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女に振られて雨にも振られて

色々な事が重なり過ぎて、僕は少し心が疲れていた。

祖父の死、いきなりの転勤命令、突然の婚約解消などなど。


何もかもを受け入れるのには、まだ少し時間がかかりそうだ。


そんな憂さを晴らそうと、珍しく有給休暇ってやつを取ってみた。


朝。愛機ゼファーχに跨ると、あてもないまま取り敢えず、ただただ北に向けて走り出した。


一時間程走ると、天気は段々と下り坂になる。


「女心と秋の空ってとこか?降らなきゃいいけど…」


僕の願いは天には届かず、ポツポツと降り出した雨は道を進むにつれて激しさを増してゆく。


「マジか⁉︎これじゃ視界が悪くて運転し辛いよ。まいったな〜、女に振られて雨にも降られて…僕はどんだけ運が悪いんだ⁉︎」


若干キレ気味に独り言を呟きながら、僕はこの雨をやり過ごせる場所を探していた。


「悪いな相棒、無理させちまって。だけどさ、婚約破棄されちまったおかげで、お前を手放さなくて良くなって僕にとってはラッキーだったよ。引っ越し終わって、落ち着いたらしっかりメンテ&洗車すっからな。」


答えるわけもないのに単車に一つ声をかけると、500メートル先左折。戸谷温泉と言う看板が目に入った。


雨で冷え切った身体を温めて、この天気をやり過ごしながら、日頃の疲れもとる。


「一石二鳥どころか一石三鳥ってとこだな!」


そんな事を考えながら、僕は日帰り温泉を目指しアクセルを開けた。


看板を目にしてから10分程走ると戸谷温泉が見えてきた。僕は屋根付きの駐輪場に愛車を停めると、受付カウンターでタオルは購入、浴衣はレンタルして、入浴料金もしっかり払って男湯に入った。


平日って事もあり、入浴客が全くいなくて貸し切り状態。髪の毛と身体を洗ったら、僕は内湯をすっ飛ばして露天風呂に入った。


外は雨だが屋根付きの露天風呂ってのはありがたい!

因みにコレは豆知識だが、露天風呂に屋根をつけるのには二つ程理由がある。


一つは藻の繁殖を防ぐ為。

藻は温水がたまる浴槽などに生息する植物で、特に温泉藻と言う種は50〜80度の高温でも生きられる。

温泉のミネラルと二酸化炭素、日当たりの良い場所で光合成する事により繁殖する。


藻で足を滑らす危険もあるので、増やさない為に日除として設置をする所が多い。


もう一つの理由は湯船の温度を一定に保つ為という理由がある。


なーんて誰に聞かせるでもないどうでもいい様な事を考えながら露天風呂に入る。


「身体の芯から冷えたから、ゆっくりとつかろう。」


頭の上にタオルを畳んでのせて、僕は肩までお湯につかった。


「は〜ぁビバノンノン!生き返るね〜実際⁉︎」


よくわからない独り言を呟きながら、全力で温泉を堪能する。

ついでに誰もいない事をいい事に歌まで一曲披露しちゃったりなんかした。


雨の露天風呂ってのも、風情があってとても好きだ。

ここから見える山々の紅葉なんぞを楽しんでいると、湯あたりをおこしそうになったので、お風呂から出る決心をして立ち上がる。


脱衣所で身体をよく拭き、レンタルした浴衣に着替えると、貴重品を持って広間へ向かう。


だいぶ汗をかいて喉が渇いたので、自販機で冷たいお茶を買おうと自販機コーナーに立ち寄る。


自販機コーナーにたどり着くと、うーんと言いながら首を傾げる女性が1人。


どうやら先客らしい。

僕はその後ろで自分の順番を待つ事にする。


「あーもう‼︎どうして私の財布には諭吉と樋口しか入ってないのよ⁉︎英世は?小銭は?なんでないのよ⁉︎私のバカ!」


諭吉さんと一葉ちゃんがいれば十分だろう⁉︎

僕の財布にゃ、借金の天才と言わしめた英世が幅を利かせてるってーのに…金持ちめ!


