31 試合2 ~第一演習場~
ジャンは、俺を睨みつけ、「クソ!お前!何かしたのか?」と叫んだ。
俺は、ただ無言でジャンを睨みつけた。
そんな俺の態度にジャンは、床に唾を吐くと、杖の先端を俺に向けて魔術行使の態勢をとった。
「ヘル・ファイヤー!」
制圧用攻撃魔術ヘル・ファイヤー。ジャンの杖の先端から炎が噴き出し、俺に向かって火炎が放射された。炎を避けるため、横に移動する俺に、ジャンは高笑いしながら、「逃げろ、逃げろ」と言いながら、炎が射出され続ける杖を振り続けた。
俺は、マントで火炎やその熱を防ぎながら、ハンドカノンを握り、ジャンの隙を伺った。
ジャンは、火炎を止めると、『フラッシュ・オーバー』による爆発が起きなかったことに納得出来ていないのか、杖を頭上に掲げて、魔力を流す動作に入った。
「フラッシュ・・・・」
パァーン
俺は、ジャンが魔術を発動する前にハンドカノンのトリガーを引くと、闘技場に乾いた銃声が響き渡った。
銃声とともに会場が騒めき、技官らは、立ち上がり、ある者は、観客席から身を乗り出して、ステージの状況を確認し始めた。ジャンは、左足太ももを抑えながらその場で倒れ、叫んだ。
「ググゥ・・・いてぇぇぇ!」
左足太ももを抑えて、床でのたうち回る彼の動きは、大げさに見えるが、良質な柔らかいゴムが入手できないので、弾丸の先端に使用した樹脂は固く、弾に当たると死んだ方がマシな位に痛い。
ジャンは、俺の右手に持つ魔道具を睨みつけると大声で怒鳴り始めた。
「何だ?それは!?銃か?」
「銃を知っているのか?」
ラファエラから、ジャンは前世の記憶があると聞いていたが、彼と俺の前世は、同一世界と時代に生きていたかもしれない。ただ、前世の記憶があっても、言い方を変えれば、記憶が『有る』だけなので、親近感があまり沸かない。ジャンは、左足太ももを触り、出血や怪我をしていないことを確認すると、俺を睨みつけながら叫んだ。
「クソぉ。そんなおもちゃみてぇなもので!馬鹿にしているのか!」
ジャンは、怪我をしていないことから、おもちゃの銃の類だと判断したのかもしれない。
しかし、俺は、セントラル屈指の魔術士相手の試合で、馬鹿にして挑むほど愚かではないし、手を抜けば俺が負けると考えて、事前準備や情報も集めて試合に挑んでいる。馬鹿にしていると言われる筋合いが無い。俺は、ジャンの目を冷静に見て口を開いた。
「クソ真面目だ」
俺の言葉に、ジャンは怒りに満ちた顔で俺を睨みつけると、半身を起こし、杖を俺に向けて攻撃魔術の準備を整え、魔術行使の動作に入った。
「ヘル・ファ・・・」
俺は、ジャンの魔術が発動する前に、ハンドカノンの引き金を引いた。
パァーン
銃声が響き、ゴム弾が、ジャンの右肩に当たると、彼の上半身が、後ろに吹き飛ばされ仰向けに倒れた。ジャンは、杖を持つ手を離すと、右肩を左手で抑え、床でのたうちまわりながら俺を睨んで叫んだ。
「いてぇぇぇ!ひ、卑怯だぞ!」
「何か卑怯なことをしたか?」
俺は、卑怯だと叫ぶジャンに理由を尋ねた。
ジャンは、床に倒れたまま右手で俺のハンドカノンを指差しながら叫んだ。
「卑怯だろうが!魔術で勝負しろ!」
反乱時に使用したハンドカノンは火薬式なので、彼がイメージしている銃に最も近い構造だと思われる。しかし、俺の手元のハンドカノンは、火薬式の銃ではない。仮に、火薬式だったとしても使用できる武器を制限していないのだから、卑怯でも何でもない。俺は、床に倒れたままのジャンの目を見ながら、事実を突きつけるために口を開いた。
「これも、魔力で弾を射出するから、立派な魔術だ」
