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紫電一閃(しでんいっせん)

本厚木駅に到着したのが9時18分、25秒、26秒、27秒…。


新富士駅からJR新幹線こだま820号東京行きに乗り込んだのが朝の7時54分。


小田原駅で新幹線を降りると、8時37分発小田急小田原線新宿行きに乗り換えて9駅やり過ごすと本厚木駅に着いたのが9時17分。


あまりの都会っぷりに1分弱固まってしまった自分がいる。


何の下調べもせずにここまで来てしまったけど、これから僕はこの街でやっていけるのか?


なんだかとっても心配になってきた。


そりぁ〜突然会社から転勤が言い渡されたよ。言い渡されたけどもだ、いきなり都会勤務は厳しいな。断れるもんなら僕も断りたかったよ?だけど社命だから!って部長に言われたら断れないでしょ?


…しかしまぁ〜何だ、勝手な妄想だったけれどさ、もう少しシンプルな街だと思い込んでた。さっきまで。


今更ながら、楠木さんと知り合いになれてて本当に良かった。これもし1人だったら、もうこの時点で引越しすら終わってないのにホームシックだったよ。


取り敢えず待ち合わせの時間までまだ30分以上ある訳だし、このままボケーっと立ち尽くしてても仕方ない。喉も渇いたし、お腹も空いた。その辺の喫茶店に入って空腹と喉の渇きを癒そう。


そう思って散策し始めたのが間違いの始まりだった。

これから住む街だし、あまり遠くまで行かなければ平気だと歩き出した。


しかし初めて訪れる土地ってのは全てが珍しくって新鮮に見えるもんだから、今歩いている道の事よりお店ばっかり気になっちゃって、どこをどう歩いているかなんて全く気にしていない。


取り敢えず見かけたレトロな喫茶店、"ひまわり"に心惹かれてフラっと入店。

モーニングセットを注文して流れてくるJAZZに耳を傾ける。


しばらくすると、コーヒーのいい匂いとトースト・スクランブルエッグ・ソーセージがのったお皿が運ばれてきた。


コーヒーを一口飲み、カップを目線より少し高く掲げて瞳を閉じて決めポーズ。周りからみたらアホだと思われそうだが、何だかとても贅沢な時間を過ごしている様な気分になる。


落ち着いた店内、流れてくるピアノJAZZ。店主のこだわりから生まれたであろう口当たりの良いコーヒー。今までこんな贅沢な朝食を食した事があっただろうか?

そんな事を考えながらふと壁に掛かった時計に目をやると、針は9時53分を指していた。


一瞬にしてら現実に引き戻された僕は、残りのコーヒーをグッと飲み干すと、お金を払って店を飛び出た。


…飛び出てみたのだが、自分がどこから歩いてきたのかわからない。ヤバイ!マジでヤバイ!


まぁ待て。こんな時だからこそ一回落ち着こう。

えーっと、アッチの方からから歩いてきて、一回右に曲がったよな?それからフラフラ〜っと街並みを眺めながら左に曲がった様な気がする。


困った。僕は今恥ずかしながらこの歳で迷子になってしまったみたいだ。

初めての土地に心踊ってしまい、子供の様にワクワクした挙句、街を冒険し始めたのが間違いの始まり。


「どーしよう。迷子になっちまった!」


頭を抱えて膝から崩れ落ちた。


ヤバイぞヤバイぞヤバイぞ!僕はこのままここで命尽きてしまうんじゃないのか⁉︎


「な訳あるか!取り敢えず一回冷静になろう。」

なんて事を考えていると、背後から声を掛けられた。


「あの〜さっきから大きな声で独り言呟いてますが、大丈夫ですか?」


大丈夫な訳ないやろ!って思いつつ振り返ると、女性が心配そうな顔をして立っていた。


「あ、えーと僕そんな大きな声で独り言呟いてましたか?」


そう訊ねると、女性は黙って頷く。


マジかー!恥ずかし過る‼︎

「スミマセン、本当スミマセン!ちょっとテンパってました!」


別に謝る事ではないけど、恥ずかしさのあまり何故か平謝り。


「いえ、別に謝る事ではないんですけどね。…ところでお兄さん、ひょっとして…迷子?」


やめて!僕の傷ついたハートに塩を塗る様な事言わないで!

っかなんで知ってるの?貴方はエスパーですか?


「なんで分かったんですか⁉︎僕ってそんなに田舎者に見えます?」

都会の人からみたら、僕はやっぱ田舎者にみえるのかな?


「いえ、さっき大きな声で迷子になっちまった!って叫んでましたから、迷子なのかな?って思いまして…聞いちゃまずかったですか?」


何やっちゃってんのかな?僕は!


