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8 女王との謁見2 ~離宮本館 謁見の間にて~

魔石の話はきりがないので、俺は少し話題を変えることにした。

「ところで、陛下は、リボルバカノンの存在を知っていたのか?」

俺は、アンジェ・ガルティエーヌが、地方の内乱程度で介入してきたことに疑問を感じていた。


ハンドカノンは、この世に無い武器であり、武器だと判明するまで時間が掛かると考え、隠匿よりもスピードを最優先して、農民総出で組み立てていたから、情報が漏れないはずがなかった。しかし、リボルバカノンは違う。技士のドニーを除いて見せたことも無かった。


「いえ、知らなかったわ。ハンドカノンを譲って頂こうと思いまして、お伺いしたのよ?」


陛下は不敵に笑いながらハンドカノンが目的だったことを教えてくれた。


「陛下自ら強奪しに来られるとは思いもしませんでした」

俺は、少しの嫌味と皮肉を込めて返答したが、陛下は、俺の不敬な態度や言葉も気にすることなく始終ご機嫌な様子だ。


「あら。人聞きの悪い。十分な便宜を図ったではありませんか」

陛下は、ハンドカノンを含めて十分な便宜を図ったと暗に主張したが、そもそも、俺は、血の贖罪時に、自分の命とリボルバカノン、研究ノート、オマケで人工魔石も付けたけれど、ハンドカノンの現物まで差し出した記憶がない。


「5名の者が死ぬまで強制労働しますが?」

十分な便宜を図ったと主張する陛下に対して、俺は、恩赦が認められなかった幹部を引き合いに出して、差し出した技術に対する対価が足りないと暗に主張した。


「分かっているわ。あなたの貢献は大きいものね。状況を整理しますが、反乱に参加した領民や兵士は、血の贖罪を受けて、女王の名で恩赦を与え解放したわ。幹部5名は裁判に向けて尋問中。領主フーシェ伯シモンと側近4名も裁判に向けて拘留しているわ」


陛下は、対価が足りないとする俺の主張を察して、約束通り、反乱に参加した義勇兵や農民に恩赦を与えて解放し、幹部と領主は現在進行形だと教えてくれた。


「領主は極刑か?」

俺は、ハンドカノンを盾に、ラファエラと交わした最後の言葉を改めて確認した。


「アンジェ・ガルディエーヌの騎士として裁判所に極刑を望む『意見書』を出しなさい。そうすれば、裁判所は無視できないわ。それと、今度、王立裁判所の判事と会うのよ。意見書を必ず読むように釘を刺しておくわ」


陛下は、事前に対応を決めていたのか、事務的に意見書の提出を求め、女王直々に根回しすることを約束してくれた。君主制を採用するこの国で、女王が、権力を振りかざして物事を強引に決めないことに感心したが、前世で、国の首長が、司法に圧力をかけるなどあり得ないことも思い出し、苦笑いするしかなかった。


しかし、何も手を打たなければ、領主はどうなるのかも興味があった。


「何もしなければどうなる?」

俺が陛下に問うと、陛下は考えを纏めるために少し間を置いた後、答えてくれた。


「そうね。彼は直接、悪事に手を下していないの。彼の罪は反乱鎮圧失敗と敵前逃亡よ。ダンテス。判決はどうなるかしら?」

陛下は、結論を出さずに事実のみを並べた後、ダンテスと呼ばれたお洒落な初老の男性に結論を丸投げした。


「陛下。お答えします。領主は、爵位召し上げの上で追放処分かと」

ダンテスは、突然、結論を丸投げされたにも関わらず、動じることもなく、穏やかな表情のまま陛下が並べた事実に基づいて判決を予想した。


「そうか・・・。俺が動いてもいいのか?」

俺は、農地を追い出され、明日食べるものが無くて途方に暮れる農民や、大切な家族が暴行され嘆き悲しむ家族の顔、領主の理不尽に抗議して私刑された人々を思い出し、状況を見守るなどあり得ないと改めて認識して、積極的に動くことに理解を求めた。


「あなたは、アンジェ・ガルディエーヌの騎士で女王の代理。好きにしなさい。ただね。あなたは冷静でいられないだろうから、裁判所に出向かない方がいいわ。あと、アランは死んだの。新しい名前エリック・ルネソンスとして動きなさい」


陛下は好きにしていいと認めてくれた。

領主は、自身の身柄は国の保護下に置かれ、裁判が終われば逃げ切れると考えているはず。まだ戦いは終わっていない。これからだとやる気を漲らせていると、陛下は、名前を変えてアンジェ・ガルディエーヌの騎士として働きなさいと爆弾を投下してきた。


