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15 人工魔石4 ~離宮別館応接室にて~

爽やかな渋みのあるお茶を飲み一息ついた後、アリシアは、再びメイドを退出させ、魔石の話を再開させた。

「次に、魔石の作り方を比較したいのだけれど、エリックから教えてくださらない?」

魔石の作り方は、アリシアが、俺の耳に付けた魔石を外さず、俺のベッドに潜り込んで調べていた位に知りたがっていた情報だ。


「私の作り方は4工程です。最初に材料を混ぜる、次に形を整える、その後、焼き固めて、冷やします」

二人は、頷きながら生産工程の話を聞き終えると、アリシアは、アンの顔を見て「大きな流れは同じね」と話した。アンは、「そうですね」と同意すると、「焼き固める作業について、もう少し教えて頂けませんか?」と俺に質問した。


「球状に成形したマジッククォーツサンドの粉体を炉に入れ、炉内を木炭の燃焼で加熱して、高温で粒子同士を結合させます」

一般的な食器などの陶器は、粘土を成形し、炉に魔力を注いで焼き上げる。魔石も陶器と同じように、魔力で焼き固めて作ることができる。しかし、長時間魔力を注がなければならず、多くの人手を必要とするため目立ってしまう。そこで、最小限の人手で作ることが出来る木炭を燃やす『燃焼法』を選択した。


二人は、俺の答えに驚いた表情を浮かべ、アリシアが口を開いた。

「魔力を使わないのね?」

この世界は、科学技術に対する偏見が根強い。クリスでさえ、魔力を使わずに魔石を焼き固める手法を気持ち悪がっていた。そこで、木材などの薪を魔力で着火して燃やす例を参考に、木炭を着火する魔力が、木炭に含まれるマジッククォーツサンドに連鎖反応して燃焼すると説明して、漸く納得してもらった。しかし、燃焼反応とマジッククォーツサンドは直接的に関係ないと思われる。しかしながら、ラファエラことアリシアは、血の贖罪で科学技術に一定の理解を示した。そこで、正直に答えることにした。


「木炭を着火するために少々使う程度です。燃焼法は、大量の木炭を使用するので、魔力が確保できるのであればお勧めしません」

アリシアは、俺の意見に小さく頷き、「魔力を殆ど使わない技術は、斬新ね!」と何か思案しながら答えた。しかし、魔石生産のために燃焼法を採用すると、国中の森は、あっという間に伐採され尽くしてしまう。石油や石炭も無いと思われるので燃やすものが無い。そこで、アンの作り方を確認することにした。


「アンヌ・マリーさま。作り方を教えていただけますか」

俺の質問にアンは、ニッコリとほほ笑むと作り方を話し始めた。

「基本的な作り方は同じですが、粉体を球状に成形したあと、炉に入れて魔力加熱します。その状態で丸一日、焼き続けます。炉内は、球面状の特殊な板を取り付け、注いだ魔力を何度も何度も反射して魔石に当てる様に工夫しています」

粉体に魔力を注ぐ現場は、作業者が交代制のローテーションで対応するブラックな現場を想像していたのだが、魔力反射炉のアイデアに目から鱗が落ちる気持ちで感心していると、アリシアは、俺とアンの作り方の共通点を見出したのかポンと手を叩き、考えを話し始めた。


「粉体を加熱して温度を上げる点で同じね。温度を上げると何が起きるのかしら?」

突然、俺に向けられた質問に、二人は、目をキラキラさせて答えを待っているのだが、二人が期待する答えではないので、一瞬、答えるべきかどうか悩んでしまった。だからといって、代わりの答えを用意しておらず、正直に答えることにした。


「粉体の温度を上げると粒子を構成する最も小さい微粒子が粒子内で動き始めます。そして、粒子同士が接触すると、微粒子が粒子間を相互に移動して、混ざり合うことで結合します」

王立図書館で調べた限り、分子や原子、更に小さい陽子や電子の存在を示唆する記述は一切、無かった。そもそも、この世界の物質が、前世と同様に原子や分子で構成されているとは限らず、別の『何か』で構成されている可能性もある。ただし、粒子同士の結合を見る限り、粒子内や粒子間を移動する小さい『何か』がある可能性は高いと思われる。


俺の答えを聞いたアリシアは、疑念と驚きが入り混じる表情を浮かべて俺に質問した。

「信じられない話だけれど、前世の知識なの?」

魔力が存在しない世界の知識が魔力のある世界で通用しない可能性は十分にあり得るのだが、魔力の影響が少ない分野で共通点が多いとも感じている。俺はアリシアの質問に対して、知識の出所を話すことにした。

