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第4話:天啓の森-5

 夜の野営地。

 各班がそれぞれいつものようにテントを張り、就寝時間まで夜食や雑談を楽しんでいる。

 その中に第20班もいた。


「ギャー! なんだこれ! なんだこれ!?」


 男子用テントの中からサイアの叫び声がした。


「あ、起きたみたい」

「ったく。騒がしいヤツだよ、本当に。アタシらが周りからウザがられるじゃん」


 テーブルで夜食を食べているココとメレスがテントの方を振り向いた。

 すると、テントから包帯でグルグル巻きになった左手のサイアがのそりと出てきた。


「僕はどうしちゃったんだ? 腕が……」


 何かを言おうとしたサイアにココが飛びついてギュっと抱きしめた。


「キャー! サイア! 本当にありがとうね! 私のこと『仲間』って言って反論してくれて! 私、第20班になって本当に良かった!」


 ココのテンションと言動についていけないサイアは、困惑した表情でメレスとガストンに助けを求めた。


「あはは。よっぽど嬉しかったみたいだね。サイア、こっちに座れよ。俺が説明するから」

「ほら、早くしなよ。他の班が変な目で見てるって」


 サイアは抱き着いたままのココと一緒にテーブルに着いた。


「ところでサイアはどこまで記憶があるんだい?」

「うーん……。メレスからリンゴジュースをもらって、それを飲んだところまでかな」

「ああ、それジュースじゃなくて酒だったんだよ」

「メレス! なんてことをしてくれたんだよ! 任務中に飲酒だなんて懲罰ものだぞ!」

「はいはい。ごめんなさいね」

「まったく君という人は!」

「でも、今回は懲罰じゃなくて表彰されるとアタシは思うけどね」


 メレスがニヤリとサイアを見る。

 意図が分からず、きょとんとするサイア。


「どういうこと?」

「それは……」

「サイアが私を守ってくれたのよ! 『仲間』だーって言って土産物屋をぶちのめしたの!」

「それって酔った僕が民間人に手を出したってこと? やっぱり懲罰ものだよ!」


 サイアは青ざめた顔でテーブルに突っ伏した。


「その土産物屋は実は……」

「そうなの! アイツは下衆で薄汚い舌をもつ憎いゴブリンだったの! そいつにサイアが『仲間』だーって……」

「はいはい。ココ、ちょっと落ち着いて。もうかわったから。これじゃあ俺の説明がまったくもって進まないよ」

「あ、ごめんなさい。嬉しくって、つい」


 ココは抱き着くのをやめて、ちょっこんとテーブルについた。


「じゃあ、サイアが泥酔した後から説明するよ。倒れた君をココが介抱しているところに土産物屋の男がやって来て、俺たちに女神像のお守りを売りつけようとしたんだ」

「女神像のお守り! 僕も欲しかった」

「げぇー。アンタ、あんなもの欲しいの?」

「だって、天啓の森に来た記念になるだろ」

「はいはい。勇者崇拝、ご苦労様」

「ちょっと、俺がまだ話してるだろ。……その土産物屋がココを見た途端、ブルーステップだといって急に侮辱し始めたんだ」

「そう! あったまくるよね。本当はアタシがぶん殴ろうとしたんだけど、僅差でアンタが豪快なアッパーをかましたのよ。普段は優等生面するアンタがあんなことするなんてね。ちょっとは見直したよ」

「だから、メレス。俺が説明してるところなんだって」

「はいはい。ごめんね」

「土産物屋が昏倒したところに、副隊長がやってきた。慌てた俺たちは酔った君を近くの茂みに隠して、あとはどうにか言い訳しようと考えてたんだけど、土産物屋が実はゴブリンだったんだ。あ、それはさっきココが言ったっけ」

「私、ゴブリンは嫌い。アイツらは今でも異神を創造主だって崇拝してるんだから!」

「なんか、勇者を盲目的に崇拝してるサイアみたいだねー」


 メレスがニヤニヤとサイアをからかう。

 反論するサイア。

 ふたりをすごい形相で睨み付けるガストン。

 ガストンの気迫にふたりはぴたりと黙り込んだ。


「土産物屋がゴブリンだったので、俺たちは特に言い訳をする必要もなくなった。そして、ゴブリンはそのまま副隊長たちに連行されていったんだ」

「副隊長が尋問したら、そのゴブリンが売ってたお守りってのが、実は盗聴器だったんだよ」

「盗聴器?」

「そう! 音を遠くの術者に届ける魔法がかけられていたんだよ。アタシは最初から怪しいと思っていたけどねー」

「もう! 俺が説明したかったのに! ちなみにそのゴブリンは単独犯だったようだね。こちらの情報を異神に差し出して褒美をもらおうとしていたようだ。でも、情報を渡す前に俺たちに倒されたからね。今頃は軍の牢獄に連行されているところかな」

