4、セシルくんというらしい
「君みたいに綺麗な子が一人きりでいるのが心配なんだ。先程のような低俗な輩に、また絡まれるかもしれないしね」
「き、きれい?」
あ、頬がちょっと赤くなってる。可愛い。
こんな可愛い子ならこういうことも言われ慣れてると思ったけど、意外と初心なのかもしれない。
ていうか、赤くなってるのめちゃくちゃ可愛いな。天使か。
でれっと緩みそうになる表情をなんとか引き締めながらしばらく赤面した彼を見ていたが、ふいに彼が口を開いた。
「あ、えっと、僕はセシル・エルマーと申します。その、僕も丁度帰るところなので、お気遣いは大変ありがたいのですが、アークライト卿にご迷惑をおかけするわけには……」
どこか不安そうに歯切れ悪くそう言った彼は、セシルくんというらしい。
なんて愛らしい、素敵な名前なんだろう。
エルマーという姓は、確か王国南方の領地を治める伯爵家のもの。
エルマー伯爵領といえば自然豊かなリゾート地で知られていて、通年国内外から観光客が多く訪れるらしい。ちなみに俺は一度も行ったことがないが、うちの両親なんかはよく休暇をとって訪れていたりする。
「迷惑なんかじゃないよ、セシル殿。ぜひ俺に君を送らせてほしい」
こんな可愛い子が一人で王城を歩いたら、ナンパされまくって大変だろうしね。美形な俺が隣にいれば、それもいくらかはマシになるだろうし。
まあそれは建前で、本音はセシルくんと仲良くなりたいってことなんだけど。
その俺の言葉を聞いたセシルくんは、ちょっとだけ考えるそぶりをしてから、戸惑った様子で口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
ごめんねセシルくん、いきなり初対面の男にこんなこと言われてもそりゃあ迷惑だよねぇ。でも俺は絶対このチャンスを逃したくないから、諦めて俺に捕まってほしいな。
そんなことを考えつつ、セシルくんの警戒を少しでも和らげられるようにと紳士然とした笑みを浮かべながら待っていると、セシルくんが遠慮がちに言った。
「あ、アークライト卿のご迷惑でないのなら、お願いしてもよろしいでしょうか……?」
はい可愛い。
お願いしてもよろしいでしょうか、だと?
セシルくんにお願いなんてされたら俺、全財産でも何でも差し出しちゃえる自信があるよ。
「ああ、もちろん」
「あっ、ありがとうございますっ」
俺が当たり前のようにそう答えると、セシルくんは嬉しそうにきゅっと口角を上げて言った。
(…………可愛いすぎだろ)
笑顔が可愛いすぎて一瞬思考停止した。