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貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます  作者: 和泉 利依
第三章 牡丹の庭

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- 3 -

「陛下は一生懸命お仕事をされているのですよ?」

 批判めいた言葉にも、天明はすました顔を崩さない。

「やりたいことはすぐやらないと気がすまないたちなんでね」

「せっかちですね」

「明日も生きていられるとは限らないだろう? やりたいことを残して死ぬなんて、成仏できないじゃないか」

「縁起でもないこと言わないでください」

 紅華は眉をひそめて天明をねめつける。だが天明は、そんな紅華の表情を面白がるばかりだ。


「真面目一辺倒の晴明なんてやめて、俺にしろよ。手取り足取り、楽しいことたくさん教えてやるぜ」

「何を言ってんですか。わたくしはいずれ貴妃になる身ですよ? 皇帝以外にそのように心を乱すことがあっては」

「本当に貴妃になりたいのか?」

「……どういう意味ですか?」

 軽い調子の中にも、紅華はわずかな棘を感じた。


「貴妃なんて、はたで思うほどいいものじゃない。晴明が命を狙われているのは、昨日身をもって知っただろう? 貴妃になれば、紅華だって同じように狙われることもある。後宮にいれば贅をつくしたいい生活ができるだろうが、それは命と天秤にかけてまで欲しいものなのか?」

「私は!」

 つい紅華が声高になったとき、ちょうど二人は女官たちの前を通り過ぎたので、紅華は口を閉じる。

 余裕の笑みを浮かべる天明に、紅華は小さくため息をついた。


「どうしてみんなだまされるのでしょう」

 返答には、わずかの間があった。

「見ろよ」

 天明は、前の方の離れた位置で廊下の端によけて頭を下げる侍女たちを、視線だけで示す。それは、身分の低いものが皇帝に対して行う礼儀だ。

 天明は、さらに声をひそめて低い声で言った。

「まじまじと俺の顔を見る奴なんて、ろくにいやしない。皇帝だと思い込んでいるから、みんな俺にひれ伏すんだ。つまり、肩書さえ皇帝だったら、どんな顔してたって関係ないんだよ」

 紅華は瞬いて天明をみあげた。その顔を、じ、と天明は見下ろす。


「紅華はきっと、俺の顔をきちんと見ているんだ」

「天明様……」

「嬉しかった」

 ぽつり、と漏れた声に、は、としたのは天明の方だった。

「ま、皇帝は何をしても許される立場だ。それを俺が利用して何が悪い? 多少俺が好き勝手したって、国庫に傷なんてつきはしないし誰も損はしないさ。だから、似ているこの顔を俺が利用しても……」

「いえ、あなたです」

 天明の前に立ちふさがって見上げてくる紅華の意図が分からず、天明はきょとんとする。


「俺?」

「黎天明というあなたは、どれほどに似ていても決して黎晴明ではありません。もし誰も言わないのでしたら、私が言います。必要があれば仕方のないことですが、どうか、晴明陛下の影にうずもれ過ぎてしまわないでください。そうでなければ、あなた自身に失礼です」

 天明が、か、と目を見開いた。そこに浮かんだ怒気に紅華はとっさに、怒鳴られるかと思って息をつめる。

 けれど天明は何も言わず、紅華を見つめるだけだった。

(天明様……?)

 そんな二人の間に、ふわりと甘い香りが漂ってきた。


 天明は大きく息を吐くと、顔をあげて先に見えてきた庭を示す。

「見えてきたな。あそこだ」

「あ……」

 つられて視線を向けた紅華の目の前に、一面の牡丹の庭が広がった。赤、白、天明の持ってきたのと同じ桃色もある。

「なんてきれい」

 思わず紅華はつぶやいて、歩き出した天明の後ろ姿を追う。


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