「そうですね。この世界とあの世界の自然法則は似ている所が多いです。ただし、あの世界は魔力がありませんでしたので、必ずしも法則が通用するとも限りません」


俺の言葉にアリシアは、アゴに手を当てて考えていたが、答えが見出せないのか悩ましい顔で話し始めた。

「私たちは、粒子間に魔力が作用して粒子と粒子とを結合すると考えていましたが、微粒子の存在は、検討の余地があるわね? アン?」

アンは、もの言いたげな目つきで俺をじっーと見つめていたのだが、アリシアの指示に『はっ』と我に返り、慌てた様子で答えた。

「エリックさまの助言を参考にして、改めて検証してみます」

アンの慌てた様子にアリシアは「おねがいね」と苦笑いしつつ答えた。


人工魔石の作り方の違いについて、大まかに情報共有が出来たので、アンの魔石を見て感じた疑問を尋ねることにした。

「アンヌ・マリーさま。魔力加熱前に、表面のみ魔力を流していませんか?」

俺の質問にアンは、少し驚いた表情を浮かべてアリシアと目を合わせた後、魔力の流し方について教えてくれた。

「その通りです。粉体の形が崩れない様に、初めに表面のみ加熱してから、全体を魔力加熱します・・・」


予想通りの答えだった。

恐らくアンの結合剤は、温度を上げると液化または気化し、粉体が形状を維持できず崩れてしまうため、先に表面のみを加熱して、内部の結合剤が外部に漏れださない様に固める必要があるのだろう。そこで、アンに表面のみ加熱することで生じるデメリットとその理由を伝えることにした。

「表面を焼き入れしてしまうと、表面に固い層と内部の柔らかいままの層ができてしまいます。この固さの異なる層の境目、つまり、界面ができてしまうと加熱時に歪みが生じて、ヒビが生じます」

「表面の加熱を無くす方法はありませんか?」

アンは、俺のアドバイスに納得しつつも、現状では打つ手がないのか、困り果てた顔で尋ねてきた。


アンの魔石の根本的な問題は、恐らく使用している結合剤にある。

つまり、粒子同士が結合を開始する前に結合剤が熱で消費されてしまう問題を解決しなければ、表面を加熱する工程を無くすことが出来ず、加熱後のヒビも無くすことができない。そこで、新たな解決策を提示することにした。

「わたしの結合剤は、低温で固く、高温で柔らかくなる性質があります」

俺の提案に、アンの顔は、パッと明るくなり、アリシアが質問してきた。

「面白い性質ね・・・。最初から魔力加熱しても形状が保てるかしら?」


「粒子同士が結合を開始する温度までなら形状が崩れることなく加熱できます」

俺の回答にアリシアは満足げな表情を浮かべたのだが、粒子が結合を開始する温度と液化した結合剤が急激に粘度低下する温度が近いため、結合を開始する温度からゆっくりと温度を上げる調整が難しい問題がある。この調整はクリスが得意だったので、彼女と合流さえできれば問題にならないだろう。


「ところで、エリックさまの結合剤は、どの様に作られたのですか?」

アンは、新たなアイデアに可能性を感じたのか期待感に満ちた表情で、結合剤の作り方を尋ねてきた。

「魔獣から採取される油を蒸留して得られる液体と魔獣の溶解液を反応させて作ります」

この結合剤は、人工魔石の核となる技術だ。今まで、天然樹脂や皮を扱う工房で使用されていた接着剤など様々な物を試したが使えず、自分の目的に合う結合剤を合成するしかないと腹を括り、試行錯誤を繰り返して漸く辿り着いたものだ。


本来なら簡単に教えられる内容ではない・・・。しかし、結合剤は、漸く及第点に届いたレベルであり、魔力量低下の問題や試作設備の再構築など問題が山積みである。アリシアのリーダシップと資金力、アンの経験やスキル、クリスの調合士としての能力がなければ解決は難しいだろう。情報は秘匿せず、積極的に開示する方が望ましいと考えた。


結合剤の作り方を聞いたアンは、簡単に入手や生産できないことに気付くと残念そうに肩を落としたが、設備は一度作っているので、時間さえかければ再構築できる。問題はお金だけだと思案していると、アリシアが、口を開いた。

「ものすごい手間がかかりそうだけれど、お金の心配をしなくていいわ!」

アリシアは、俺の顔を見て、成功する未来しか見えていない目を向けてきた。この自信はどこから湧き出てくるものかと感心してしまうのだが、結合剤を試作するにあたり、問題はお金だけなのも事実だ。


「設備から準備しなければならないので、時間もお金も掛かりますが、更に良いものが作れると思います」

俺の答えにアンは、「設備を作る前に、試すことが出来ないかしら・・・?」と呟いた。

アンの呟きに、工房の荷物の中に結合剤があることを思い出した。


「離宮倉庫に移動された工房の荷物の中に結合剤があるかもしれません」

俺の答えに、アンは、「本当ですか!」と今日一番の笑顔を見せ、アリシアは、「至急、倉庫の確認をお願いできるかしら」と結合剤の確認を指示した。俺は、「直ぐに確認します」と返答した。

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