「つまり、僕が殴ったことは懲罰にならないってこと?」

「そうだよ! それどころかアタシたち第20班は褒美をもらえるかもしれないってこと!」

「俺が第15班の人に聞いた話によると、任務に一番貢献した班が翌日の朝礼で表彰されるらしい」

「つまり?」

「アタシらが表彰されるってわけ! 褒美は何がもらえるのかなー」

「私はもっと上質な毛布がほしいなー」

「えーもっと良い物ねだろうよ。たとえば、第20班専用の屋根も壁もある荷馬車とか」


 褒美についてキャッキャと盛り上がる女性陣。


「あのー」

「ん? どうした、サイア」

「顛末はわかったんだけど。1つ疑問があって」

「なによ。アンタ、もっと喜びなさいよ」

「嬉しいのは嬉しいけど。この包帯はなんなの? 今の話にまったく出てこないんだけど」

「あー……」


 急に3人が明後日の方向を見る。


「なんで誰も話そうとしないだよ」

「……ごめん。それは俺が君を茂みに隠そうと放り投げたときに負った怪我なんだ」

「アンタの着地がヘタだったから折れちゃったみたいだね」

「折れちゃったみたいって! なんでそんな雑な扱いをされなきゃいけないんだ!」


 事実を知ったサイアが喚き散らす。


「大丈夫! ガストンが気功で治癒してるところだから!」

「そうだよ。あと2回くらい気功を使えば元通りになるから」

「はい! この話はおしまい! 明日の表彰に向けて祝杯だよ!」

「メレス、ナイスアイデア! ほら、ガストンもサイアもコップを持って」


 3人は無理やり楽しい雰囲気を作って乾杯をした。

 納得のいかないサイアだけは乾杯はせずにリンゴジュースを飲み干した。


 翌朝。

 朝礼で隊長のトトスが任務の終了を告げた。

 調査の結果、二代目勇者たちは天啓の森を訪れたものの、使者からの声はなかったようだ。

 そして、勇者たちは次の初代勇者縁の地へと進んでいるらしい。


「もー勇者の話なんてどうでもいいよ。早くアタシらを表彰しろっての」


 メレスが3人にしか聞こえないくらいの音量でぼやいた。

 そして、いつものように座り込む。

 隊長の報告はそれから1時間は続いた。

 そのほとんどがこの任務に駆り出された自分を憐れむ内容と、経営している牧場へ早く帰りたいというものだった。

 メレスは座ったまま、眠りに落ちていく。



「ほら、メレス。隊長の表彰が始まるよ」


 ガストンの声に反応して、シャキッと立ち上がるメレス。

 今までは聞き流していた隊長の話に聞き耳をたてた。


「後方支援隊は隊の士気を高めるため、任務後に最も貢献した班を表彰して褒美を与えることになっている。これは国王の決定だ。そして、此度の任務で表彰される班は……」


 隊長のもとに書記官がメモを手渡す。

 それをちらっと見た隊長は隊全体を見渡した。

 隊のほとんどが、自分たちは特に目立つ活躍をしていないことを自覚しているので興味のない態度だった。

 だが、第20班だけは期待に胸を膨らませ、目を輝けさせている。

 ただし、サイア以外は名誉ではなく褒美がもらえることを待ち望んでいた。


「第7班! 最優秀班は第7班!」


 「やったー!」と第7班の4人が万歳をしたり、仲間同士でハグしたり、思わぬ評価に感激している。


「ちょっと! なんで第7班なのよ!」


 メレスが隊長に聞こえるように大声で異論を唱えた。


「これから説明するところだ。黙ってろ! 第7班は森の調査で古い矢じりを発見した。学者たちが鑑定したところ、それは初代勇者が猟師だった頃に使用していたものだと判明した。これは歴史的発見である!」


 隊長は評価の内容を簡単に説明し、褒美は次の野営地で与えると告げた。


「朝礼後、各班、馬車に移動せよ! 次の目的地に向けてすぐに出立する! では解散!」


 抗議を続けるメレス、呆然とする3人を置いて、他の隊員は馬車へと走り出す。


「古臭い矢じりなんかより、敵を倒す方が重要だろうがー!!」


 メレスの叫びが広い草原を駆け抜けた。

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