「あかん、もうお婿にいかれへん。」

何だかちょっと前にも似た様な事があった気がする。


「あの、どこへ向かわれるのですか?私は厚木が地元ですからご案内出来ますよ?」


…今なんて仰いましたか?

迷子の僕を希望の場所まで案内してくれる、と。この人は天使か?


「ほ、本当ですか⁉︎正に渡に船!ひょっとしてお姉さんは僕のMy Angelっすか⁉︎」


そう訊ねると、お姉さんは澱みの無い笑顔と力強い口調で言う。


「絶対違います‼︎」


そりゃそうだ。


「ごめんなさい、この困った状況下で急に救いの手を差し伸べられたので、勢い余って変な事を言ってしまいました!普段は真面目なんですよ、僕。改めましてスミマセンでした!本題に戻りますが、道案内して頂けるとの事ですが、お姉さんは急ぎの用事とかあったりしてご迷惑ではありませんか?」


比例を詫び、改めてお姉さんに問う。


「いえ、駅前に買い物に来ただけですし、これと言って急ぎの用事なんてありませんから安心して下さい。で、お兄さんはどこに行きたいんですか?」


僕はそれを聞いて少し安心した。


「実は厚木に来るのは今日が初めてでして…。来週からは転勤でこの街で生活する事になったのですが、今日はその引越しの為こちらにきました。10時に人と待ち合わせしてたのですが、早く着きすぎて街を散策してたら迷子になってしまったと、なんとも間抜けな話なんですが…お恥ずかしながらお尋ね致します。本厚木駅北口はどう行けばいいでしょうか?」


僕は包み隠さずお姉さんに事の経緯をかい摘んで話した。


「そうだったんですか。大変でしたね。って、もう9時56分です!待ち合わせしてるんですよね⁉︎ちょっと遅れてしまうかもですが、北口までご案内するので急ぎましょう!こっちです!」


何故か急に手を引かれて足早に歩き出す。


「す、すみません!ありがとうございます。」


女性と手を繋ぐのはいつぶりだろうか?婚約破棄されるちょっと前が最後だな。しかし、これはどうみても手を繋いでるって感じではない。むしろ手を引かれているお母さんとそのダメな子供って感じの構図になってる気がする。


これは別の意味で恥ずかしい。


そんな事を考えながら歩いていると、見覚えのある駅の北口が見えてきた。


間違いない。今朝僕が降りたった場所だ!

良かった〜。


…時間は、10時を5分程過ぎている。

安心からか、急に我に返り辺りを見渡すと、そこには腕を組んで明らかに怒ってますよ?私。的な顔の楠木さんを少し離れた場所で発見。


あ、目が合った。


楠木さんはダッシュで駆け寄ってきて激おこぷんぷん丸。


「ちょっと瀬戸君!私と言うものがありながら、約束すっぽかして美女をナンパですか⁉︎しかも手繋いでるし!」


えー‼︎楠木さんにはそう見えるの⁉︎


「いや違うって!早く駅に着いちゃったから街を散策してたら迷子になっちゃって、困ってたとこをこのお姉さんが助けてくれたって訳。それにホラ、手を繋ぐってより手を引かれてるって感じだったでしょ⁉︎」


別に悪い事してた訳ではないけど、この誤解は解いておきたい。


「迷子って!瀬戸君はアレですか?子供ですか⁉︎何で駅前でジッと待ってられないんですか?これだから男子は…。」


そんなやりとりが面白かったのか、僕をここまで案内してくれたお姉さんは急に笑い出した。


「ごめんなさい!急に笑ってしまって。でも相変わらずね香緒里は。」


多分きっと楠木さんはちょっと冷静じゃなかったから、女性が誰だか気づいてなかったらしい。


「え、何!翔子⁉︎何で翔子が瀬戸君と一緒にいる訳⁉︎やっぱナンパ?ナンパな訳⁉︎」


いやいやさっきから違うって言ってるんですが…そもそも初めて訪れた土地でいきなりナンパする程僕はイケイケではない。


「まぁまぁちょっと落ちつきなさいって。どこをどうみたらナンパになるの?私は見知らぬ誰かに着いて行くほど軽くはないわよ。彼が迷子で困ってたからここまで案内しただけ。手もね、引いていたけど繋いではなかったわよ。でもまさか待ち合わせの相手が香緒里だったなんてね。逆に私がビックリしたわよ!」


まぁ話の流れからお姉さんと楠木さんは知り合いだって事がわかる。しかしなかなかの都会だと思ってたけど、偶然とは言えバッタリ知り合いと出くわすとか。広い街の割に世間は意外と狭いね。


「私だってビックリしたわよ!いきなり瀬戸君と翔子が手繋いで歩いてくるんだもん。時間になっても来ないしさ、私との約束すっぽかしてナンパしてたのかとこっちは思うじゃない⁉︎」


