第3話 今だ!苗を植えよ!
いつの間にか眠りに落ちていたようで気が付くとなんとなく薄暗い。未だ目もろくすっぽ見えないし、まいったね・・・。どうにもならんのが実に歯がゆい。
どうやら余裕のあまりなさそうな貴族に生まれたんだろう。昼間の祝詞とやらで俺になんかヤバい才能ががあるらしいことはわかったが…あんまり喜ばれていたような感じじゃないなぁ。
まるで畑に病害虫が迫っているような不安感・・・こういう時に必要なのは長期予報や病虫害の発生予察だ。
つまりは…情報 そう情報こそ農業の柱!
とは言え、俺はこんな状態!
今得られる情報なんてそれこそ木造建築家屋の柱と壁の前を揺れ動くカラフルなモヤか何かが見えるくらいのもの。……ん?モヤ?
そう言えばなんだこのモヤ?
じ~っと見ていると心持ちさっきよりハッキリと見える!(ような気がする・・・)
夏の日とかに空を見てると目の前がモヤモヤするのともずいぶん違う。
少なくともあれは透明か灰色か?だったが、目の前のモヤはえらいカラフルだ。
近いようで遠いような均一なようなムラがあるような・・・。
そんなこんなでモヤを気にする日々が続き首が座ってやっと体が動かせるようになったころ、母親が抱っこして待望の外に出かけてくれた。
そしたら玄関を出た先に黄色い変なモヤがくるくると渦を巻いていた。
なんだろうか?と思っていたら、俺を抱っこした母がふいに足を引っかけてしまい、危うくもろ共に転びそうになった。
「あっ奥様!」「!」「!」
「きゃっ! わわわ! っとと あ~あぶなかった~ キョウを抱っこしてるのに転ぶとこだった。 大丈夫キョウ 痛いとこない? も~ごめんなちゃいね~」
~?今のは何だったんだ?気のせい?いや違うな。渦を確かに見たぞ…
・・・・・・・・・・・・・そういうことが何度か続き、気が付いた。
モヤに変化があると周囲にある別の色のモヤにも変化が起こる。その変化に人が接触すると手に持っていたコップらしきものを落としたり、あるいは波や渦が動いていくと立てかけていた道具らしき何かが倒れたりと、良いも悪いも何か変化がある時にモヤに変化が起こっている。
それに匂いだ。
何か周囲に変化が起こる前に妙な匂いがすることがある。
人が来る前だったり(人ごとに少しずつ匂いが違う)天気の変化だったりと何かにつけて匂いが変わるのだ。
実は動けない頃から仕方なくひたすら耳と目に頼って情報収集をしていたものだから音にもいろいろな聞こえ方があることにも気になってはいた。大人の意識のまま赤ん坊になったせいなのか、それとも新たな変化なのかは定かではないが...しかしここまで妙な反響が気になるものだろうか?
前世では気づかなかったが、聞こえて来る音は、なんて奥深いんだ!
まるでカボチャを収穫するときに叩いて出来栄えを確認していた時のような…ポンポンとこう…ちょっと違うか。
ああ、それにしてもカボチャ…久しぶりにカボチャを育てたいぞ。
飼料用のパッションに富んだどでかいカボチャもいいが、黒皮かぼちゃは特に最高だ!
あの雨に濡れるカボチャの巻きひげと黒のコントラストが
「俺に生きている実感を与えるんだ!」
「うわっ‼ 坊が何かしゃべった⁉」
「えっ?どうしたのゴスさん?」
「奥様 今、坊がなんかしゃべりやし...たか?」
「?」「キョウちゃん しゃべったの?」
いかんいかん、つい衝動が…俺は赤ん坊、しゃべれないよ。とつぶらなアイコンタクトを返しておこう。
「ま~そりゃまだ無理でちゅよね。」
「すいません。大概そりゃ無理ですよね」
そうそう大概(?)まだ無理無理。声をどんなに出しても「だぁ」とか「ばぁ」から「だぁぺしゅ」とか「ばぶっしゅ」みたいな感じ?せいぜいこの辺がまだ限界。
「ほ~らあの遠くの森までがお父様…あなたのおじいさまの畑でちゅね~あの大きな木の辺からあの川の向こうがあなたのお父ちゃまの畑よ~。
たくさんの人が働いてまちゅね~。
キョウちゃんのお父さんがんばってまちゅね~」
…なんだか大変気恥ずかしいぞ。
若い母には申し訳ないが俺が話を理解していると知ったらこれ赤面するんじゃないかこれ?
いや、そんなことはさておき、これが畑?
俺が知っている畑と随分違う。
川があるのに灌漑の用水路がない。
区画も整備されておらず畝もなっちゃいない。
何より作物の種類がめちゃくちゃに混ざっていて、しかも苗から結実しているものまでごちゃごちゃでとんだカオスだ。
ナニコレ?新手の自然農法?
「今だ!苗を植えよ!」急に声がした。えっ?今の父親か?
「ほ~らキョウちゃん お父様カッコいいでちゅね~さすがでちゅね~これで豊作間違いなしでちゅね~明日が楽しみでちゅね~」
…何から何までわからんぞ。“今だ!苗を植えよ“って、その掛け声...要るか?
しかし次の日の抱っこおでかけでさらに驚愕した。
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