「…不幸だわ。彼氏に振られて1人傷心旅行に来てみれば突然の土砂降り。雨宿りがてら寄った温泉では、小銭がないばかりに火照った身体を冷やすお茶すら買えない。私ってばどんだけ不幸なのよ⁉︎」


地団駄を踏みながら女性は自販機前でご立腹。


しかしなんでだろうね。

今僕はこの女性に若干の親近感がわいてきたよ?


「失礼します。自販機使わせてもらってもよろしいですか?」


突然後ろから声を掛けてしまったからか、女性は一瞬ビクッとすると、ワタワタと振り返って僕を見る。


「す、スミマセン‼︎自販機先に使って下さい!…アハハ、誰もいないと思ってたので…あの、聞こえちゃいました?」


赤面しながら僕に問いかけた女性はとても綺麗な顔立ちをしていた。


僕は財布から小銭を出してペットボトルのお茶を2本買うと、一本女性に差し出した。


「聞くつもりはなかったのですが、結構大きな独り言だったので聞こえてきちゃいました(笑)。あ、コレはお詫びの印って事で受け取って貰えませんか?」


女性は更に顔を赤くして頭を何度も下げる。


「いえいえいえいえ!頂けませんから!あのお金お支払いします!ちょっと待って下さいね。えーと、小銭小銭…」


若干テンパり気味に小銭を探す。


「小銭ないんですよね?さっき盛大に呟いてましたよ。」


女性はその場にへたり込んでしまった。


「…もうお嫁に行けない!なんなの?今日はなんて日なのよ⁉︎彼氏に振られて…」


女性は半ベソかきながら呟き始めた。



「彼氏に振られて1人傷心旅行に来てみれば突然の土砂降り。雨宿りがてら寄った温泉では、小銭がないばかりに火照った身体を冷やすお茶すら買えない。でしたよね?」


とうとう声を上げて泣き出してしまったので、僕は焦って大慌てで女性に話しかける。


「スミマセン、スミマセン!ちょっとデリカシーに欠けてました。僕に出来る事ならなんでもしますから、取り敢えず泣き止んで下さい!」


騒ぎを聞きつけ館内のスタッフが飛んできたが、僕は大丈夫ですスミマセンと謝り女性を広間に連れて行った。


しばらくするとようやく落ちつきを取り戻した女性が口を開く。


「ご迷惑をお掛けしてスミマセンでした!」


目の端にまだ涙が溜まっていたが、普通に話す事に支障はなさそうだ。


「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。僕もデリカシーに欠けてたって言うか、ね。こんなんだから彼女に振られて雨にも振られちゃうんですかね?」


自虐気味に彼女に話しかけると、少しだけ笑ってくれたのが救いだった。


「お兄さんも振られちゃったんですか⁉︎って事はお兄さんも傷心旅行?私達、似た者同士ですね!」


急に身を乗り出してきたのでビックリしたが、もう大丈夫そうだと思った。


「傷心旅行なんて大袈裟なものじゃないですよ。バイクで来たし。例えるなら傷心ツーリングってとこでしょうか?自分もね、色々あったんです。可愛がってくれた祖父が亡くなり、会社からは転勤命令。彼女に振られて気晴らしにツーリングに出掛けてみれば雨にも降られる始末。もうね、踏んだり蹴ったりなんですよ(笑)」


こんな話を人にするのは始めてだったが、先程の似た者同士って言葉に絆されて、ついつい身の上話をしてしまった。


「大変だったんですね。それなのに更に追い討ちを掛けて私も迷惑掛けちゃうし…本当すみませんでした。」


その発端に間接的にでも一部加担したのは僕なので、謝られるとこちらも恐縮してしまう。


「今更ですが、自分は瀬戸雅成(せとまさなり)と申します。自分の方こそすみませんでした。なんだか勝手ながらお姉さんに親近感が湧いてしまいまして、身の上話までしてしまいました。と言う事で、これでおあいこって事でどうでしょうか?」


考えてみれば自己紹介すらしてなかった事に今更ながら気づいた僕は、取り敢えず簡単な自己紹介をしてみた。


「あ、私も色々テンパっちゃって自己紹介すらしてませんでしたね!私は楠木香緒里(くすのきかおり)って言います。横浜にある飲料メーカーでOLやってますが、先程瀬戸君に聞かれてしまった通り、現在有給休暇を取って傷心旅行中です。」


有給取って傷心旅行って凄いな〜。

まぁ自分も気晴らしに有給取ってるから人の事言えないんだけどね。


「ところで瀬戸君、さっき"僕に出来る事なら何でもする"って言いましたよね?」


うっ!