ジャンは、顔をしかめて、何を言っているのか?という表情で俺を睨みつけたが、ハンドカノンも、リボルバカノンと同じく弾丸に魔力を流すことで生じる魔力場で弾丸を加速・射出する魔道具で、魔力を使う点で立派な魔術だ。この技術は、魔力と電気の特性が似ていることから、もしやと思い試してみた所、たまたま発見した。当然ながら、魔力の無い前世の世界に存在しない技術であるし、この世界でも、全く知られていない新しい技術だ。ジャンが理解できないのも当然かもしれない。
ジャンは、痛みが多少引いたのか、左手で杖を突き、左足を庇いながら立ち上がった。
「ヘーゼル如きが!試合形式でなければ勝つのは俺だ!」
ジャンは、試合形式でなければ俺が勝つと根拠のないことを叫んだが、どう見ても戦える状態じゃない。一方で、俺に歯が立たない理由を分からせなければ、暇さえあれば決闘し続けることになるだろう。本人は、試合形式でなければ勝てると、戦う意志を示しているので、続けることにした。
俺は、主審台の審判に顔だけ向けると、大声で叫んだ。
「おい!主審!こいつが俺を殺しても、『俺が死ぬ気でかかってこい』と言ったことを後で証言しろ!」
主審台の武官は、俺の言葉に背筋を正し、「承知いたしました」と答えた。
観客席の技官らは、決闘だぞとざわつきはじめた。
満身創痍なジャンに向き直り俺は、「殺す気でかかってこい」と叫んだ。ジャンは、怒りで顔を真っ赤にすると、「殺してやる!」と大声で叫び、杖を俺に向けて魔術行使の動作に入ると同時に、俺もハンドカノンを構え、狙いを定めた。
「電・・・」
パァーン
「電・・・」
パァーン
ジャンは、近接攻撃魔術の『電撃』を2度、試みたようだが、何れも発動前にゴム弾が着弾し阻止された。ゴム弾は、右足ふとももと左足ふとももに当たり、彼は、杖を地面に突き刺し、その場で擱座した。
一方的な俺の攻撃に、観客席から悲鳴に似た声が上がった。
暫く、静寂が流れた。
ジャンは、顔を俯けたまま、地面に突き刺した杖をゆっくりと抜くと、杖を俺に抜けて、再び魔術行使の動作に入った。
「ヘル・・・」
パァーン
ジャンの魔術が発動する前に、俺は、ハンドカノンの引き金を引いた。ゴム弾は、左肩に着弾し、ジャンは、再び仰向けに地面にゆっくりと倒れた。彼は、その場で倒れたまま、涙を流しながら、「何でだ!くそぉ!」と地面を手で何度も叩いて叫んだ。
ジャンの問いに答えるため、俺は、ハンドカノンを構えたまま、静かに口を開いた。
「魔力だけなら、お前の勝ちだ。しかし、人の能力は、知識、スキル、思考力、動機付け、自己効力感。これら全ての総合能力が決める。つまり、お前は、総合能力が俺に劣るということだ」
俺の言葉にジャンは、怒りに満ち、涙と鼻水でグチャグチャになった顔を俺に向けると叫んだ。
「訳の分からないことを言ってんじゃねぇよ!」
彼の叫びに、ざわついていた観客席の技官らが、一瞬で静まり返った。
静まり返った演習場に、ジャンの「クソォ。クソォ・・・」と小さく呟く声だけが、響き渡った。
彼は体を起こそうともせず、攻撃も防御態勢も取らず、地面に寝ころんだまま、無防備に体をさらしていた。戦意喪失したのだろうか? 俺は、これ以上続けても意味のない試合を終わらせるため、彼の目を見ながら話し始めた。
「お前は俺に勝てない。降参しろ」
俺の言葉に、ジャンは、悔しさと憎しみ、恨みを込め、地の底から吐き出したような声音で叫んだ。
「俺に!俺にもっと力があれば、こんなヤツ!クソォォォォ!」
彼の叫びとともに、血の底から響くような声が、耳を通さず頭の中に響いた。
『我を召喚する者は誰だ?』