俺は、世間的に血の贖罪で死亡している。

言われるまでもなく、名前を変えないとまずい。しかし、騎士となると話は別だ。目の前のジルと呼ばれた騎士と肩を並べて戦えるはずがない。


それとも、厳しい戦闘訓練でレベルアップが期待されているのか・・・? 俺は忠誠を求められてから『技官』を想定して話をしてきた。。陛下と俺は、完全に意見が一致していたし、会話も噛合っていた。違和感も一切感じなかった。


違和感のない会話の流れの中で、陛下は、当たり前のように『アンジェ・ガルディエーヌの騎士』として話を進めたのだ。騎士は務まらないと言いかけたが、幹部や領主の刑が確定していない状況で、陛下の機嫌を損ねる発言が出来る訳もなく、忠誠時に何でもすると宣言した手前、厳しい騎士の訓練に耐えるしかないなと覚悟した。


「分かった。エリックか。いい名だと思う。ありがとうございます」

俺は、新しい名前を用意してくれた陛下に感謝し、お礼を述べた。騎士の話は、体調がほぼ回復したけれど、戦闘訓練に参加する気分でない。可能な限り先延ばしするために、俺からは触れずに受け流すことにした。


「気に入ってくれてありがとう!すごく考えたのよ。それと、一つ守ってもらいたことがあるのよ。この国はね。法律に基づいて国を動かす国家を目指しているの。女王やアンジェ・ガルディエーヌが好きに何しても良いわけではないわ。手順を守りなさい」


陛下は、法治国家を目指していると教えてくれた。

しかし、現状はフーシェ伯領の様に法律を無視した事件も起きるので、人治国家だと言わざるを得ない。しかし、陛下と話をして、本気で国を変えようと頭を悩ましていることが伝わってきた。


「法学博士のジョルジュ・ダンテスを執事として、あなたに付けるわ。彼の法律の知識がきっと役立つと思うわ」

陛下の指示に、ダンテスは顔色一つ変えることなく「誠心誠意、お仕えいたします」と意気込みを表明すると深々と挨拶をした。彼の挨拶を受けて、俺は「よろしく頼みます」と会釈して彼に答えた。


「ところで、幹部はどうなる?」

俺は、このままでは無期の労役が待ち受ける幹部の処遇について尋ねた。無論、反乱を起こした以上、無罪になるはずがない。しかし、俺は自らを極刑に処し、死んだはずだが、何故かこの通り生きている。


「あなたは、刑の免除を望んでいるようだけど、落しどころを間違えては駄目。執行猶予を付けることで判決を猶予出来るわ」


陛下は、有罪を素直に受け入れ、刑の執行を猶予する案を提案した。ここ数年で法整備が大きく進み、様々な法律ができたけれど、刑法に限って、実刑しかないと俺は勝手に思い込んでいた。


「執行猶予があるのか!?」

執行猶予は、一定期間、罪を犯さず大人しく過ごせば、刑に服す必要がない。執行猶予中は、牢屋に収容されることもないはずだ。


「えぇ。あなたと同じ異世界の記憶を持つ方からご教示して頂いて、以前、刑法に取り入れたのよ」


陛下は、刑法に取り入れた経緯を自慢げに教えてくれた。俺は、執行猶予を刑法に取り入れることを決めた陛下に心から感謝した。「陛下に一生尽くします」と涙目で感謝を表す俺に、陛下は微妙な面持ちだった。


「彼らは、あなたの『血の贖罪』で極刑は免れるわ。あとはフーシェ伯シモン一味の罪を審らかにして情状酌量。最後に、前科が無いことを条件に執行猶予を求める『意見書』を裁判所に出せば宜しいのではないかしら? そうね。今のあなたなら、裁判所に何度か赴いて、無言で圧力を掛けるのもいいかもしれないわね!」


陛下は、今後の裁判展開の予想と対応を俺に指示したが、裁判所に赴く場合、俺の知り合いが間違いなく居るはずだし、そもそも、少し前の発言で、裁判所に行かない方がいいと言ってたことも思い出した。


「俺だとバレないか?」

俺は、思い付きかもしれない陛下の発言に頭を悩ませながらも、死んだはずの者が裁判所に行くことの問題点を指摘した。


「アンジェ・ガルディエーヌの騎士は基本、仮面で顔を隠すわ。当時、私を含めて5名の騎士が関与したけれど、誰が居たのか誰もわからないのよ。そうね。仮面を付けて、現場に居たと言い張ればいいのよ」


陛下は、「ぽん」と手を叩き、裁判所でアンジェ・ガルディエーヌの騎士として証言するように提案した。騎士は、公式の場で仮面を付けることが認められているとはいえ、流石に気まずい。


「俺はいなかったけどな」

「居たじゃない? 反逆者の首謀としてだけど」


反逆者の首謀としていたのだから証言できるでしょう? 陛下は反論してきた。


「法治国家なのか?」

「発展途上ですよ!?」


陛下は俺の正論に開き直り、何とも言えない気まずい空気と沈黙が流れた。

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