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13 人工魔石2 ~離宮別館応接室にて~

窓も扉も全て締め切られた応接室の一室で、後世、世界で初めて人工魔石を実用化した研究者として名を残すことになる4人のうち、3人が初めて顔合わせしていた。特に、人工魔石の開発を主導した2人が、異なる場所で試作した特徴の異なる魔石は、近い将来、一つになり、世界を大きく動かすことになる。しかし、一つになるためには、もう一人の合流を待つことになるため、実用化は暫く先の話になる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「エリックさま。早速ですが、魔石に魔力を流しても宜しいですか?」

アンは、手袋をはめた手に持つ魔石を俺に見せて、真剣な面持ちで魔石に魔力を流す許可を求めた。

「構いません」

俺は頷き。魔石に魔力を流すことを了承した。


陛下は、緊張気味なアンの目を見ながら、「アン。思いっきり魔力を流しても大丈夫よ」と魔石に流す魔力量についてアドバイスした。アンは、初見であるはずの陛下のアドバイスに首を傾げつつ、「本当ですか?割れませんか?」と貴重な魔石を割ってしまうのではないかと不安を抱えながら、俺の魔石を真剣な眼差しで見つめた後、俺と陛下の顔を不安そうな目で見つめた。


「大丈夫よ。アンならば、全力で流しても問題ないはずだわ」

アンは、陛下が、俺のベッドに2日間忍び込み、魔石を調べていたことを知らないはずだ。事情を知らなければ、自信満々の陛下の言葉は、根拠のない思い込みによる発言だと感じて不安しかないだろう。

アンの不安を知ってか知らでか、陛下は、迷いのない瞳をアンに向けている。


俺は、自信満々な陛下の目をジト目で見つつ、「ずいぶん、お詳しいですね?」と全てを見透かした様な冷静な声音で尋ねた。陛下は、「そうね。少し前に研究したのよ」と遠回しで事前に調べたと教えてくれたのだが、詳しく事情を説明するつもりはない様だ。


詳しく説明するつもりが全くない陛下に、俺は、追及の手を緩めず、「ほぉ・・・。どこで研究されたのですか?」と陛下に説明を求めた。なぜなら、陛下の説明でアンが納得できる訳がないからだ。


陛下は、赤くなった両頬を手で押さえながら、「そうね・・・。あなたのベッドの上ね」とあっさりと白状したのだが、陛下の答え方に予想通りの誤解をしたアンは、顔を真っ赤にして、俺と陛下の顔を何度か繰り返し見たあと、両手で口を押さえてアワアワし始めた。


アンは、完全に誤解しているが、後で事情を説明することにして、耳の魔石を外す機会が有りながら、今も付いたままになっている理由が知りたかった。そもそも、血の贖罪で、結晶化のヒントが得られるからと魔石をラファエラに託したのだ。


「差し上げたつもりでしたが?」と陛下に魔石を託したことを確認した。陛下は、腰に手を当てて膨れ面で、「その様に聞こえませんでしたわ。それに、黙って持ち出すと作り方を教えてくれないと思ったのよ」と耳に付いたままの理由を教えてくれたのだ。俺は半ば呆れ返り、「その点は、常識的なのですね」とため息をついて答えた。


「そうよ。凄く我慢したのよ!夜も寝られなかったわ」

陛下は、夜も寝られないぐらい我慢したと、アピールしたのだが、物事を強引に進める傾向がある陛下が、石橋を叩きながら慎重に対応したことに、魔石研究にかける陛下なりの熱意の様なものを感じた。


このまま耳に付けていると、何かと誤解を生む原因になり兼ねないと考え、机上の赤いクッションに置かれたもう一つの魔石を右手に摘まみ、陛下の目の前に跪いて魔石を差し出した。

