27 襲撃前1 ~行政府セントラル分室~
統一歴1945年6月9日。中央大陸、レゼル王国、王室領レプリューム。
首都ジャルダン・エデン、行政府セントラル分室。
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陛下との謁見後、人工魔石の改良とリボルバカノンのテストに向けた準備、王都での『渡り廊下での出会い作戦』への参加と慌ただしく日々が過ぎていった。特に、渡り廊下での出会い作戦は、アンヌ・マリーやアルマ、女性文官達がノリノリで、演技指導も含めて細かい指示に辟易しながらも、自分のことだからと心を無にしてやり切った。
作戦から二週間経過し、リボルバカノンは想定よりも早く準備が完了した。工房の荷物が、全て移動されていたことが大きい。床に埋めて隠していた金庫まで掘り起こされ、倉庫に置かれていたのを見て、笑うしかなかった。
人工魔石の見通しもつきつつあり、少し余裕ができたので、お蔵入りしていた魔力加速式ハンドカノンの再整備を行いつつ、アンヌ・マリーの研究室に毎日入り浸り、人工魔石に使用する結合剤の生産設備設計の指導や改良魔石の試作に関するアドバイスや試作品のテストをする日々を過ごしている。
今朝、ラファエラの名で、陛下から突然の呼び出しを受けて、行政府セントラル分室応接室に向かっている。
最近、お会いしていないなと思いつつ、呼び出しの理由を考えながら応接室の扉をノックして、部屋に入った。
「エリック。久しぶりね!」
俺が挨拶する間もなく、ラファエラは、ソファーから立ち上がり声を掛けてくれた。
「お久しぶりでございます。ラファエラさま」
俺は、右手を胸に当て、頭を下げて挨拶した。女王アリシアさまと宰相ラファエラさまは同一人物なのだが、メイドのマリーによると、陛下が黒髪の時は、ラファエラさま。白金の髪の時は、アリシアさまとお呼びするのが、暗黙の了解だと教えてくれた。何れ呼び間違えるかもしれないなと考えていると、ラファエラは、俺にソファーに座るように促し、メイドにお茶を用意するように指示してから話し始めた。
「テストの準備は順調かしら?」
ラファエラの顔は、ご機嫌だった。テストの話は当たり障りのない話題で、本題は別にあるなと思いつつも、俺は、準備状況を説明するため口を開いた。
「予定通り進んでいます。楽しみにしていてください」
俺の答えに、ラファエラは、満面の笑みで大きく頷き「楽しみにしているわ!」と答えた。
ふと、アンヌ・マリーから最近、聞いた話を思い出し、陛下に確認することにした。
「ところで、アンヌ・マリーさまから聞いたのですが、アルマが『陛下に消される』と怯えているようです。心当たりはありませんか?」
渡り廊下での出会い作戦で、アルマは失敗したらしい。アンヌ・マリーは『失敗とは言えない失敗よ』と気にすることないわ!と話していたが、心に刺さった棘の様にアルマの言葉が気になっていた。俺の質問に、ラファエラは顎に手を当てて少し考えてから話し始めた。
「知らないわ。クリスは採用試験を受けるそうよ!アルマはよくやったわ!」
ラファエラの言うとおりだ。クリスに採用試験を受ける決断をさせる目的を達成したのだから、細かい失敗は、問題にならないはずだ。更に言えば、この騒動は、俺とクリスの問題であって、アルマに迷惑を掛ける訳にもいかない。そもそも、ラファエラがアルマにプレッシャーを掛ける意味がないし、アルマが陛下に怯える理由も分からない。ラファエラ本人が、よくやったと言っているのだから、これ以上聞いても意味がないので、別の話を聞くことにした。
「この話もアンヌ・マリーさまから聞いたのですが、クリスが、異世界に飛ばされた夢を見たそうです。そこで、異世界の子供たちと遊べば、アランに会わせてあげると言われて、遊んで、目を開けると俺を見かけたそうです。何か心当たりはありませんか?」
普通、この様な話をすれば、妄想や虚言、作り話の類として一蹴するだけなのだが、異世界に飛ばされた経験のある俺は、他人事だと思えなかった。
「し、知らないわ!」
俺の質問を聞いたラファエラの目が一瞬泳いだ。
顔の表情や態度も明らかに怪しかった。何か隠しているなと感じて、俺は追求することにした。
「本当ですか?」
俺は、ラファエラをジト目で見続けて、暫く静寂が流れた。追及に耐えられなくなったラファエラは、頬を膨らませながら話し始めた。
「だって!私が指示したのに、みんな楽しそうにしているじゃない!おかしくない?だから、私も参加したの!」
ラファエラは、足を組みなおし、腕組みしながら、納得できないという態度で、作戦への介入をほのめかしたのだ。
俺は、ラファエラの言葉に『渡り廊下での出会い作戦』での疑問のヒントがあると感じた。そう。疑問とは、『クリスが、渡り廊下を歩く俺をアランだと断言した理由』だ。立場的に追及できないので、少し泳がしてみることにした。
「こっそり参加されたのですね?」
俺は、少しだけビックリした表情を浮かべながら、流石、ラファエラさまという気持ちを込めてよいしょした。ラファエラは、膨らませた頬を萎ませて「そうよ!びっくりした?」と身を乗り出して嬉しそうに感想を聞いてきた。俺の内心は、お前か?お前だな?とどつき回したい気持ちで一杯だったけれどできる訳がない。恐らく、アルマの悩みもラファエラが原因だと思われる。
俺は余計なことを一切考えず、心を無にして俺の予想の正しさを確認することにした。
「はい。とてもびっくりしました。よろしければ、詳しく教えて頂けませんか?」
ラファエラは、俺の質問に無邪気な顔を浮かべて話し始めた。
「秘密よ!でもね。ヒントはあげる。彼女の願いが叶うように手助けしたのよ」
ラファエラの言葉で、アルマやアンヌ・マリーから聞いた一つ一つの情報が線で結ばれた。
恐らく、仲間外れにされたと感じた陛下は、クリスを異世界に送り込んで、アランに会わせる約束を勝手にして、渡り廊下を歩く俺を見せたのだろう。
俺は、頭が痛くなったのだが、細かい追及をしても意味が無いと考えて、ラファエラの誤解を解くことにした。
「申し訳ございませんでした。ダンテスが動いていたので、全てご承知かと思いました。次回から、お声がけします」
俺の言葉に、ラファエラは、「お願いよ!」と満面の笑みで答えた。
機嫌が直ったラファエラに、怯えるアルマへの対応をお願いすることにした。
「アルマのフォローをお願いできませんか」
ラファエラは、「分かったわ」と答えたのだが、珍しく言い難そうに話し始めた。
「今日はあなたにお願いがあるのよ」
俺は、本題の話があるなと察して、「何でしょうか?」と答え、ラファエラのお願いを1時間近く聞いた。
26話にいいねを入れていただいて、ありがとうございました。
たくさんの小説の中から、たまたまでも選んでいただいて嬉しいです。
次回から、不快なお話から、そのまま戦闘になりマス。苦手な方は読み飛ばしてください。
前向きな話だけでは物語が進まないので仕方ないです。




