39 研究発表1 ~第一野外演習場~
統一歴1945年6月17日。中央大陸、レゼル王国、王室領首都ジャルダン・エデン。
行政府セントラル分室。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日が昇る前、セントラル分室の研究室に出勤すると、既に何人かの侍従や職員が走り回り、実射試験会場に運ぶ荷物の最終チェックを始めている。俺は、「朝早くご苦労さま」と声を掛けながら執務室に入ると、リボルバ・カノンの原理、構造、能力などを纏めたポスター資料とその説明原稿に一通り目を通し最終確認した。
暫くすると、執務室の扉をノックする音が聞こえる。「入れ」と言うと、局長のレオンと技官らが入室してきた。挨拶も程ほどに、机上のポスター資料を会議室の壁に貼るように指示をすると、彼らは「かしこまりました」と一言いい直ぐに退出した。
準備を整え、遅れて会議室に移動する。
会議室に入室するとポスター資料が壇上に貼られ、技官らは椅子に座り俺の登壇を静かに待っていた。会議室の壇上に登ると、レオンと目が合い口を開く。
「最後にポスター資料の説明を練習するから、時間を計ってくれ」
昨日、彼に練習すると伝えると、エリックさまでも練習をなさるのですね!と驚かれたが、この練習は、俺自身のためではない。レオンや他の技官を教育するために『やって見せる』のだ。発表練習だけではない。発表内容の構想から資料作成、発表原稿まで全て手伝わせた。自分で作った方が早いよなと思いつつも、何もしなければ人は育たない。
レオンは、懐から懐中時計を取り出し机上に静かに置いた。
「承知いたしました。持ち時間の20分間を計ります。お願いいたします」
セントラルで働きはじめて、最初に感じた印象は、研究成果を纏めて人に説明する力がないことだ。そこで、彼らに、手本となるロールモデルを示して踏み台を与えることを意識して教育している。俺は、レオンの目を見て軽く頷き、壇上に掲示された資料の説明を始めた。
今回、話すスピードや抑揚のとり方、図表の説明の仕方などを意識しながら説明をしている。しかし、本番は教育ではないのだから、発表内容を少し変えるつもりだ。
一通り説明を終えると、レオンが懐中時計を止めた。
「流石でございます。20分丁度でございます」
「そうか。説明におかしなところはなかったか?」
「問題ございません。何から何まで、本当に学びが多いです」
レオンの言葉が終わるや否や、技官のレオが急に立ち上がり、興奮気味に話し始める。
「私は、学問や研究で誰にも負けたことがないと自負がありました。しかし、エリックさまの能力は、圧倒的で、自分の無知、無能を思い知らされています。特に、魔力を力に変換する未公表の最先端魔術は、応用の幅が広く、高ぶる気持ちを抑えられません!」
技官のレオは、俺と同じ、国内最高峰のグランド・ゼコール、王立レゼル大学主席卒業で、王立研究所で魔学の博士号を取得したトップエリートだ。俺の研究室に配属された直後は、配属先の希望がかなわず、死んだカエルの目をしていた。
そこで、彼に魔力を力に変換する技術を応用すれば、馬車や船は魔力で動くようになるし、何れ空も飛べると教えてやると、目の輝きを取り戻して研究に励むようになった。「期待している」と声をかけると、彼は、真剣な面持ちで「お任せくださいませ」と背筋を正した。
トントン
会議室の扉をノックする音が聞こえ、俺は「はいれ」と言うと、メイドのマリーが入室し綺麗なお辞儀をする。
「エリックさま。朝の挨拶の準備が整いました」
俺は、「分かった。直ぐに向かう」と答え、技官らとともに応接室に移動を始めた。
会議室を出て廊下を歩くと、窓から温かく心地よい朝日が差し込んでくる。廊下を進むと、出勤してきたセントラル職員とすれ違い、彼らは壁側に控えて朝の挨拶をしてきた。俺は「おはよう」と声を掛けながら歩みを進める。マリー曰く、騎士さまから挨拶をすることは決してないらしいので、彼らの驚く顔が新鮮で面白い。
応接室に入ると、既に侍従や職員が全て整列して、俺の到着を待っていた。練習に付き合ってくれた技官やマリーが整列するのを確認すると、俺はいつも通り、朝の挨拶をした。
