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第2話:天啓の森-2

『勇者後方支援隊』。

 それは総勢123人で構成されたミヤド王国、国王直属の特殊部隊である。

 隊長や副隊長、参謀、学者などの上官が10人。

 中級兵が20人。

 下級兵が80人。

 医務、料理人、馬車の従者などの非戦闘員で運営に必要な人材が13人。


 中級兵は王立騎士の中級騎士。優秀ではないが劣ってもいない、特長がないのが特長なほどほどの実力者たちだ。

 下級兵はギルドや種族、商会などが王の要請で派遣した兵士、また一般公募に志願した冒険者たちの寄せ集め。4人で班を組み、全20班で構成されている。

 班には過去の実績や資格で番号を振られており、サイアたちは最下級の第20班だ。



 野営地の隣にある広い草原で、隊恒例の朝礼が行われようとしていた。

 組み立て式の台に隊長の老騎士・トトスの姿がある。

 彼は王立騎士の英雄だったが、3年前に定年退職。田舎で牧場を経営していたが、王の命令で現場復帰させられた。そのことが気に入らないので隊所属の兵士には八つ当たりのように厳しい態度をとっている。


 トトスの前には中級兵が並び、その背後に下級兵が第1班から順に並んでいた。

 最後尾にいる第20班からは、トトスの姿が人差し指にも満たないサイズで見えている。


「我々、勇者後方支援隊の任務は、勇者の道程をたどり彼らの置き土産といえる未処理の問題の解決をすること。また、遠い未来にさらなる異神が現れたときに備え、勇者の偉業を詳細に綴る伝承の作成である!」


 トトスは魔術の拡声器を使い、隊員に呼びかけた。


「ねえ、この説明って毎朝聞かされるの? 目的を知らないで参加してるヤツなんていないんだから、そろそろ端折っても良くない?」


 最後尾にいることをいいことに、メレスはしゃがみ込んで太ももに肘をつき、顎を手に乗せてトトスの発言をバカにしていた。

 ココは朝礼の度にメレスも同じ悪口を言っているなあと思ったが、あえてそれを口にすることはなかった。そんな指摘ができるほど、彼女と親しい関係ではないと思っているから。


「ちょっとメレス。ちゃんと起立して隊長の話を聞くんだ。君の素行が悪いと僕らの班の評価が下がってしまうだろ」

「大丈夫。もうこれ以上は下がりようがないから。だってアタシら最下級の第20班じゃん」


 メレスの言葉に同意するように、ガストンとココが「そうだよねー」と声を揃えた。


「だからだよ。僕らの評価が下がったら、退役もしくは追放、下手したら牢屋行きかもしれない! 勇者の末裔なのに牢屋行きだなんて、そんな不名誉、僕には耐えられないよ!」


 お気楽な3人を怒鳴りつけるサイア。


そのとき、台の上に立つトトスが、

「おい! 隊長のワシが話をしているのに、私語をしているのはどこのどいつだ!」

と隊員たちを睨み付けた。


 隊の122人は沈黙し、頭を下げる。

 自首する者などおらず、しばしの沈黙が続いた。

 気まずい空気を払うように、トトスは大きく咳払いして話を続ける。


「朝礼後、直ちに指定の馬車に搭乗せよ。馬車で半日も南下すれば、最初の目的地である『天啓の森』に到着する。各班には追って現地での任務を伝える。我々の初任務である! 気を引き締めて遂行せよ!」


 トトスは最後に大きく息を吸うと、「解散!」と朝礼の終わりを告げた。

 その声を聴いた隊員は、地面に置いた荷物を手に取ると指定の馬車へと走り出した。


「やっと初任務なのね! これから人族の文化にたくさん触れることができるんだ! とっても楽しみ!」


 ココが興奮気味にガストンに話しかけた。

 ガストンはテントの入った大きなリュックに手をかけて軽々と背負うとココの方へ振り向いた。


「ココはブルーステップの集落から出るのは初めてなんだっけ?」

「そうなの! 私の種族って閉鎖的でしょ? みんな外に出たがらないのよ。でも、私はもっと広い世界が見たい。いろんな種族と知り合って、たくさん友達がほしい! 薄暗い森で人生を終えるなんてうんざり!」

「じゃあ、俺ら3人が最初の友達ってわけだ」

「えー友達になってくれるの! 出会ってまだ4日なのに!」

「良いも悪いもないよ。俺たちは運命共同体だからね」

「ありがとう、ガストン! 私たちが親友になったら、ブルーステップ秘伝の術を教えてあげるね! 同種以外は親友にしか口外できない術があるのよ」

「へーそれは光栄だね」

「まだ詳細は言えないけど、術の名前だけ先に教えてあげる!」


 ココは嬉しそうにガストンに歩み寄ると、つま先立ちになってガストンに耳打ちした。

 興味津々で笑顔のガストンだったが、ココの言葉を聞きくとみるみるうちに顔色が青ざめていった。


「コ、ココ。その術はブルーステップでは常識的なことなのかい?」

「そうよ。詳しい動きは親友になってから教えてあげるね!」

「わ、わーい。た、楽しみにしてるよ」


 ガストンは額に冷や汗を浮かべて馬車へと歩き出す。

 そのすぐ後ろを嬉しそうに飛び跳ねながらココが続いた。


「ほら、メレス。僕らも馬車に行くよ」

「はいはい。馬車って言ってもボロい幌馬車。薄い布で覆われた荷馬車じゃん。アタシらは家畜じゃないつーの」

「僕らが頑張って上官になれば、椅子も壁も窓もある馬車に乗れるようになるさ。そのためにも与えられた任務で高い評価を受ける必要があるんだ。初任務の場所は『天啓の森』。きっと危険な任務になるはずだよ。そこで僕らの実力を上官たちに見せつけてやろう!」

「はいはい。頑張りまーす」


 メレスは自分の荷物を担ぐと、先を行くココとガストンの後を追った。



 それから半日後。

 勇者後方支援隊は『天啓の森』に到着。

 各班はそれぞれ与えられた任務に就いた。


「わ~危険な任務だ~。みんな、気を引き締めて~」


 抑揚なく、感情もなく、メレスが3人に呼びかけた。

 ココは見るものすべてが新鮮で、興奮気味に辺りを見渡している。

 ガストンは荷馬車に詰め込まれて強張った体をほぐすように大きく伸びをした。

 そしてサイアは落胆して四つん這いになっていた。


「なんで。なんで僕らの任務はこんなものなんだ……」

「なんでって、最下級の第20班だからじゃない?」


 メレスは参謀が書いた指令書……小さな紙切れを人差し指と中指で摘まんでヒラヒラと動かしている。

 紙切れには『第20班への任務。本隊が調査中に森に入る者がいないように入り口を警備すること』と書かれていた。

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