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17 配属先 ~離宮別館応接室にて~

俺とアンは、机上に広げた資料や魔石の片づけを終えるとアリシアが口を開いた。

「エリック。話があるから、残りなさい。アンは、下がっていいわ」

鞄をメイドに預けたアンは、スカートの裾を両手で持ち挨拶をして部屋から退室した。アンの退室を確認すると、俺はマリーとの約束を思い出し、アリシアに話しかけた。


「実は、私も相談があります」

アリシアは、俺の顔をみてニッコリとほほ笑むと、「先に、あなたの話を聞きましょうか?」と話した。アリシアの話は長くなるのだろうか?俺の相談は、通達がないことをアリシアに認識してもらうだけなので、先に話をさせてもらうことにした。

「通達がないのですが、何かご存じですか?」

「その件ならば、私の話と同じね」

アリシアは、俺の相談と同じだと言った。つまり、配属に関する正式な通達があると察した。正直な所、先日の謁見の場にいたジルと肩を並べて戦うのはキツイと思いつつも、今更、ウジウジ考えても仕方ないと腹を括り、アリシアの言葉の続きを待つことにした。


「エリック。あなたはアンと同じ、アンジェ・ブランに配属するわ」

アンヌ・マリーは、アンジェ・ブランの騎士を名乗ったことから、アンジェ・ブランは、アンジェ・ガルディエーヌを構成する一部門だと予想した。しかし、一般的に、アンジェ・ガルディエーヌの組織体系やその詳細は、国防省の元武官で反乱軍の元副官二コラや宮廷省の元技官クリステルでさえ知らなかった。良い機会だと、アリシアに組織について質問してみることにした。

「私は、アンジェ・ガルディエーヌの組織体系が分かりません・・・」


俺の質問に、アリシアは、説明したと思い込んでいたのか首を傾げたものの、組織について丁寧に教えてくれた。

「あら?説明していなかったかしら? 近衛騎士団アンジェ・ガルディエーヌは、4つの部門があるわ。国家騎士の指南役や教導を行うアンジェ・ルージュ。セントラルを動かして研究や開発を行うアンジェ・ブラン。セントラルで経済や外交、教育など政策立案するアンジェ・ブルゥ。騎士の支援をするアンジェ・ノワールね。詳しくは、仕事をすると分かるわ」

説明によると、4部門中、1部門が実質的な騎士団。残りの3部門は研究や行政、支援をしていることになる。つまり、団員数は分からないが、全体の1/2~3/4は非戦闘員だと予想できる。懸念事項が一つ無くなり、一安心したのだが、重要政策を企画立案する行政府セントラルと騎士との関係は驚きだった。


