35 召喚された悪魔4 ~悪魔ベリアル~
5枚羽の悪魔から放たれた黒い閃光をまともに見てしまい、一瞬、何も見えなくなったが、徐々に目が慣れ視力が回復した。演習場を見渡すと、全ての窓ガラスが割れ、観戦席の一部が黒く焼け焦げ、黒い羽毛が床一面に飛散していた。
幸いにも、主審に保護させた技官を除いて、床に倒れるけが人や死者は見当たらず、ホッとした。
ラファエラと俺は、擱座して動かないジルに駆け寄り、遅れてモーリスとエドガーも体を引きずりながらもジルの元に集まった。
「ラファエラさま・・・申し訳ありません。仕留めきれませんでした」
ジルは、顔すらも動かせないのか、体を一切動かさず、震える声で謝罪した。
「そんなことないわ。ジル!エリック、モーリス、エドガー。よくやったわ!誰も死なず、2枚羽の悪魔ベリアルを撃退できたわ!あなたたちだけで勝てたのよ?大勝利よ!」
興奮気味に話すラファエラの言葉から、悪魔との戦いは辛酸をなめ続けてきたのだろうか?
モーリスとエドガーは、地面に膝を落として、両目から大粒の涙を流し「一矢を報いたからな・・・」と呟いた。しかし、アンジェ・ガルティエーヌが、おとぎ話の想像上の生き物だと思っていた悪魔と戦っていたなど夢にも思わなかった。
今回、3人の騎士が正面で攻撃を全て受けていたからこそ、俺は生き残れたと思う。しかし、もう一度、対峙すれば、手の内を明かしてしまった俺は生き残れないだろう。
二度と悪魔に対峙したくないなと考えていると、ラファエラは、両手を胸の前で握ると「ジルの最後の一振り!思い出すだけで、ドキドキするわ!」と両目をキラキラさせながら、自分の世界に浸っていた。
ジルは、そんな上の空のラファエラを気にすることもなく真面目に答え始めた。
「いえ。エリック殿が、初手で悪魔の固い外皮を貫き、動きを止めたからこそ振り抜くことができました」
ジルの言葉に、ラファエラは、まるで聞いていない。俺は何度かラファエラの顔を見たが、気付く様子もない。仕方ないので、俺が答えることにした。
「何をおっしゃいますか。私は、安全圏で支援していただけです。3人の前衛の働きが全てです」
俺の言葉に、モーリスが「謙遜なさるな」と涙でぐちゃぐちゃな顔に満面の笑みを浮かべながら一言いうと、俺の肩に腕を掛け、エドガーは、涙で濡れた顔を袖で拭うと、紳士的に俺の手を握り握手してきた。
ラファエラは、そんな俺たちの様子に気付くと、
「みんな頑張ったわ。特にジル、モーリス、エドガー、正面でよく踏ん張ったわね。ご褒美よ!」
ラファエラは、3人の頭を左手で優しくなでると、杖を上に掲げた。掲げられた杖から、金色の粉が溢れだし、粉が3人の肌に触れると、焼きただれて黒く変色した肉や皮膚、髪がゆっくりと再生を始めた。初めてみる医療魔術だった。
俺にも何かご褒美があるのか?と少し期待したが、ラファエラは、俺を見ると腰に手を当て、頬を膨らませながら話し始めた。
「ところでエリック!その凄い武器は何!?」
ラファエラが突撃してきた時から、後で追及されるなと思いつつも、誤魔化す理由もないので正直に答えることにした。
「ハンドカノンです」
「私が貰ったハンドカノンとはまるで別物じゃない!」
別物に見えるかもしれないが、俺としては同じものだ。手元にある魔力加速式ハンドカノンが本来の姿で、このハンドカノンをベースに、魔力が少ない農民でも使用できるようにと、不足する魔力を補うため火薬を使用し、大量生産するためにコストや生産性を最優先して、不要な機構や構造の廃止、簡略化を徹底した。
派生機種と言えばいいのだろうか?しかし、冷静に考えれば別物かもしれない。細かい話をしても言い訳をしているように聞こえると思い、事実のみを伝えることにした。
「陛下は、反乱で使用したハンドカノンをご所望なされました。これが、本来のハンドカノンです」
ラファエラは顎に手を当て、首を傾げながら「訳が分からないわ」と答えた。
