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「欄悠!」


 走って行く先に愛しい人を見つけた紅華は、嬉しそうに彼の名前を呼んだ。その声に気づいて、所在なく水面を眺めていた欄悠は顔をあげる。

「ここだよ、紅華」

 彼は、いつものように朗らかな笑顔で、裾をひらめかせて走り寄る紅華を迎えてくれた。愛する人に会えた嬉しさで、紅華は安堵と共に満面の笑みを浮かべる。


「来てくれたのね。嬉しいわ」

「君に会えるなら、いつだってどこへだって行くさ。愛しい紅華」

 言いながら、欄悠は紅華の髪にそっと触れる。長い髪の半分を頭の上の方でまとめて残りは背中へたらす、流行りの髪型だ。

「このかんざし使ってくれているんだね。高かったけど、思い切って買ってよかった。思った通り、君の豊かな黒髪に映えてとても綺麗だよ」

 その髪に飾られているのは、大きめの白い玉を中心に細かい色とりどりの玉と青い房の付いた美しい細工物のかんざしだ。


「ありがとう。でも、いいのよ、こんなに高いものでなくて。私、欄悠のくれるものならなんでも嬉しいもの」

 紅華は小さく頭を動かして、かんざしをしゃらりと鳴らす。

「気にしなくていいよ。確かになかなか手に入らない貴重なものだけど、君に似合うと思ったらどうしても欲しかったんだ。苦労して手に入れたかいがあったよ。ところで、急にどうしたんだい?」

 どうしてもすぐに会いたいと文をもらって、欄悠はいつも彼女と待ち合わせに使っている河原へとやってきたのだ。

 人気もまばらな町はずれの川のたもとは、紅華や欄悠でなくとも、恋人たちが愛を囁く場所としてよく使われている。


 紅華は、表情を引き締めて欄悠を見上げた。

「欄悠、私と逃げて!」

「え?」

 はっしと腕をつかまれて、欄悠はきょとんと聞き返す。

「逃げる? どこへ?」

「どこへでもいいの。欄悠と一緒なら。私……私、後宮へ上がることになってしまったのよ」

 とたんに欄悠の顔がこわばる。


「後宮って……それ、本当かい?」

「ええ。今日、ご使者の方が正式にうちへ通達にくるわ。でも私、お嫁に行くなら欄悠じゃなくちゃいや! だからお願い! 私と逃げて!」

「そうか……後宮に、ね」

 泣きそうな顔でしがみついてくる紅華を、欄悠は自分の体から押し離す。紅華が見上げた欄悠は、見たことのない冷たい表情をしていた。


「欄悠?」

 急に雰囲気の変わった欄悠に、紅華はけげんな顔になる。

「逃げる? 冗談じゃない。蔡家の恩恵のない君に、一体何の利益があるって言うんだい?」



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