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14 人工魔石3 ~離宮別館応接室にて~

アンは、実験を終えるとポケットからルーペを取り出し、手袋を嵌めた手で魔石の表面を入念に観察し始めた。実験後の魔石を観察し始めたアンの様子を尻目に、アリシアは、魔石について話し始めた。

「魔石と魔力は関係無いと世間で言われていますが、私たちの共通認識として、魔力の源は魔石。魔石に力を加えることで魔力が発生する理解でいいわね」

アンと俺は、「異論ありません」と答えると、アリシアは静かに頷いた。

それでは、「アン。魔力を流した結果を教えてくれるかしら」とアリシアは、アンに実験結果の報告を指示した。


アンは、魔石の外観観察を終えて、ルーペを机の上に置くと、一連の実験結果を報告し始めた。

「私の人工魔石でも同じ結果が得られましたが、汎用魔術や戦闘魔術の魔力を注ぐと魔石が収縮する感覚がはっきりと確認できました。これは、生体内で魔石を包む魔石袋の筋肉を収縮させると魔力が発生するとされる昔の研究報告と逆の現象です。そして、今回の結果は、以前、私の研究報告書で報告いたしました。改めて同じ結果を確認いたしました」


アンの関心は、魔力発生メカニズムの様だが、アリシアは、発生メカニズムからエネルギ化に結び付くヒントやアイデアを求めていると、今までの会話から察して、俺は、アンの意見に補足した。

「異論ありません。見方を変えれば、魔石に加えた力は、魔力に変換され、逆に、魔力を加えると、石が歪み、収縮する力に変換されます。つまり、魔力と力は可逆変化する点が重要だと考えます」


俺の意見にアリシアは、顔を輝かせて嬉しそうに答えた。

「その通りよ。騎士たちは、大きな魔力が取り出せる点ばかり注目して、魔力を強力にするための魔力タンクの様に考えているのよ。でもね。違うのよ。魔力が、別のエネルギに変換できる点が重要なのよ!」


アリシアの意見から、彼女は人工魔石を既存の魔術をより強力にする道具としてではなく、光や熱、動力、音などのエネルギに変換して応用することも考えているのだろう。

「同意します。人工魔石があれば、夜の町や道路を照明で照らし、馬を必要としない馬車で農作物を素早く、遠くまで運搬出来るようになるでしょう。恐らく、離れた場所の人と人とが話をすることも可能になると思いますよ」

俺の意見に、アリシアは一瞬、驚いた顔をしたのち、アンと顔を見合わせ質問してきた。

「なぜ、離れた場所の人同士で話ができると思うの?」


俺は、ジャケットの内ポケットから手帳を取り出し、紙を一枚破ると机の上に置いた。

「簡単な話です。まず、紙に魔力を当てると長くまたは短く動かすことができます。そして、先ほどの実験から、その逆も成立します。

二人の目の前で、机上の紙に魔力を放出して、紙を動かして見せた。

「次に、この長く動かす魔力を長点、短く動かす魔力を短点として、長点と短点の組み合わせを文字に当て嵌めれば、文字列を魔力信号として送信できます。そして、送信された魔力を受けることができれば、長点と短点の組み合わせで構成された魔力信号を文字に変換して、文章として読むことができるはずです」

レゼル文字に長点と短点を当て嵌めて、簡単な文章を作り、長点と短点の組み合わせたコードを魔力で紙に当てて見せてみた。


アリシアは、俺の話を一通り黙って聞いた後に口を開いた。

「エリック。その話を今まで誰かにしたことある?」

一連の話で部屋の空気が徐々に悪くなり、アリシアは、にこやかに話しているのだが、目が笑っておらず、アンは顔色が悪く俯いていた。触れてはいけない話をしている様に感じた。

「・・・話したことがありません。しかし、何故でしょうか?」


アリシアは、深くため息を付くと俺とアンの顔を見て理由を話してくれた。

「あなたは、わたしのエリックで、アンジェ・ガルティエーヌの騎士。秘密にする理由が無いから話すけれど、私たちは、レゼル文字を魔力信号として送受信できる『通信機』を実用化しているのよ。そして、通信機は、国家防衛戦略上、最も重要とされる機密情報なの。そして、レゼル王国が急拡大した原動力なのよ」

反乱時に、領主軍は通信手段として、手旗信号や煙などを使っていた。しかし、国防軍は信号らしきものを使用している様子がなく、それでいて統率がとれた動きに違和感を覚えた。しかし、通信機があるのであれば納得だ。

「なるほど。魔力の信号化は以後、口にしないことをお約束します」


アリシアは、組まれた足の上で、先ほど献上された魔石を人差し指と親指とで摘まみ、転がしながら落ち着いた声音で話し始めた。

「本当に末恐ろしいわね。一つ間違えれば、私とあなたが戦う未来がありえたかもしれませんね・・・」

アリシアの言葉に、暫く部屋は静寂に包まれ、固唾を飲むしかなかった。


暫く、アリシアは、指で魔石を転がしていたが、魔石を握りしめると、ソファーに座り直して姿勢を正した。

「次に。医療魔術用の魔力を流した結果を教えてくれるかしら」

アリシアは、話題を変え、アンに実験結果の報告を続ける様に指示した。アンは俯いた顔を直ぐに上げて報告を始めた。

「医療魔術の魔力を注いだ場合、私の人工魔石は不安定で確信できなかったのですが、エリックさまの人工魔石で、魔石の膨張がはっきりと確認できました。恐らく、魔石袋の筋肉を収縮でなく、膨張させると魔石が筋肉で引っ張られ、魔力が発生すると思われます。今まで、医療魔術の魔力の発生メカニズムが分からなかったのですが、今回の実験で貴重な知見が得られました。大発見です」


今まで同一だと思われていた魔力が、戦闘用と医療用とで異なる可能性があることが分かっただけでも大発見なのだが、この考え方が独り歩きすると、人工魔石が生体の魔力を補完する魔力タンクだと勘違いされかねない。そこで、俺は、研究が間違えた方向に進まない様にアンヌ・マリーの意見に補足した。

「今回、医療魔術用魔力で魔石が膨張し、戦闘用魔力で収縮する点と過去の知見から、魔力と力の可逆性を裏付けることができたのではないでしょうか?そして、魔力の発生方法の違いは、全ての魔術に使用される魔力が同一ではなく、異なる可能性が高いです。魔力の違いを更に詳しく調べる必要がありそうですね」


今回の実験で最も注目すべき点は、魔力の違いに依らず魔石が膨張や収縮した点に尽きる。この現象は、クリスとともに人工魔石を試作してから直ぐに気が付き、応用した兵器がリボルバカノンだ。リボルバカノンは、フェールと呼ばれる魔力を通す金属性レール2本の間に弾丸を置き、魔力をレールに流すことで生じる魔力場で弾丸を加速して射出する仕組みだ。火薬を利用したハンドカノンとは異なり、魔力と力のエネルギ変換を利用した新しい兵器だ。

俺とアンの意見を聞いたアリシアは、満足そうな笑顔を浮かべて答えた。

「二人とも素晴らしい考察だわ。アン。エリックの魔石を使って、魔力の違いを詳しく調べなさい」

「かしこまりました。アリシアさま」

アリシアは、アンの返事に頷き、「少し休憩しましょうか」と言い、メイドを部屋に戻し、お茶とお菓子を準備させた。

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