「今日は、いよいよ実射試験の日だ。連日、皆が、夜遅くまで頑張ってくれたおかげで、今日の日を迎えられた。もう一息だ。よろしく頼む!」
「「「「かしこまりました」」」」
俺は、一人一人の目を見て大きく頷くと、局長のレオンを見て口を開く。
「レオン。今日の予定と状況を説明してくれ」
彼は、一歩前に出ると胸に手を当てて軽くお辞儀をして、落ち着いた声音で報告を始める。
「はい。エリックさま。昨日の段階で、野外演習場でテントや備品類の設営を確認しました。この後、直ぐに武器類を搬入、設置し、午前中に全ての準備を終えます。午後、女王陛下のご挨拶ののち、リボルバ・カノンについてご説明して頂き、実射試験に入ります。実射試験後、晩餐会にご参加して頂きます」
レオンの報告に、事前テストがないことに気付いた。
流石に1発も試射しないのは不味いよなと思い、彼に指示することにした。
「午前中、リボルバ・カノンを試射するための時間を確保してくれ」
「かしこまりました」
レオンの返事に俺は頷いた。彼は、胸に手を当ててお辞儀をすると一歩下がる。
彼が列に戻ったことを確認すると、メイド長のマリーに報告させるため口を開く。
「マリー。今日の予定と状況を教えてくれ」
彼女は、一歩前に出るとスカートを両手で摘み挨拶して、落ち着いた声音で報告を始める。
「はい。エリックさま。昨日、アンジェ・ノワール式部局による会場の設営完了を確認しました。本日、アンジェ・ノワール所属の全侍従は、午前中、会場の準備。午後、会場にて、騎士さまやご来賓の方々の給仕を担当。一部は、晩餐会の準備にあたります。実射試験後、離宮にて、晩餐会に向けたご準備を私がサポートさせていただきます」
晩餐会と聞いて、貴族や王族相手に挨拶や話をしなければいけないのか?とげんなりしてしまうが、俺が身勝手にふるまうと、頑張ってくれている職員や侍従の立場が悪くなる。
「分かった。よろしく頼む」
「かしこまりました」
マリーの返事に俺は頷くと、彼女は、スカートを両手で摘みお辞儀をすると、一歩下がる。
最後に、俺の横に控える執事長ダンテスを見やると彼の意見を聞くことにする。
「ダンテス。全体を通して何か意見はないか?」
彼は、俺の言葉に気付いていないようだ。
右手を口元に当てて、ニコニコしながら思い出し笑いをしていた。
「どうした?ダンテス?」
俺は、ダンテスの顔を覗き込むと、彼は咳払いし、口元に当てた右手を下ろすと話し始めた。
「大変失礼いたしました。最近、アリシアさまが、大きなヴイーヴルを捕まえたという根も葉もない噂を聞きまして、嘘だと分かる噂を誰が流すのかと、余計なことを思い出しました。申し訳ございません」
ダンテスのわざとらしい話に嫌な予感しかしない。
まさか、実射試験中にヴイーヴルが放たれるのだろうか?騎士となる前ならば、馬鹿らしい話だと一蹴していたと思うが、悪魔や魔人と対峙して、何が起きても今更、不思議に感じない。
騎士になって感覚がおかしくなったなと頭が痛くなるが、ヴイーヴルは、翼があり空を飛ぶ上、巨体で皮下脂肪も厚いため、リボルバ・カノンやハンドカノンでは、致命傷を与えられない。中途半端な攻撃は、ヴイーヴルが暴走する原因になる。
思案の末に、後々面倒なことになるかもしれないが、最悪な事態を想定して準備するしかないと腹を括り、レオンに指示を出すことにした。
「リボルバ・カノンと強化部品が入れられた箱を最優先で搬入してくれ。俺も直ぐに移動する」
「承知いたしました」
レオンの返事を確認すると、俺は全員を見渡し締めの言葉を伝えるため口を開く。
「各自、持ち場で全力を尽くしてもらいたい」
「「「「かしこまりました」」」」
全員の返事を確認し「解散」を告げて、ダンテスとともに応接室を出る。
背後で、局長のレオンとメイド長のマリーの下に、彼らの部下が集まるのを横目に、執務室へ戻るとダンテスに研究室内の指揮を任せ、荷物を抱えると一足先に演習場のテントに向かった。
37話と38話にいいねを入れていただきありがとうございました。
8月20日に小説の投稿を始めて丁度2か月です。120,000文字も目前です。少し前に予告した通り、更新頻度が落ちマス。