「陛下。魔石を改めて献上いたしますので、しっかりとお休みください」

陛下は、嬉しそうに魔石を両手で受け取ると、「もぅ。陛下はやめて。『おれの』アリシアと呼んでいいわ」と名前で呼ぶことを認めてくれた。


「ありがとうございます。『女王』アリシアさま」

『女王』に置き換えられた言葉を聞いたアリシアは、少し不満そうな顔を浮かべて膨れ面で俺を暫く見続けた。しかし、おれのアリシアと言える訳ない。なぜなら、誤解で済む話でなく、不特定多数に事実でない確信を与えてしまうからだ。


俺とアリシアのやり取りを赤面しながら聞いていたアンは、ようやく口を開いた。

「あっ、あのう・・・魔力を流します!」

アンは、普段とまるで違うアリシアの態度に戸惑いながら、魔石に魔力を流した。

天然魔石は、魔力を流し続けると2つに割れてしまうので破裂することはないが、中途半端な粘りを持つ人工魔石は、突然破裂するリスクがある。恐らく、アンも、魔石に魔力を流すと破裂する可能性があることを知っているのか、どこまで真実なのか分からないアリシアの話を真に受けず、慎重に魔力を流している様子だ。


「アンヌ・マリーさま。魔石が破裂する前の兆候として、石が細かく振動して温度が上がります。手で持てないほど熱くなると破裂しますから、手で持てるのであれば問題ありません」

アンは、石から目を離さず頷くと緊張した面持ちのまま魔力を流し続けた。今のところ魔石は目に見えて変化が見られない。暫く沈黙が流れたが、アンが口を開いた。


「まだまだ魔力が注げそうですね・・・底が見えません」

「試しに、強めに流してみては如何ですか?」

俺は、アンに魔力を強めに流すことを提案し、アンは頷くと強めに魔力を流し始めた。


「石が温かくなりましたが、変化なしです。表面にヒビすらないようです。次は、注ぐ魔力を変えてみようかしら」

アンは、そう言うと、一旦、魔力供給を止めて、額の汗を拭い、深く深呼吸すると、再び両手を魔石にかざした。

「次は、医療魔術用の魔力を流してみます」

アンは、魔石の一点に集中し、魔力を流す準備を終えて、アリシアの目を見た。アンと目が合ったアリシアは、ゆっくりと頷き、次にアンは、俺の目を見た。


「アンヌ・マリーさまは、医療魔術を使うことが出来るのですか?」

俺は、緊張感に流され、実験の流れを断ち切る余計な質問をしてしまったが、直ぐに場違いの質問に気付き、質問を撤回すべきか考えていると、アンは苦笑し、アリシアがヤレヤレという顔をした。

突然の質問に、緊張感が途切れたアンは、苦笑いしつつ「人の治療が出来るほどのスキルはありませんが、魔力だけであれば流せますよ」と答えてくれた。この世界の魔術は、医療用、汎用、戦闘用の3つに分類される。三つの内、医療用は、繊細な魔力コントロールが要求され、一つ間違えると人が死んでしまうことから特に難しいとされる。


「それでは、仕切り直して医療魔術用の魔力を流します」

アンは、魔石に手を翳すと躊躇なく魔力を流し始めた。天然魔石に汎用魔術や戦闘魔術用の魔力を流すと表面に細かいヒビが入り、暫くすると割れるが、医療魔術用の魔力を流すと流した瞬間割れてしまうことが知られている。つまり、魔石は、戦闘用よりも医療用の魔力に弱いことになる。


今回、俺の人工魔石に、本格的な医療魔術用魔力を流すのは初めてだ。しかし、2日間、ベッドに潜り込んで実験をしていたらしい天使さまが、何故か自信満々で見ているのだ。俺は、アリシアの顔を見て『大丈夫だろうな?』と目で訴えかけると、アリシアは頷き『大丈夫』と答えてくれた。


暫くの間、沈黙が流れ、俺とアリシアは、アンが魔力を流す様子を静かに見守った。

「あぁ・・・全然問題ありませんね。これだけ魔力を注いだのは初めてです」

アンは、魔石から両手を外し、額から出た汗をハンカチでぬぐいながら、ひと安心したのかホッとした表情を浮かべた。

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