23 説得 ~王都にて~
統一歴1945年5月18日。中央大陸、レゼル王国王都「テール・プラミス」アルマの自宅・・・。
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陛下の勅書を受けた翌日、ダンテスさまから私宛の封筒が職場に届いた。
封筒を開けて手紙を読むと、クリスを説得するためのアドバイスと見学会の段取りが書かれた手紙や、見学許可証が一つ一つ丁寧に入れられているのをみて、大切にされている感覚を感じてしまい、思わず笑みが零れてしまった。ダンテスさまに初めてお会いした時は怖かったけれど、誠実で優しく、丁寧にお話ししていただけるので、素敵なおじ様の魅力に惚れ惚れするわと感じつつも、頭を振って、手紙に書かれた内容に一通り目を通した。
手紙に書かれたアドバイスや段取りは、具体的に書かれていて、とても分かりやすかった。
手紙を読む前は、私に対処できるのかしら?と不安で、心が押し潰されそうな感覚に襲われていたけれど、手紙を読み終えると、不安が解消されて、やる気に満ち溢れている自分を感じていた。ダンテスさまは理想の上司だわ!と思わず心の中で叫んでしまったけれど、ここまで考えてくださったのだから失敗出来ないわと改めて身を引き締めた。
私は、クリステルと話をするため、普段より少し早めに仕事を切り上げて帰宅した。
夕食を食べ終え、いつも通りお茶を準備すると、まず、クリスの今後について尋ねることにした。
「クリス。これからどうするつもり?」
私の問いに、クリスは少し悩みつつも、「レローズの門が解放されたら一旦、戻ろうと思うわ」と答えた。
反乱の情報を得てから、彼女は直ぐに戻ろうとしていたのだから、想定通りの返答だった。しかし、陛下は、クリスを王都から出してはいけないと命令した。
非常に悩ましい問題だけれど、見学会が成功すれば、レローズで情報収集する意味がなくなるので、クリスは戻らないはず。しかし、戻る理由は、情報収集だけではなくて、生活面の不安や知り合いの安否なども考えられるので、ちゃんと理由を確認することにした。
「なぜ、レローズに戻るの?」
私の疑問に、クリスは、申し訳なさそうに私の顔を見ながら口を開いた。
「私なりにアランの情報を地元で集めてみようと思うの」
クリスは、私の気分を害さないように気を遣って話しているように感じるけれど、王都は情報が得られないから、レローズに戻り、反乱兵の生き残りや関係者から情報を集めようと考えるのは当然だと思う。
そこで、私はアルマに提案することにした。
「最近、職員向けの掲示板に、フーシェ伯領の情勢を纏めた掲示が張り出されたのよ?一緒に読みに行かない?」
クリスは、目を少し見開き感心を示したけれど、直ぐに肩を落として私に話し始めた。
「読みたいけれど、入れないでしょ?」
クリスの言うとおり、セントラルに入る手段はないのだけれど、何事にも例外があるもの。
私は、クリスの目を見ながら自信満々に話し始めた。
「セントラル入省志願者向けの見学会があるのよ。申請すれば、セントラルに入れるわ」
私の答えを聞いたクリスは、首を軽く左右に振りながら、口を開いた。
「1か月ほど試験勉強をしていないから今年は無理だわ、それに、試験を受ける気力がないのよ」
クリスの言うとおり、セントラルの試験は、宮廷省の本試験並みの難易度とされ、1ヵ月間のハンデが重いと感じるかもしれないし、恋人の生死が分からない状態で、精神的に試験が受けられないと思う。
しかし、彼女の表情や仕草から、見学後、試験を辞退することで私に迷惑を掛けることを心配しているように感じた。そこで、クリスを安心させるため話し始めた。
「私の推薦だけで見学許可が取れるから安心して」
クリスは、心配そうな面持ちで「あなたに迷惑かけない?」と私の顔を覗き込んで確かめてきた。
そこで、迷惑が掛からない理由を説明することにした。
「問題ないわ。今年から志願者が増えるはずなのよ。1人辞退しても誰も気にしないわ」
「えっ?なぜ増えるの?」
今まで感情を顔にださなかったクリスが、驚いた表情を浮かべて私に質問してきた。
そこで、志願者が増える理由を話すことにした。
「まだ公表されていないけれど、今年から、採用試験要綱が見直されるのよ。宮廷省退所後、3年以内であれば筆記試験が免除されて、幹部面接と口述試験だけにすることも可能よ」
試験の緩和について、ダンテスさまの手紙を読むまで知らなかったのだけれど、志願者の負担軽減のため、試験免除の追加が発表されるらしい。採用試験3か月前の発表に、志願者は混乱しないかしら?と思いつつも、試験免除に求められる条件が地味に厳しい・・・。
私の話にクリスは、「そうなの!?」と驚きの表情を浮かべた。
そこで、条件に該当するかどうか確認するため、質問した。
「退所して何年目?」
「今年で3年目よ・・・」
まるで、示し合わせたような3年以内の条件追加にダンテスさまの発言力は強いのかしら?と考えてしまうけれど、2,3日で決められることでもないわねと考えを改め、意味のない詮索を止めた。
すると、クリスが私に質問してきた。
「条件はあるかしら?」
クリスの質問に、志願者にとって地味に厳しいと思われる条件を説明するため、口を開いた。
「局長以上に推薦書を書いてもらう必要があるわ」
私の言葉を聞いたクリスは、肩を落とし、苦笑いしながら話し始めた。
「頼れる人がいないわ・・・」
肩を落とすクリスに私はすかさず口を開いた。
「あなたさえよければ、アーロンさまや騎士のアンヌ・マリーさまを紹介できるわ!」
「ありがとう。アルマ。あなたって凄いのね・・・。少し考えてみるわ・・・」
クリスは私を羨望の眼差しで見つめるけど、あなたのお陰で、昨日、アンヌ・マリーさまや騎士に叙任されたエリックさまとお知り合いになれたのよ!あなたのお陰なのよ!とも言えず・・・、苦笑いするしかないけれど、採用試験に興味を持ったクリスに少し安堵した。
私は、クリスが少しだけ前向きになったので、改めて見学会について聞いてみることにした。
「見学会は1週間後なのよ。行くよね?」
クリスは、少し悩みながらも口を開いた。
「そうね。採用試験を受ける気力がないけれど、掲示は見たいわ」
「分かったわ。任せて」
私は、クリスの賛同をえて、心が天に舞うような気持ちを抑えつつ、見学会まで1週間もあるのだから、彼女の考えが変わらないように、クリスの気持ちをより考えて行動しようと心に決めた。




