾つもの天幕を並べて設置した一つの大きな天幕に案内された。天幕内は、幾つものテーブルが並べられ、一人一人がメイドに座席まで案内され、着席を始めている。


俺は、このあと発表が控えているためか、最前列の席に案内された。席に案内されると、既にアリシアやアンヌ・マリーが着席しており、発表までのわずかな時間、お茶や菓子を摘まみながら、アンと話して過ごした。程なく、局長級の年配の技官が舞台袖のカウンターテーブル前にゆっくりと登壇し、話し始めた。


「大変お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。アリシア女王陛下のご演説でもありましたとおり、新たな時代の転換点、幕開けに相応しい、2つの研究成果をご報告して頂きます」


アリシアや上級貴族が居並ぶ中、緊張する様子もなく、年配技官が穏やかに話す姿は、安定感があり安心して聞くことができる。技官は、更に話を続けた。


「まず初めに、アンジェ・ブラン騎士、王立レゼル大学総長、基礎魔学研究科教授、レゼル魔学・魔術学会会長アンヌ・マリー・マルティノッジさまに、『マジッククォーツサンドの結晶化技術の現状と将来』についてご発表して頂きます。よろしくお願い申し上げます」


アンヌ・マリーの肩書を改めて聞くと、もの凄い人だったのだと気付かされる。俺が知る彼女は、アリシアに絡まれて顔を真っ赤にしてオロオロしている姿だからだ。目の前にいるアンとまるで別人。しかし、彼女と話をすると、頭が断トツにいいことが分かる。


俺と同い年で凄いなと感心していると、アンは、席から立ち上がり、会場の人々に向けてスカートを摘み軽く挨拶をすると、メイドに案内され、正面に貼られた大きなポスター資料横に設置されたカウンターテーブル前に登壇した。


「只今、ご紹介いただきましたアンヌ・マリー・マルティノッジでございます。本日は、20分ほどお時間を頂戴し、マジッククォーツサンドの結晶化技術の現状と将来について、ご紹介いたします。まず初めに、こちらをご覧くださいませ」

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