確かにさっき咄嗟にそんな事を口走ってしまった気がする。


「えーっと、確かに勢いでその様な事を言ってしまった様な気がします。けど、あくまで僕に出来る事ですよ。僕に出来る事なんてたかが知れてますからね!例えば家事全般。料理とかも和洋中ならある程度。最近はフランス料理を研究中ですので、簡単なものであれば作れます。後、洋服とかも然程難しくなければパターンから引けます。レザーを使ったウォレットとかも作れますね。あ、今着てるシャツと財布は自分で作りました。その他、部品とパーツさえあればバイクも組めますし、ご希望でしたら塗装もしますよ?とまぁ、僕に出来る事なんてこれくらいですから、無茶なお願いは勘弁して下さいね。」


無茶なお願いをされる前に先に釘を刺しておかないとね。


「って、普通、洋服なんてパターンから引ける一般人なんてなかなかいませんよね⁉︎お仕事はアパレル関係ですか⁉︎料理も和洋中にフランス料理とか‼︎私ですら肉じゃがとカレーとスパゲティーくらいしか作れないって言うのに!羨ましすぎる‼︎もしかして瀬戸君てシェフ!シェフなの⁉︎イヤでもバイク組めて塗装も出来るとか!バイク屋とか⁉︎一体、瀬戸君は何者なんですか⁉︎と言うか何でも出来るじゃないですか‼︎これじゃ多少無茶言ったとしても何でもこなしちゃいそうで逆に怖いですって!」


なんだか元気になったぽくて良かった。


「と言うか、私そんな無茶なお願いしそうに見えます?しませんから‼︎色々聞かれてしまった瀬戸君には、この際とことん話を聞いて貰えたらと考えたんです。ほら、旅の恥はかき捨てって言うじゃないですか?だからここまできたのなら、全部話してスッキリしちゃおうかと思ったんです。…ダメですか?」


良かった常識ある女性みたいだ。


「そんなんで良ければ幾らでもOKですよ!んじゃ少しだけ待ってて貰えます?」


そう言って一度席を立つと僕は自販機でシュワシュワ〜ってする大人な飲み物を二本買って戻ってきた。


「折角ですから、ね?お茶じゃなんですからコレで、乾杯しましょうよ!」


そう言って楠木さんに1本手渡し乾杯する。


「カンパーイ!ビールやっほー‼︎シュワシュワ〜…てこれノンアルじゃないですか⁉︎私達大人ですよ⁉︎」


ちょっと拍子抜けをくらい、何処か残念そうに楠木さんは叫んだ。


「当たり前じゃないですか!まだ昼間ですよ?しかも僕はバイクですし、飲酒は出来ません!楠木さんだって車じゃないんですか?」


流石に免許取り消しとか嫌だし。

飲むなら乗るな!乗るなら飲むな!だ。


「私電車旅だし、宿も取ってあるから別に平気ですよ?ってビールって昼間に飲むと美味しいですよね⁉︎私、休日はちょいちょい昼呑みとかしますけど何か?


あーこの人イケる口なんだな。


「イヤ、確かに美味しいですけどね!取り敢えず雰囲気だけで、ね?」


ブーブー言う楠木さんを嗜めながら、彼女はポツリポツリと話始めた。


「私ね、最近まで付き合ってた人がいたんだけど、突然振られたの。彼とは高校の時から付き合ってて、私にとっては初恋でもあったの。喧嘩もしたし色々あったけど、9年も付き合ってれば、そろそろ結婚かなって考えるじゃない?でもそんな事考えていたのは私だけだったみたい。彼はさ、結婚なんてまだ早いって。お前は結婚したら仕事辞めて家事だけやってればいいかもしれないけど、俺は一生家族の為に働かなきゃならない。ようやく自分の稼いだ金で欲しいものが買える様になったって言うのに、この歳で結婚なんてまっぴらゴメンだね!俺はまだ結婚なんて考えてないから。言いたくないんだけどさ、重いんだよな〜そう言うの!って。それ聞いたら色々冷めちゃってね。今までの付き合いって何だったんだろう?とか考え始めたら凄く悲しくなっちゃて、結局その後も色々あって振られちゃったんだけどさ、仕事も手につかなくなっちゃったから、思い切って有給取って現在に至るって感じ。ねぇ瀬戸くん、私って重いのかな?」


