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12 人工魔石1 ~離宮別館応接室にて~

お菓子の話が一段落すると、陛下は、応接間にいるメイドに全員下がる様に指示した。メイドが全員部屋から退出し、ドアが閉まると陛下は、俺とアンの目を見て話し始めた。

「エリック、アン。今日は、魔石について話をしようと思うの。早速だけれど、お互いの魔石を机の上に置いて頂けるかしら」


俺は「かしこまりました」と答え、両耳のイヤリングを外した。

2つのイヤリングは、魔石が覆輪留めされているため、ポケットからペンを取出し、ペン先で縁を起こして魔石を取外した。取外した2個の魔石は、机上に置かれた小さな赤いクッション上に置いた。石の直径は10ペデスで球体。色は白濁。平民の成人の体内にある魔石と同程度か若干大きい魔石だ。

同時に、アンも鞄から細かな装飾が施された美しい箱を取り出し、机上に置いた。その後、机上に置かれた箱の中から魔石を1つ取出し、机上に置かれた別の小さな赤いクッション上に魔石を置いた。石の表面は半透明。直径はおよそ15ペデス。俺の魔石と比べて、直径で5ペデス程度大きいため、体積で比較すれば3倍差になるだろう。外観は、表面に微細なヒビがあるものの天然魔石と比較すれば十分に安定している様に見える。

そして、自然とお互いの魔石を手に取り観察し始めた。


「凄いな・・・」

「凄いですね・・・」

俺とアンはお互いの魔石を見て、自分の魔石に無い特徴があることに気付き感嘆した。

アンの魔石は、表面の細かいクラックの状態から、結晶の安定性の面で俺の魔石に劣る。恐らく、魔石が持つ本来の魔力に対して、50~60%程度まで出力を抑えなければ、短時間で石が割れてしまうのではないだろうか。そこで、アンは、魔石の出力を抑えて劣化を抑制しつつ、不足する魔力は、大型化することで対策したと思われる。しかし、目の前の魔石は、出力を50%に抑えたとしても、俺の魔石のおよそ2倍の魔力が期待できるはずだ。そして、この魔力量は、俺自身の魔力を上回る。

これだけの魔力があれば、リボルバカノンを多少なり回せるはずだ。


「エリック。この魔石を見てどう思う?」

陛下は、俺の顔を不安げに覗き込み感想を尋ねてきた。しかし、単純に比較できるものではない。強靭化に専念できた俺と人工魔石の供給を意識していたと思われるアンとでは、開発思想がまるで違う。


「表面の状態から、魔石本来の力が発揮できないと思われますが、魔石の不安定さを大きさでカバーする考え方ではないでしょうか。私の思想とは異なりますが、結晶化が困難な状況下で考えられる解決方法の一つだと思います」

俺の感想に、陛下の顔がパッと明るくなった。

「アンは、納得していない様だけど、私もそう思うのよ!気が合うわね!」

陛下は、アンの顔を見ながら俺の意見に同意したが、アンは、俺と陛下の意見に否定や肯定もすることなく黙って聞いていた。

彼女の胸の内は理解できる。なぜなら、研究は100点に最も近い内容が評価されるからだ。

一方で、期限のない競争で、物や人の価値は、スピードが生み出す。新しい価値を誰よりも早く世の中に届けることが『価値の本質』だ。そのため、完璧を追求しすぎると、付帯する研究が芋づる式に遅れ、研究成果から得られる価値も低下する可能性がある。


「この魔石は、60点かもしれませんが、実現したことに意味があります。人工魔石は、例えるなら人の魂です。完璧な魂が準備できても、魂を入れる体がなければ意味がありません。しかし、未完成でも60点の魂があれば体を作る準備をすることができるのです。魂が手元にある意味は大きいです」

人工魔石の実用化が、世の中を一変させることに気付いている者は、俺が知る限り陛下しかいない。そして、スピードの重要性にも気付いている。恐らく、未完成の人工魔石を支給するように指示しているのも陛下だろう。一方で、意に反して未完成の魔石を支給したことで、アンは批判に晒されているのではないだろうか・・・。


「その通りよ!完璧な人工魔石が出来てから、魔石を使う道具の開発を進めても遅いのよ!でもね。サルテ(くそったれ)達は、『魔石がすぐに割れるから何もできない』と言い訳するのよ。本当に許せないわ!」

陛下は、一通り不満を言い終えると頬を膨らませてアンに抱きつき「私とエリックは、あなたの味方よ」とアンを励ました。しかし、アンが批判に晒されている原因は、陛下の判断ではないのか? と考えていると、陛下は、突然何か閃いたように顔上げて、「わたしのエリックが何とかするわ」とアンに語り掛け、優しく両手を握りしめた。


俺は、突然振られた話の意図が理解できずにいると、アンは、伏し目勝ちの目を上げて「期待して宜しいのですか?」と上目遣いで俺を見た。陛下は、間髪入れずに「もちろんよ!」と言い、二人は両手を握りしめたまま、キラキラの眼差しを俺に向けてきたのだ。


