1、今世の俺はハイスペイケメンらしい
俺が転生したペルツ王国は、というかこの世界は、前世と美醜の感覚が大きく違っていた。
まず、高い鼻、大きな目は醜く、平たくて特徴のない顔が好まれる。
髪や目の色はより薄いものが美しく、黒髪や黒目などは最も忌避される色である。
身長は低いより高い方が望ましく、体格が小柄すぎるのはマイナスな印象を与えるらしい。
つまりこの世界では、長身でうっすい髪色と目の色で、かつあっさりした平凡顔が究極の美形とされているのだ。
逆に前世で美形とされていたような顔立ちの人たちは、この世界では理不尽にも不細工という扱いを受けている。
そしてそんな世界に転生してしまった俺、今世の名前でいうとクリフォード・フォン・アークライトは、それら美形の条件を全て満たした、この世界的には人外レベルのイケメンらしい。知らんけど。
個人的には、今世の自分の容姿について、金髪緑目という髪と目の色は綺麗ではあるんだけど、いかんせん色が薄すぎて存在感に欠けるし、顔は絵に描いたような平凡顔でイケメンだとはお世辞にも言えるものではないと思う。身長はかなり高い方ではあるけど、前世の価値観を受け継いでいる俺としては、高身長を美形の基準の一つと考えるのはちょっと違う感じがする。
まあ、この世界の人的には“傾国の美貌”らしいけど。そんなこと言われたって、正直ピンと来ないというのが俺の率直な感想だ。
そしてそんな美貌を持つ今世の俺は、なんと公爵家という超高貴な家柄の嫡男として生まれてしまった。
俺の生まれたアークライト公爵家は、ここペルツ王国で最も有力で由緒ある貴族で、王家からも多大な信頼を寄せられている、誰もが認める筆頭公爵家だったのだ。
家族構成は父と母、それから可愛い弟が一人。家族仲は良好で、次期当主の座を巡る兄弟の争いなどもなく、将来は長男である俺がアークライト家を継ぐことが決まっている。
また、醜いとされる容姿の人たちへの差別が結構ひどいこの国において、前世的な価値観を持つ俺はそういった差別を全くしていないので、一応周囲からは人格者としても認められているらしい。
あと、前世で庶民だった感覚がなかなか抜けないために公爵家嫡男の割に腰が低いので、それも謙虚で良いとプラスに受け取られているようだ。
つまり今世の俺は、この世界の価値観的には顔よし性格よし家柄よしの三拍子揃ったハイスペックイケメンであり、幼い頃から猛烈にモテてきた。
この国では恋愛結婚が主流なので、幼い頃から婚約者を決めるなんていうケースは珍しく、適齢期になった頃に好意を寄せた相手に告白して婚約する、というパターンが多い。そんな背景があり、現在十九歳で結婚適齢期のど真ん中にいる俺は、以前にも増してモテ始め、毎日のように告白を受けまくっていた。
恐らくは俺の美貌や身分や財力に釣られた人間がほとんどなんだろうけど、ともかく今世の俺はモテるのだ。——男女問わずモテるのだ。
この世界は同性同士の恋愛にもかなり寛容なため、普通に同性のカップルが街を歩いていたりする。同性同士の結婚も、実際にしている人は少ないが制度的にはオッケーだ。もちろん異性しか恋愛対象にならないという人だっているが、同性愛が差別の対象になることはない。
かくいう俺も、今世では同性愛に対して物珍しく思うことはないし、別に男に告白されるのも嫌ではない。相手がどんな理由で俺に告白したにせよ、人に好意を寄せられるのは嬉しいし。
けれど、それだけ多くの人から好意を寄せてもらっていても、俺は昔から特定の誰かへの恋愛感情を抱けなかった。
真っ赤になりながら告白してくれる子を見ると健気で可愛いなと思うし、告白を断ったときの悲しそうな表情を見ると申し訳ないとも思う。
けれど、俺はこれまで、どんな相手のこともそういった目で見ることができなかった。
せっかく(この世界基準の)ハイスペックなイケメンに転生したのに、このままでは俺は、一生独り身のままかもしれない。
別に結婚に対してロマンチックな理想を抱いているというわけではないけど、好きになった相手以外との結婚はしたくないし。
思いやりのある家族や信頼のおける友人、有能な従者たちに囲まれた今の生活は幸せだけど、やっぱりせっかく転生したのだから恋愛もしたい。
相手の性別や容姿にこだわっているつもりはなかったけど、こんなに誰にも恋心を抱けないとなると、実は自覚してないだけで俺の理想ってかなり高いのだろうか。
などと悶々と悩んでいた俺は、その数日後、王城で彼と出会うことになるのだった。