「つまり、私は、セントラルで研究開発を担当ですね」

「そうなるわね。テストが終わったら長官に任命するから、そのつもりでいなさい」

突然の予告に俺は、「長官ですか?」と声が裏返ってしまった。


俺の裏返った声にアリシアはクスっと笑うと長官について話してくれた。

「セントラル研究開発部門の総責任者。つまり、ラファエラの直下ね」

「私に務まると思えませんが」

組織体制すら満足に分からない俺に期待しすぎだと遠回しに断ったつもりなのだが、アリシアは言葉を続けた。


「全く心配いらないわ。あなたが考えているほどセントラルのレベルは高くないのよ。逆に失望させてしまうのではないかと心配よ・・・」

アリシアは、ハァーと深くため息をつくと、「私がしたいことを理解しているエリックの協力が必要なのよ」と呟いた。

「買いかぶりすぎだと思いますが、その心づもりでいます」

俺の言葉に、アリシアはパッと明るい表情を浮かべ、両手を胸の前で握ると「お願いするわ!」と答えた。


一通り話を終えたのか、アリシアは、メイドに「持ってきなさい」と指示を出すと、メイドの指示を受けたボーイが金のトレイをワゴンに載せて運んできた。

「アンジェ・ガルティエーヌの支給品を渡すわ。身分証明も兼ねているから大切にしなさい。あと、この国で、あなたの言葉は、私の言葉。肝に銘じておきなさい」

ボーイは、支給品が乗せられた金のトレイを重そうに机上に置くと、アリシアは、トレイ上の刀を取り、俺の目の前に掲げた。

「受け取りなさい」

俺は、床に跪き、刀を両手で受け取ると、「改めて忠誠を誓います」と一礼した。アリシアは、ゆっくりと頷くと、腕輪と白いマントを俺に着せてくれた。


「最後に、人事の相談だけど、あなたの上席メイドとして、マリーはどうかしら?」

アリシアは、探りを入れるかの様に、ラファエラ付きメイドのマリーを俺に付けないかと提案してきた。しかし、筆頭騎士であるラファエラから新人騎士への異動は、降格だと思うだろう。俺は、素直に懸念事項を伝えることにした。

「ラファエラから俺への異動は、事実上の降格になりませんか?」


俺の懸念に、想定内の質問だったのか顔色一つ変えず、答え始めた。

「その点は心配ないわ。今はメイド長だけど、執事長相当の上席メイドだから昇格よ。あなたに付けば、使用人トップだった元統括執事ダンテスに学ぶ機会も得られるから、彼女は必ず提案を受けるわ」

アリシアの答えに、マリーのことを考えた上での異動の提案だと理解し、俺の考えも伝えることにした。

「実は、私もマリーを部下にしたいと考えていました」


俺の考えを聞いたアリシアは、言葉を続けた。

「この後、マリーと話をするわ。通達は、明日出せると思うわ」

俺は、「承知しました」と答えて、他に決めることがないかを確認するために話を続けた。

「他に、私が決めなければいけないことがありますか?」

アリシアは、顎に手を当て暫く考えてから、口を開いた。

「あなたは、テストに向けたリボルバカノンの調整とアンのサポートに集中してくださる?細々したことは、マリーとダンテスが全部対応するから、あなたは受け身でいいわ」


ダンテス・・・。そういえば、謁見後3日ほど経つが、全く見かけない。裁判の日程と対応、クリスについての相談など、彼の考えを聞くため打ち合わせをしたいと考えていたが、捉まらないのだ。

「そういえば、ダンテスを見かけないのですが・・・」


アリシアは、一瞬、ハッとした表情を浮かべ、不自然な笑みを浮かべながら話し始めた。

「そうね。今、王都にいるのよ!根回しをしているわ」

明らかに様子がおかしい。俺は、ジト目で追及することにした。

「どの様な根回しをしているのですか?」


「あなたの彼女を説得するための秘密会議よ」

アリシアは、説得に向けた会議だと言うが、クリスの友人アルマへの根回しだろうか?謁見時の約束は、強引に進めず、セントラルの試験を受けさせ入省させることだ。細かい対応は、ダンテスに任せれば安心だが、アリシアが余計な横槍を入れることが心配だった。そこで、改めて謁見時の約束を確認することにした。

「強引なことをせずに約束通りの手筈で進めて頂けるのですよね?」

「勿論よ。私は、あなたに嫌われたくないの!大丈夫。やらかしたら半殺しにするから安心して?」


小柄で可愛らしい見た目のアリシアの口から、『半殺しにする』というセリフが出てくることが心配なのだが、そもそも、謁見前の廊下で、メイドのマリーは、陛下が凶暴で、何人もの騎士を半殺しにしていたと教えてくれた。心配ではなく、確実に実行されるはずだ。失敗したときのことを考えると、頭が痛くなるので、暫く様子を見ることにした。

「お約束通り、お任せしますが、程ほどにお願いします」


「もちろんよ。10月ごろ、『アリシアありがとう』と泣いて喜ぶあなたの姿が目に浮かぶわ!」

採用試験の日付は分からないが、9月中に合否発表。10月1日が入省日だと予想できる。10月に感動的な演出を考えてくれているのだろうか?大丈夫か?不安しかない・・・。

「ぜひ、その未来が実現することを望みます・・・」

早くダンテスを捉まえて相談しようと心に決めた。

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