少し悲しそうに話してくれた。


「まだ僕は楠木さんの事よく知らないですけど、別に重いなんて思いませんよ。9年も付き合っていれば、そろそろ結婚を…なんて意識して未来を考えるなんて当たり前の事だと思いますよ。そりゃあ、まだ遊びたい盛りかもしれませんが、楠木さんみたいな綺麗な女性振るなんて、みる目ないんですね。第一印象で話をさせて頂きますが、楠木さんはハキハキとしていて明るい印象を持ちました。そりゃあスッゴイ独り言言ってて若干引きましたが…」


ちょっと顔が赤くなった様な気がしたが、それはビールのせいじゃない。だってノンアルだし(笑)


「やっぱ引いたんだ⁉︎瀬戸君て一言多い人?綺麗とかハキハキして明るいとか言って持ち上げておきながら、独り言が凄いとかって言って落とすし。そんなんじゃ彼女出来ませんよ⁉︎」


その通りなんだ。

楠木さんの言う事は正しいと思う。現に振られてるし。

痛いところを突かれたな〜とか考えていると、楠木さんは申し訳なさそうな顔をすり。


「ごめんなさい。一言多いのは私の方だ。瀬戸君も別れちゃったって言ってたもんね。」


楠木さんは人の痛みがわかる人なのかもしれない。

いや、自分も同じこと状況だからこそ素直に非を認められるんだと思う。


「謝らないで下さいよ。僕は全然気にしてませんから。楠木さんの言う事、あながち間違いじゃないですし。次に恋をする機会があったら、そう言う所を治していきたいと思います。勉強になりました。」


それから僕らは色々な話をした。

お互いの生い立ちから学生の頃の事、休日の過ごし方や好きな食べ物。


気がつくと夕方を過ぎて、辺りは暗くなっていた。


「なんかさ、すっかり話し込んじゃたけど、数時間前までお互い全く面識のない他人だったなんてしんじられないよね⁉︎瀬戸君ともっと早くに知り合いたかったな。もしかしたら私達親友になれてたかもね!そしたら私の人生、もっと楽しかったかも。」


それは自分も同じ様に感じていた。


「別に今からでも遅くない気がしますけどね。何をするにもね、遅いって事はないんです。今からだってもっと楽しい人生送れますよ。でもそれは楠木さん次第です。右か左か?行動を起こすか起こさないか?それだけの事なんです。」


そうかもしれない。

彼女は小さく呟いた。


「さてと、僕は明日仕事があるのでそろそろ帰ろうかと思いますが、楠木さんはどうします?バイクなので送ってあげられませんが、駅までならお見送りしますよ?辺りは暗いですからね。」


タンデムするにはヘルメットが必要だ。

流石にノーヘルで後ろに乗せる訳にはいかないしね。


楠木さんは大層遠慮したが、人気も少ない夜道を歩かせる訳にはいかないと言う僕の言い分に折れ、駅まで見送る事を承諾してくれた。


僕はバイクを押しながら彼女を駅まで送る。


「そのバイク、なんてバイク?」


話題に困ったのか、楠木さんはそんな質問を投げかけてきた。


「Kawasakiのゼファーχってバイクです。96年製の初期型4バルブ53馬力の、僕の大切な相棒。カタログ上はリッター40とかって謳ってますが、実際はリッター20いけばいい方。残念ながら製造も販売も既に終わっちゃいましたが、いまだに根強い人気を誇るバイクなんです!あ、すみません。こんな話興味ありませんよね?何か自分は話題に疎かったりするので、気の利いた話を提供する事が出来ないんです。」


人付き合いは苦手じゃないけど、旬の話題には敏感じゃないから、誰かが喜ぶ様な話は持ち合わせちゃいなかった。


「男の子は乗り物好きよね〜。でも綺麗なバイクね!あとうまく言えないけどそのバイクかなりイケメンだね。オーナーに似なくて良かったね〜バイ吉!」


バイ吉ってゼファーの事かな?

