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29 襲撃前3 ~行政府セントラル分室~

ジャンは、俯く顔を上げて、薄ら笑いを浮かべながら話し始めた。

「ラファエラさまたってのご希望で、楽しみにして来たのに、偉そうなヘーゼルねぇ・・・」

ヘーゼルとは、目の色のことを話しているのだろう。この世界で、目の色として表れる魔力量の大きさが、身分差を生み、差別の温床となっている。


一般的な平民は、ブルーアイが多い。平民でも、魔力量が多い男性や女性と積極的に婚姻を繰り返す商人などは、グリーンが多く、魔力量を意識した婚姻を繰り返しつつ、魔力量を高める方法が家に代々伝わる貴族は、ヘーゼルやアンバーの目が多い。目の前のジャンの目の色は、アンバー。上級貴族並の魔力量だ。


ラファエラは、不快そうな顔をするとジャンに「口を慎みなさい」と言い、一喝した。

怒られたことに納得できないジャンは、彼女に言葉で嚙みついた。

「俺が、ヘーゼルから学ぶことなんかない。ふざけるな!」


ジャンの反抗的な態度に、ラファエラは、右手をジャンに翳して電撃を放った。

電撃を放たれたジャンは、その場で両膝を床に付け、両手で頭を抱えて叫び声をあげた。

「グッ・・・ガァァァア・・・!」


ラファエラは、電撃を放ち終えると、ジャンが、激しく呼吸を繰り返しながら床にうずくまった。彼女は冷酷な目つきでジャンを一瞥して、苛立ちながら声を上げた。

「いい加減にするのはあなたよ!」


これが噂に聞くお仕置きなのか?と思いつつ、ソファーから立ち上がり、うずくまるジャンの側に移動し、彼の肩に手を掛けて、体の状態を確認するために話しかけた。

「おい。大丈夫か?」

「俺に・・・構うな!」

ジャンは、肩に掛けられた俺の手を振り払い、顔から滴り落ちる汗を拭くこともせずに、俺を睨みつけた。


ラファエラは、ソファーから立ち上がると、冷酷な眼差しでジャンを一瞥して話し始めた。

「私は、用事があるから離宮に戻るけど、ちゃんとエリックの言うことを聞くのよ!」


ラファエラの命令に、ジャンは、「クソ」と呟いた。

そんなジャンの態度に、彼女は言葉を続けた。

「その目は何?追加のお仕置きが必要かしら?」

ジャンは、彼女から目を背けて、声を震わせながら「いえ・・・。分かりました」と答えた。

ラファエラは、俺の顔を見ると「あとは任せるわ」と言い、応接室から退室した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ラファエラが応接室から退出すると、何とも言えない、気まずい空気が部屋に漂った。俺は、その場から立ち上がり、元の席に戻ると、両手両膝を床に付き、悔しさで顔をしかめたままのジャンに声を掛けた。

「ジャン。詳しい経歴を教えてくれないか」

俺の質問にジャンは、ゆっくりと顔を上げて、薄ら笑いをしながら話し始めた。


「俺の経歴を聞いてどうする?そんなことよりも、俺と決闘しないか」

今しがた、ラファエラに怒られたばかりなのだが、新たなお仕置き案件の決闘の申し込みに、ジャンの意図が理解できなかった。俺は、「どういうことだ?」と尋ねた。


ジャンは、鼻で笑うと、馬鹿にしたように話し始めた。

「あんただってわかっているだろう?魔力量は俺の方が多い」

魔力差による差別は、レゼル王国だけでなく、世界中に蔓延し、職場や学校、飲食店、小売店、家庭に至るまで、あらゆる場面で、魔力量で差別やマウントをとろうとする人々を見かける。


逆に、平民の中で魔力量が多過ぎると、妬みや嫉妬による嫌がらせを受けることになる。しかし、生活する上で、魔力量の差によるメリットやデメリットはあまり感じない。


せいぜい、聖教会の洗礼式で、魔道具を他の人よりも光り輝かせることが出来て、人々から羨望の眼差しを向けられることぐらいだろうか?つまり、人間の魔力差など、どんぐりの背比べをしている様なものだ。俺は下らないジャンのマウントに、辟易しながら「だから何だ?」と答えた。


「部下が、自分よりも魔力量が多いとやりにくいだろ?なぁ?ヘーゼルの騎士さま」

ジャンが、差別主義者だと分かったが、自分よりも魔力が劣る上司から命令を受けることにプライドが許さないのだろうか?彼は、決闘に持ち込むため、明らかに俺を挑発してきている。しかし、彼の挑発に乗り、規則を無視する方が不味い。


「魔力差など俺は気にならない。そもそも、禁止されている決闘をする理由がない」

俺の言葉に、ジャンは右の口角を上げて、薄ら笑いを浮かべながら話し始めた。


「理由か?なら、あんたの研究室をぐちゃぐちゃにでもしてやろうか?」

1週間後に行われるリボルバカノンの実射テスト前に、研究室を壊されると不味いなと思い、ジャンに冗談では済まないことを分からせるため、語気を強めて話すことにした。


「そんなことしてみろ?許さんぞ」

ジャンは、語気を強めた俺を見て、自分が交渉で優位に立てていると勘違いしたのか、満足そうな笑みを浮かべて具体的な条件を話し始めた。

「まぁ、落ち着けよ。あんたが勝てば何でも言うことを聞く。俺が勝てば好きにやらせてもらう。どうだ?」


ラファエラにお仕置きされても、めげずに決闘を申し込むメンタルの強さと、研究室を破壊されるリスクを考えると、早めに実力差をはっきりと分からせる必要があるなと考えて、妥協案を示すことにした。


「その言葉を忘れるな?ただ、決闘は許されない。試合形式であること。立会人を付ける条件ならば受けよう」

「真面目だな・・・。明日15時、第一演習場を確保するから、逃げんなよ」

俺の条件に、ジャンは素直に受け入れ、時間と場所を指示してきた。


「明日15時だな?約束は守ってもらうからな?」

俺は、ジャンが出した条件を守るように強く念押しした。


「騎士さんよ。せいぜい魔力切れを起こさないように鍛えておけよ・・・」

ジャンは満足そうに、ほくそ笑むと、挨拶もなく乱暴に応接室の扉を閉めて部屋を後にした。

28話にいいねを入れていただいて、ありがとうございました。


ラファエラはジャン君を育てたいと思い、2番目のお気に入りエリックに託しましたが、ジャン君は、新人騎士への配置転換にショックを受けています。ちなみに、ジャン君は、試合や決闘で勝ちまくり、能力が認められてラファエラ付きになれたと勘違いしています。

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