20 呼び出し3 ~王都にて~
レゼル王国王都 行政府セントラル2階応接室。
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2時間前、部下で研究員のアルマを応接室に呼び出した。そこで、突然のカミングアウトを受けて、人生で三本指に入る危機を迎えつつある。その内容は衝撃的だった。フーシェ伯領の反乱首謀者アラン・ベルナールの恋人を匿っていたのだ。しかし、反乱が鎮圧されて約2週間も経つにも関わらず、普通に生活できている点が腑に落ちない。アンジェ・ルージュが知らないわけがない。普通ならば、暗殺又は拘束し、同居しているアルマも処分されていた可能性もある。部下が暗殺される危険に気付けなかった自分に腹が立って仕方がなかった。
ダンテスと面談後、直ぐ陛下に謁見を申し込み、釈明するしかない。俺は、ダンテスが応接室の扉をノックするぎりぎりまで、アルマとクリステル、アラン・ベルナールとの関係について聞き、頭の中を整理した。
「トントン」
扉を叩く音が部屋に響いた。俺は「はいれ」と言うとダンテスが扉を開けて部屋に入ってきた。相変わらず笑顔を顔に張り付けて、何を考えているのか分からない。ダンテスは、俺の前に来ると右手を胸に当てて挨拶した。俺は、「堅苦しい挨拶はいい」と言い、ソファーに座るように促した。
ダンテスがソファーに座るのを確認すると、俺は口を開いた。
「久しぶりだな。ダンテス。最近、復帰したと噂で聞いたが本当なのか?」
「お久しぶりでございます。アーロンさま。『たまに働け』と陛下に尻を叩かれました」
反乱が起きる前後での復帰は、何か裏があるなと思いつつも、聞いても適当にはぐらかされるだけだと思い、深堀することを止めた。ダンテスとの話を長引かせても意味が無い。陛下に釈明する方が先だ。
「それは大変だな。アルマ。ダンテスに挨拶せよ」
俺は、ダンテスとの会話も程ほどにアルマに挨拶を促した。彼女は、怯えた表情を浮かべ震えていた。震える手の上に大丈夫だからと手を重ねると、少し安心したのか、ゆっくりソファーから立ち上がり、挨拶を始めた。
「はい。アーロンさま。私は、アーロンさま付き魔術応用研究室研究員アルマ・ルナールと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
声を少し震わせながらも、アルマはスカートの裾を摘まみ挨拶を終えた。そんなアルマの様子にダンテスは、顔色一つ変えることなく、笑顔を顔に張り付けたまま、ソファーから立ち上がり、挨拶を始めた。
「私は、女王アリシア・ラポートル・デ・ラデース・レゼルさま付きの名誉執事ダンテスと申します。突然の面談に驚かれたと思いますが、気楽にして頂いて構いません」
ダンテスは、名誉職の名誉執事を名乗ったが、元統括執事で王宮の使用人トップだった人物。彼は、王宮に勤める使用人が持つ情報がダンテスに集約する仕組みを構築し、『裏のドン』と呼ばれ、その情報力を生かして、宮廷内の反乱因子を影で消してきた。引退した今でも、その力は衰えをみせない。
ダンテスが来た目的は明らかだ。回りくどく探りを入れつつ、相手の出方を伺えば、隠し事をしていると思われかねない。直球で本題に切り込むことで、良い印象を与えた方が良いと考え、俺は口を開いた。
「ダンテス。今日の話は、アルマの家にいる女の件か?」
俺の直球に、彼の眉毛が少し動いたのが分かった。彼にとって想定外の切り込みだったのかもしれない。ダンテスは、「その通りでございます」と顔色一つ変えずに返答した。
俺は、畳みかける様に言葉を続けた。
「報告が遅れて申し訳ない。私のミスだ。今直ぐ陛下に報告する」
俺は、ダンテスに陛下との謁見を要求したのだが、彼は首を振りながら答えた。
「いえ。問題ございません。陛下は、現状を維持することをお望みです」
ダンテスの答えの意図が分からなかった。
彼の言葉は、素直に聞けば、現状維持だが、今更報告しても遅いとも理解できる。後者であれば、最悪な事態を想定して動かなければいけない。そこで、この場に、アンジェ・ルージュが突入してくることも想定して、アルマの腕を掴み側に引き寄せると、一気に警戒を高めた。
ダンテスは、警戒を高めた俺を気にすることもなくアルマに話しかけた。
「アルマさま。陛下は、ご友人のクリステルさまを王都に引き留め、自宅に保護していることを評価なされています」
監視しているからこそ分かる情報を織り交ぜながら、評価すると言う彼の答えに矛盾を感じて、アルマと話をしようとするダンテスとの間に割り込んで質問した。
「それは、言葉通り受け取ってよいのか?」
俺は、ダンテスに疑いの目を向けて質問したが、ダンテスは粛々と説明を始めた。
「勿論でございます。本題に入る前に、こちらの契約書にサインをして頂きます。拒否は出来ません。書面は、今から話す内容を口外しないことを約束していただく内容が書かれております」
ダンテスは、鞄から1枚の契約書と筆記用具を取り出すと、アルマの目の前に書類とペンを置き、契約書の内容を説明し始めた。書かれた内容は、職務上、知り得た情報を開示しない。秘密を漏洩しない。漏洩した場合の罰則などが書かれていた。契約書は、機密情報を頻繁に扱うセントラル内で運用されている書面の一つで、内容を含めて手を加えられている所はない。局長クラスならば、たまにサインする書類だ。
俺は、『血の契約』で縛られているので、サインする意味がない。
ダンテスも分かっているからこそ、アルマの目の前に契約書を置いたのだ。しかし、初めてサインすることになるアルマが不安だろうと思い、書類を取り上げると、日付と自分の署名を書き、魔力を流した。サインを書き終えると、「ここに日付と署名を書きなさい」とアルマに指で指示し、サインと魔力を流させた。
「サインを確認いたしました。ありがとうございます」
書類のサインを確認したダンテスは、契約書を鞄に片付けると、厳重に封印された封筒を取り出した。
「封筒の『封印』をご確認ください」
ダンテスは、俺とアルマの目の前に封筒を掲げ、解かれた形跡の無い『女王の紋章』が押された封印を示した。俺は、「確認した」と答えると、彼は封筒を机上に置き、魔力を流し封印を溶かした。封印が溶けると、封筒から厚手の紙を1枚取り出した。