しかもサラッとひどい事言ったよ?この子。


ツッコんだら負けな気がするので、受け流した。


気がつくと、駅が見えてきた。

何だろうな。久しぶりに誰かと濃い時間を過ごした気がする。寂しいな〜なんて、柄にもなく思ってしまった自分がいる。


「もう着いちゃったね?…ねぇ瀬戸君、転勤先って何処?」


楠木さんも僕と同じ様な気持ちなんだろうか?

さっきから質問ばかりだ。


「転勤先は神奈川県厚木市です。近いですね…横浜から。」


少しだけ彼女の顔が嬉しそうに見えたのは、僕の勘違いだろうか?


「そう…なんだ。厚木…なのね!へぇ〜意外と近いのね。そっかそっか。そうなんだね!で、瀬戸君は神奈川県に詳しい?知り合いとかいるの?」


生まれてこの方地元を離れた事がないので、詳しいかと訊ねられたら答えはノーだ。


「ツーリングや遊びで行った事はあるけど、詳しいって程じゃないかな〜。あと残念ながら神奈川県に知り合いはいないですね。まぁ、何とかなりますよ。」


そう言って楠木さんに笑ってみせた。


「神奈川県て結構都会よ?誰も知り合い居ないって結構大変よ?大丈夫なの?」


取り敢えず引っ越したら先ずは街散策から始めねばと考えたりしていた。


楠木さんは首を傾げて腕を前で組んで、今考えてます!的なポーズをとっている。


「ねぇ、携帯持ってる?ちょっと見せて!」


僕は内ポケットからスマホを取り出した。


「ねぇ、LINEと携帯番号交換しようよ。」


その言葉に僕は一瞬驚きを隠せなかった?


「え?いいの?」


そう言って彼女をら見ると、一瞬で目を逸らされてしまう。


「こうして知り合ったのも何かの縁だし、瀬戸君が厚木辺りで迷子になって泣いてたら可哀想だからね!だから困ったらお姉さんを頼りなさい。あ、ほら、LINE出してフルフルして。」


こうして僕は楠木さんと携帯番号とLINEの交換をした。


「で、いつから転勤なの?」


携帯登録をしながら楠木さんは僕に問いかける。


「再来週ですね!物件は会社の方で手配済みなので、後は生活に必要なものを運べば完了です。実は今週の土日で片そうかと思ってます。」


なんせ突然の転勤なので、バタバタしてでも終わらせないと…死活問題だし(笑)


「そっかそっか!ならば今週末は空けとくから、金曜日の夜にでも連絡くれる?なんか今日知り合って間もないけど色々迷惑掛けちゃったしさ!そのお礼。あ、引っ越し手伝うんだからご飯くらいご馳走してよね!いい?約束よ!」


半ば強引に約束を取り付けると、楠木さんはニコニコとした顔で楽しそうに笑っていた。


「いや、僕としては有り難いんですが、折角の休日をそんな事で潰してしまっていいんですか⁉︎何か申し訳ない気がするんですが…」


昔からの友人なら笑ってよろしく!とか言えるんだけど、今日知り合ったばかりの女性に…いいのだれらうか?


そんな事を考えていると、楠木さんはご機嫌な声で答える。


「だからご飯ご馳走してくれればOKだって!瀬戸君は引っ越しが少し楽になって厚木について教えてもらえる。私は美味しいご飯にありつける。Win Winじゃん!どうせ週末暇を持て余してるんだろうし、何かしてた方が気分的にも楽だし。」


1人ウンウンと頷きながら呟いた。


それから10分位他愛もない話をしていると、駅のホームに電車が滑り込んで来た。


「いい、絶対連絡して!無かったらこっちから連絡しちゃうんだから!あ、後暇なら気軽にLINEしてくれて構わないからね!」


そう言い残して笑顔で手を振り、楠木さんは電車に乗り込んでいった。


僕も楠木さんに軽く手を振ると、見えなくなるまで電車を見送った。


すっかり忘れていた事だけど、雨は上がっていて、雲の隙間に星が幾つか見えていた。


「明日は晴れそうだな」


そんな事を一つ呟くとバイクに跨り帰路に着いた。





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