第4話 効率の悪すぎる謎農法
どうやら“抱っこでお外へのお散歩”が日課に加えてもらえたらしく、本日も外へ。
昨日は畑のでたらめ感に驚いたが、よくよく見渡すとやたらと木が多い。
それも森や林のように木がまとまっているのではなく、畑と木がランダムに入り混じっている。
普通畑が日陰になるから木を抜くなりなんなりするだろうに?
とか考えながら母親に抱っこされてここを曲がり、あそこで曲がりとくにゃくにゃ道を曲がって畑に着きますと・・・・・
!!!?!ハァ?
ろくろく首もすわっていないが思わず2度見した。
確かに昨日、勇ましい(?)「苗を植えよ!」の号令で苗を植えられたあたりにもう野菜ができている!
畝には苗 苗 キャベツ ニンジン 苗 レタス でかいキャベツ 苗 苗 ニンジン キャベツ.....
母親の顔を思わず見たが特に驚いている様子はない。
周りの誰もが気にもしていない....が、よくよく見れば畑全体が強烈におかしい。
「キョウちゃん 今日もお父さんがんばってまちゅね~ わぁ~もうすぐ収穫でちゅね~」
母の恥ずかしい口調はこの際置いとこう。すべての言葉は貴重な情報だ。
「収穫班 構えよ! 次だ! 抜けぃ!」
おっとこれは父の声だな。
「収穫できまちたね~ ほとんどうまく取れまちたね~ でもニンジンさんは…ダメでちたね~」
何から何までカオスだ!畑の形状はどう見てもでたらめ。植えられている野菜の種類も、それどころか植え付けと収穫の区分けすらない。
それになぜだ!なぜ昨日植えたはずの苗がもう収穫できるんだ!?
どうして引っこ抜かれたニンジンの大半がへし折れる?
これは一体なんなんだ?
父の周囲だけに信長家の鉄砲隊のような隊列を並べ、父の号令に合わせて作業をするばかり。
自主的に作業する農作業者は全くいない。なんという非効率、なんというでたらめ
…これがこの世界の農業?この国?この村?だけなのか?
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「キョウちゃんは、ほん~とに畑が好きでちゅね~ でももうおうちに帰る時間でちゅよ~
早く帰らないと悪い魔獣が がお~って出てきちゃいまちゅよ~ ん~もぅ…」
母親には悪いが、畑に出るとニコニコで家の中だとグズるという感じでできるだけ外に出させてもらった。優しい母親になんとも申し訳ないが、もうすぐ一人で歩けるようになれるはず。
知りたいんだ!この世界の畑と農作業を!
「奥様 畑を見せておけば上機嫌ってのは、やっぱり貴農家の血ってやつですかねぇ?」
「う~ん 夫の小さい頃は虫に夢中だったと言いますし、じっとすることなんかなくてこんな感じではなかったらしいんですよぉ。
ゴスさんの息子さんたちは小さいころどうでしたか?」
「いやぁ うちのとこは貴農家ではなくて兵家ですからねぇ。ただただ泣いて寝て、いつの間にかでっかくなっちまったように思いやすねぇ」
…?“キノウカ”?“ヘイカ”何かの階級だろうか?字を目にしたらわかるだろうか?
何にせよ、それなりにわかることもあるにはある。
どうやら畑がでたらめな形に見えるが、この目の前に見える黄色いモヤの波が流れやすい形とちょっと似ているようだ。
何より特に黄色いモヤの波がでかい時に父が「植えよ!」「抜け!」といった号令を出すと、その波と作業がずれるほど植えた苗が折れたり、収穫がおかしくなったりしている。
緑の波が濃いところほど収穫は早いようだし、青い波と重なるとサイズがでかくなるようだが...
この分だと赤い波もなんか関係しているに違いない...が...?
このわかるという感覚が、まるで息をすることや瞬きを教えられなくとも当たり前のようにできるような...そんな感覚で...わかってしまう。この世界だからか?生まれ変わったからなのか?
まぁ、今はそれはいい。わかるという事は何にも増してありがたい。こんな複数の波が重なる立体空間を視覚的に読むなんて、前世だと脳が焼き切れそうな話だが、赤ん坊になったせいなのか、この世界の体のせいなのか、それほど苦ではないのが不思議だ。
しかし前世にはなかったであろう波と農作業...「面白いっ!俺も植えたいぞっ!」
「うわっ! また坊が!」
「おやおやキョウちゃん またご機嫌でちゅね~ どうちまちたか~?」
もう不審に思われようとどうでもいい!俺も植えたい!早く歩けるようになって植えるんだ!そうすればもっと何か判る!この大地が!野菜が!あの種だ!あのカゴに入った種さえあれば!
「うわわ キョウちゃんが急にバタバタちてどちたの?どちたの?」
「奥様 坊 カゴが気になるんじゃないですかい?」
「う~ん あのカゴは野菜の種だからお父様が今だ!っていう時以外に触れると収穫できなくなっちゃいまちゅから~メでちゅよ~」
うっ!まただ、種に触れるにも何か瞬間があるのか?概ねあの波がらみなんだろうが、父よ種だ!種を~!
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そんな日々の繰り返しの中で随分とわかったことがある。
やはりこのカラフルなモヤと農作業のタイミングがキモだ!
そのタイミングが判るのはこの辺ではどうやら祖父や父、あと親戚のおじさんだけらしい。
なので作業者は父の号令に合わすわけだ。なんて不効率!
前世の害獣よろしくこの世界では時折畑を荒らす魔獣なんていうでかい害獣が出てくるが“ヘイカ”“兵家”と“マホウカ”“魔法家”と呼ばれる人たちが中心になって追い返したり仕留めたりしている。
この時ですら父がしきりに号令を飛ばすのだが、号令のタイミングのずれた攻撃や魔法は随分と効果が出ないようで、ここの点も農作業とよく似ているな。不思議なことにこういう時父はしきりに目をつむって何かに集中しているんだけど、よく相手を見ないと危なくね?
あと武器がたいてい鎌とかクワだ。兵家の若者がたまに剣を持っているが、ベテランぽい人ほどクワだったり大鎌だったりする。
何故クワ?ここが田舎だからなのか?
それにしてもこんな効率がでたらめに悪い農法では、収穫量は全く期待できないはずだが、この村で特に飢餓が起きているわけでもなさそうだ...。
それに飢餓どころか、やせこけた人を見ることもない。
食糧事情は一体どうなってるんだ?(俺はまだ母乳なのでその辺がちっともわからん。)
そういえば村で昼飯を食う姿も見ないが、前世でも日に1食とか2食って時代はザラにあったらしいしなぁ…?