いやいやいやいや常識的に考えてそんな答えにはいきつかないでしょ。


「えーと、楠木さんとこちらの翔子さん?はお知り合いなんですか?」


話に入っていけないので尋ねてみた。


「私と翔子は高校からの友達なの。まぁ見てわかる通り翔子って綺麗だから昔から結構な割合でナンパされちゃうのよ。だから瀬戸君もそんな翔子に一目惚れしちゃってナンパせずにはいられなくなったのかと思っちゃったわけ。性格も明るくて優しいから尚更ね〜。」


まぁ楠木さんの友達なら色々安心だし、多分きっと誤解も解けたと思う。取り敢えず自己紹介しとこうかな。


「先程は助けて頂きありがとうございました。僕は瀬戸雅成と申します。実は先日山梨県をツーリング中、ひょんな事から瀬戸さんと知り合いまして、色々と話す内に仲良くなりまして、今日は引越しのお手伝いをして頂ける事となりました。これから厚木で生活する訳で、もしかしたらまたどこかでお会いする事もあるかと思います、その時は何卒よろしくお願いします。」


僕は助けて貰った事と、自己紹介なども兼ねて深々と頭を下げた。


「初めまして。中山翔子と申します。香緒里が今言った通り高校の時からの親友で、今も仲良くしてもらってるの。色々あって最近元気なかったから心配してたんだけど…なるほどなるほど!香緒里の事、末長くよろしくお願いしますね。」


まぁその辺は楠木さんから直接聞いたから何となく内容はわかっているから敢えてツッコまないでおく。


「ちょ、ちょっと!それじゃまるで私と瀬戸君が結婚するみたいじゃない!私達、まだ知り合って1週間位なのよ⁉︎しかもそれを許可する母親みたいな構図になっちゃってるわよ翔子。」


会話を聞いてると本当親友なんだなって事が伝わってくる。


「あら香緒里、結婚なんてタイミングよ?長く付き合えばいいって訳じゃないわ。お互いの嫌な部分が見える前にさっさと結婚しちゃいなさい!あ、もし香緒里にその気がないなら私にその役代わってくれないかな?ねぇ瀬戸君、私、立候補しちゃってもいいかな?」


何だろう。中山さんて意外とノリのいい人?それともエキセントリックな人なのかな?あまりにも素っ頓狂な事言って楠木さん固まってるよ?


「あははっ!中山さんて大人しめの優しい女性かと思いましたが、面白い人でもあるんですね⁉︎お申し出、大変ありがとうございます。もしも僕が楠木さんと出逢う前に中山さんみたいな素敵な女性と知り合ってたら、今の言葉できっとコロっていっちゃってたかもしれません。でもやっぱりそこはもう少しお互いを知ってからでも遅くないかと思います。」


危なかった〜。

綺麗な女性にそんな事言われた経験ないから、僕がもし童◯だったら間違いなくコロっといってた可能性が否めない。


「やっぱり瀬戸君の中では香緒里の存在ってかなり大きいわけね。香緒里は素直で真っ直ぐだし、スタイルもルックスもいいもんね。そりゃ瀬戸君も私になんて靡かない訳だ。香緒里、瀬戸君の事ちゃんと捕まえておきなさいよ?」


大丈夫です。悲しいかな捕まえておかなくても逃げませんし、行く宛なんてありませんから。


「もう!2人ともバカ言ってないで!ほら瀬戸君、さっさと君の新居に向かうわよ⁉︎私、瀬戸君が女の子侍らせて遅刻してきた事まだ許してないんだからね!その辺チャラにして欲しかったら美味しいご飯ご馳走様してよね!私も片付け頑張るし!あ、翔子も瀬戸君拾ってきてくれてありがとう。後は私一人で平気だし翔子も予定あるでしょ?今度ランチでも奢るね。」


えーっと楠木さんてばご機嫌ナナメ?

拾ってきたって、僕は捨て犬か!ってツッコミたい。

それに僕は決して女の子侍らせたつもりなんてこれっぽっちもないんだけど…まぁ余計な事は言わないでおこう。


「え、私特に用事なんてないわよ。暇だったから洋服でも見て美味しいランチでも…なんて思って駅前まできただけだから。あ、そうだ!ねぇ瀬戸君、私も引越し手伝ってもいい?

一人より二人がいい、二人より三人がいい〜♪って某戦隊ヒーローも歌ってたよね?って事でホラ、香緒里に瀬戸君、何してるんだい?早く行くわよ!瀬戸君、固まってないで新しい新居に私を連れてって!」


何だか急な展開に若干戸惑いを覚えたが、このまま立ちすくんでいても仕方ない。

中山さんは固まったままの楠木さんの手を引くと、三人で僕の新居に向かって歩き出した。

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