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幽霊くらげ   作者: ヤマバト
1/1

【プロローグ】


【くらげ】


高校2年の夏。

家族と旅行で離島に行くので、

フェリーに乗るため、港に行った。

浮き足立つ気持ちだったことを覚えている。


キラキラと輝く水面のなかに、

なにかが見えた気がしたので、

それが気になり、海を覗き込んだ。


そこで、体勢を崩してしまったのだろうか。

僕は海に落ちてしまった。


ゴボン、という音がしたと思ったら、

さきほどまで聞こえていたカモメの声も、

聞こえなくなってしまった。


息ができない。痛い。苦しい。

そう思いながらも、

私は目を開けた。

すると、そこには所狭しと、

クラゲが浮かんでいた。


陽の光が形を成したかのように、

透き通った白いくらげ。

先程までの苦しさを忘れてしまうほど、

僕はそれに見蕩れてしまった。


すぐに僕は引き上げられた。が、

極めて危ない状態だったらしい。


水が肺に入っており、溺水。

さらに、クラゲに刺されたような

傷跡が腕に残った。

しかし、その後両親に訊いても、

あのとき水中にはクラゲは

ひとつもいなかったそうだ。


幸い大きな後遺症は残らなかった。

だが、それからだろうか。

不思議な体験をすることとなる。


僕は、「くらげ」が見えるようになった。


くらげは、人の頭上に浮かんでいる。

風船のように揺れているようにも見えるが、

その人から離れることはない。


くらげの色は様々である。

赤、青、黄、薄い茶色、紫、黒、、、

そして、それらが意味するのは、

「その人の死に方」


くらげの足の長さも人によって違う。

これが示すのは、

「死ぬまでの残された時間」

くらげの足は、死期が近づくと短くなっていく。


これらに気づいたのは、

くらげが見えるようになってしばらくして、

あまり気にならなくなった頃のこと。


僕の同級生の頭上には、

足の短い黒のくらげが浮かんでいた。


黒いくらげはそんなに見かけないので

珍しいな、という程度にしか思わなかった。


ある日の帰り道。

彼とは校門を出てしばらくは同じ道を歩くのだが、

特に一緒に帰るという訳でもなく、

彼から少し離れた後ろを僕は歩いていた。


ふと彼のくらげを見ると、足がほぼ無くなっていた。

ここまで短いのは見たことがなかった。


十字路に差し掛かったときだった。

彼のくらげが、まるで電球が消えるように

ふっと色が無くなった。

そして次の瞬間、

視界の端から黒い物体が飛び出てきたと思うと、

彼の体は左の曲がり道角の先へ消えた。


飛び出してきたのは車だった。

恐る恐る壁から曲がり角の奥を覗いた。

そこには、

彼であったものが横たわっていた。


彼は事故に遭った。


彼の近くに、くらげが落ちていた。

色を失ったそれは、

あの日僕が海の中で見たものと同じく、

白く透き通っていた。


それから僕はくらげと人の死の関係を調べ始めた。

くらげは写真や映像越しでも見えるので、

様々な事件や事故の資料を漁った。


くらげの色が示す死に方は、

赤なら焼死。薄茶なら病死。青色は溺死。黒は事故死。

他にも様々である。

だが、生きている人に、白いくらげが浮いていることは一度も見られなかった。


酷い話だが、白いくらげをまた、見てみたいとも思う。


それと、もう1つ。

どうやら自分のくらげは見ることができないらしい。




【暗げ】


目を覚まし、まだ生きていることを確信する。

鏡の前に立つ。

自分の頭上の空間をじっと見つめる。

ぽっかりと空いたように見える。


支度を済ませ、重い扉を押し開ける。

夏の生温い朝の空気に嫌気を覚えながら、

会社へ向かう。


いつもと変わらない。

おそらくこれからも変わることはない朝。

そうだったはず。


僕は、ぷかぷかと白いくらげが浮かぶ人に出会った。


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