俺は、手に持つハンドカノンをラファエラに差し出しながら、要点のみ伝えることにした。
「リボルバカノンと同じ原理で弾丸を射出する魔道具。武器だとご理解ください」
ラファエラは、ハンドカノンを受け取ると、両手で様々な角度から眺め、取り回しなどを確認したあと、満足そうに話し始めた。
「リボルバカノンは取り回しが悪いと思っていたのだけど、これは軽そうでいいわね!制式採用したいわ」
「人工魔石次第ですが、是非、ご検討ください」
俺の答えに、ラファエラは、視線が左上を向き、何か思い出した表情を浮かべて話し始めた。
「ところで、あの膨大な魔力は何?魔力はどうしたの?」
ラファエラの質問は当然だ。ハンドカノンに流した魔力は、事前に供与されたアンヌ・マリーの人工魔石が出せる魔力を大きく上回り、俺の魔力を加えても全く届かないからだ。
俺は見せた方が早いと思い、腰にぶら下げた圧力容器の圧力を完全に抜き、中から魔石を取り出しながら質問に答え始めた。
「昨日、アンヌ・マリーさまが完成させた改良人工魔石の初サンプルを使用しました」
俺は、直径が20ペデスの巨大な人工魔石をラファエラに手渡した。
ラファエラは、人工魔石を受け取ると目を見開いて叫んだ。
「何これ!ずるいわ!なぜ、直ぐに教えてくれないの!」
ラファエラの反応は当然だと思う。俺もアンヌ・マリーから魔石を渡されたとき、短期間で出来ると思っていなかったので、驚きの声を上げてしまった。アンは、偶然出来たから、同じものを作る自信がないと言っていたが、条件を詰めていけば、何れ同じものが作れる可能性があるということだ。
そして、最も目を引くのが魔石の大きさだ。しかも、表面にひびが一切なく安定している。この大きさは、人間の体内にある魔石の大きさを遥かに超え、魔力は一般平民の約8倍の大きさが期待できる。
以前の魔石であれば、本来の半分程度の魔力が限界であったが、この魔石であれば大きさに見合った本来の力が期待できる。俺は、悪魔や魔人との戦闘で確認できた改良人工魔石の性能に、高ぶる気持ちを抑えつつ冷静な口調で理由を話した。
「昨日、出来たばかりで、今日、試験をして問題なければご報告するつもりでした。安定して試作できる目途が立っていませんが、過去最高の物が出来たと思います」
俺の答えにラファエラは、「はぁ・・・。実戦で、テストとか無茶するわね・・・」とため息をつきながら話したが、リスクを考慮して安全サイドに振る余裕など全くなかった。
あの場面で、持てる力を出し切れなければ負けたのは俺だ。一方で、実戦で、魔力の大きさと攻撃力、信頼性を評価出来たことが大きい。又と無いデータが取れた事実を伝えることにした。
「想定外の出来事が起き、ご心配をお掛けしました。しかし、実戦で貴重なデータが取れました」
ラファエラは、手を振りながら「もういいわ」と答えた。
俺は誰もジャンについて触れないことが気がかりだった。そこで、思い切って尋ねることにした。
「ところでジャンはどうなりますか?」
俺の言葉に、ラファエラは俺から目を逸らし、顔を曇らせると話し始めた。
「さっきも言ったけれど、魔人は元に戻らないの。諦めなさい。魔人は、あの手この手で『人に戻りたい。苦しい、助けてくれ』と平気で騙そうとするし、嘘も言うし、涙も流すわ。生きていたら容赦なく殺しなさい。分かった?」
ラファエラの表情から、彼女も苦しんでいることが伝わってきた。俺は、「わかりました」と答えるしかなかった。
ジャンの話で雰囲気が一気に暗くなったのだが、モーリスが静かに話し始めた。
「ラファエラさま。エリック殿の戦闘を見て、個人の魔力量が、意味をなさなくなると言われた意味をようやく理解しました」
モーリスの話を聞いたラファエラの顔が一気に明るくなり、彼女は目を大きく見開いて叫んだ。
「そうよ!今、この瞬間、世界は大きく変わったのよ!」