陛下の黒い瞳とアンのアンバー(金)の瞳の奥に、『キ・タ・イ』の文字が浮かび上がる様に感じる。

女子のみが行使できる精神系魔術『キ・タ・イ』。

無防備な状態で行使された魔術に、俺は抵抗する間もなく術に落ちたのだった。


「お、おぅ・・・。そうですね・・・。魔石を4つほど支給していただければ、ギャフンと言わせて見せましょう。そして、使えない理由を探すのでなく、使いこなそうとする考え方が大切だと教えましょう」

俺の言葉に、二人は手を握り合いながら大はしゃぎだ。

しかし、俺は、二人を安心させるために、リップサービスした訳ではない。アンの魔石を確認して、使いこなせる自信を持てたからこそ発言したのだ。そして、俺の自信は、安定化した魔石のみで得られる幾つかの知見で裏付けされている。


陛下は、一通り、アンとはしゃぎ合うと、少し思案したのち俺に質問した。

「以前、お願いしたリボルバカノンをテストするのよね!?」

「その通りです。アンの魔石で『地獄の業火』をご覧にいれます」

俺は、笑みを浮かべて、秘策があることを匂わせた。

当初、リボルバカノンの試射は、ほどほどに終わらせて、当面の問題を優先して解決しようと考えていた。しかし、魔力を抑えた状態で、魔力量が多いとされる王侯貴族並の魔力が期待できる人工魔石が支給されているにも関わらず、不満を言う同僚の存在は厄介だ。ちょい回し程度の中途半端なことをすれば、付け入る隙を与えかねない。


更に、セントラルに配属される可能性があるクリスは、アンと仕事をすると思われる。

今まで、彼女に散々心配を掛けたのだから、クリスが配属される前にアンの魔石を認めさせて、最高の環境で彼女を迎え入れたいと考えた。そんな俺の思いと陛下の意図にズレがあるものの、アンの魔石を認めさせる点で一致した。


「何か秘策があるようね!分かったわ。まず、予備を含めて魔石を8個支給するわ。リボルバカノンも直ぐに貸与するわ。整備は、敷地内に工廠があるから活用しなさい。あと、あなたの元工房に保管されていた物資や設備、私物は、全て離宮に移送して倉庫に入れたわ。テストの場所や案内、会場設営は、私が手配するわ。テストは一か月後でよろしいかしら?」

陛下は、テストに必要な事項を次々に決めた。特に、魔石は貴重なはずだ。量産設備が導入されていないはずなので、簡単に作れるはずがない。魔石の支給は、テストに掛ける陛下の熱意の表れなのだろう。


「問題ありません。工房の荷物を移していただき、ありがとうございます」

フーシェ伯領に構えた工房の荷物は、全て処分されるものだと思い込んでいたので、正直な所、驚いた。陛下の言葉通り、全て運び込まれていれば、マジッククォーツサンドの粉体や添加剤、リボルバカノンの消耗部品や強化部品など当面の活動で必要な物が一式揃う。俄然、やる気が湧いてきた。


「アン。わたしのエリックが、あなたの価値を示してくれるわ!この胸の高まり。もう抑えられないわ!」

工房の荷物を捨てずに保管してくれた陛下に感動している俺を尻目に、陛下は、成功する未来しか見えないのか絶好調だった。そんな陛下の前向きすぎる様子に、失敗したら消されるかもしれない最悪な未来を思い浮かべていると、アンが礼を述べてきた。

「エリックさま。ありがとうございます。私もエリックさまの晴れ舞台に相応しい魔石をご用意できるように、改良を進めさせていただきます」

アンは、決意に満ちた表情で、魔石の改良をアピールし、陛下は、「わたしのアンならば、きっと、やり遂げるわ」と嬉しそう言うと、アンに抱きついた。この二人ならば心配ないと、目を閉じて、残り一カ月で出来ることを頭の中で整理していると、自分に向けられている強烈な視線に気がついた。


恐る恐る目を開けると、二人は、『キ・タ・イ』の眼差しで俺を見つめていた。

この期待は、魔石の改良を手伝えということなのか? 

テストまで一カ月・・・。努力や根性で解決できるならばとっくに解決している・・・。

そもそも、手元にある魔石を工夫して使えば、魔石が割れることも無く、リボルバカノンを動かすことができるはずだ。慌てて改良魔石を試作して失敗するリスクを冒す必要などない。威力は劣るが、今の魔石で新兵器が動く所を見せるだけで、十分なインパクトを与えることができるはずだ・・・。


二人の期待は、無謀ともいえる無茶ぶりだ。

しかし、一カ月しかないからと断るのも印象が悪い。お互いの魔石の違いを比較して、変化点を明らかにした上で、アンの魔石を改善できる可能性があるアイデアを絞り込み、一カ月で出来ることを提案しようと考え、二人に話をした。

「今、手元にある魔石であれば十分に使いこなせる自信があります。ご安心ください。更なる改善を進めて頂けるのであれば、ぜひ、私の魔石を見てください。作り方なども比較すればヒントが得られるかもしれません」

俺の提案に、アンと陛下は、お祈りするように手のひらを胸の前で重ねて嬉しそうに頷いた。しかし、俺は、シモンに設備と資料を燃やされ、要であるクリスも身動きが取れず、直ぐに同じ物を再現できない。現状、魔石以外に手元に何もなく、偉そうなことを言える立場でない。せめて、離宮の倉庫に移動された工房の荷物の中に、魔石の材料があることを祈るばかりだ・・・。

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