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第二話 好きこそ物の上手なれ01

 好きこそものの上手なれ。なんでことわざがあるが必ずしも的を射ているとは思えない。下手の横好きなんて言葉もある通り、なかなか現実は厳しいものである。俺も子供の頃は野球が好きで打ち込んでいたが、実力はパッとしたものではなかった。


 が、野球好きな奴が全員プロになれないことが真理であるように、プロ野球選手が全員野球好きなことも真理である。




 俺と宮ノ陣はエスパーの研究をすることにした。エスパーであることを公表したい宮ノ陣ではあるが、さすがに他の研究者たちの経済的な地固が済むまで少し我慢してもらうことにする。


「ちなみに、宮ノ陣は他のエスパーにはあったことはあるのか?」

「あるにはあります。もっとも彼女たちは自分がエスパーだということには気付いていませんでしたが」

「どういうことだ?」


 宮ノ陣曰く、潜在的なエスパーというのはある程度の数存在するらしい。だが、そのことに気づくことなく一生を終える人が大半だそうだ。


「大刀洗さんはスプーンを曲げようとしたことはありますか?」

「うーん……。小学生の頃給食の時間にふざけてやったくらい?」

「そうです。一般人はその程度の経験しかありません」


 丸い顔、大きな瞳、低い鼻、シミひとつない肌、ツインテールに結ばれた紫の髪。見た目に関しては多少奇抜な幼女のそれだと言うのに大人びた表情で宮ノ陣は語る。


「私は6年間毎日スプーンを曲げようとしました。その結果この力を身につけました」


 宮ノ陣はポケットの中から銀色のスプーンを取り出した。


「おお……」


 スプーンは溶けるかのようにぐにゃりと曲がった。そのまま宮ノ陣の手を離れ、空中で持ち手がリボン結びになる。


「ちなみに、どれくらいの割合でいるものなんだ? エスパーの資質を持っているのは」

「だいたい20人に1人くらいです」

「多いな」

「まあ、その力の大きさには個人差がありますが。私と同程度となるとだいたい10万人に1人」

「そう考えるとかなり低い……いや、高いのか?」


 もっとも自分の才能に気がつくのは何十億人に1人なのだろうが。


「エスパーとして覚醒した時、人のオーラが見えるようになりました。簡単に言えばエスパーとしての素質がある人ほどそのオーラが大きく強く見えます」


 詳しく調べたわけではないがこのエスパーとしての能力は女性にしか発現しないらしい。もちろん原理も全くの不明だった。


「理由が分からなくても使えるものは使いましょう。原因がわからないから使わないってのも考えものです。現に飛行機も麻酔もバンクシーの絵も確かな地位を確立しているのですから」


●◯


 4人の天才を会社に招いてから1週間が経とうとしていた。宮ノ陣の超能力に関する研究もひと段落付き、俺は他の三人の研究を見て回ることにする。


「よお、雄司。調子はどうだ?」

「……悪くねぇ」


 鉄板、ハンダゴテ、パソコン、ハンマー……。様々な工具や部品があちこちに散乱した部屋の真ん中に神田北は立っていた。その側には人型のロボットらしき物体も。赤い瞳を光らしている。


「寝れてるか?」

「……そういえば」


 寝ずに研究に没頭するどころか、寝ることすら忘れたらしい。工具の中に混じるサプリメントの箱を見て俺は眉をしかめた。


「別に急いでくれとは言ってないんだから。楽しい気持ちもわかるけどな」

「ああ、そうだな。悪かったよ。キリがついたらすぐに寝る」


 神田北はポリポリと頭をかいた。この分じゃしばらく風呂にも入っていないのだろう。今なら最邪凛に臭いと言われても文句は言えまい。


「何を作ってんだ?」


 邪魔になるかもしれないと思いつつも尋ねる。神田北はこちらを振り返ることもなく答える。


「売れる製品を作れってことだったんでな。これは介護用ロボットだ」

「へえ、らしくないな」


 かつて神田北は戦闘用ロボットを専門としていた。そのロボットが暴走したせいで彼は学会を追放されたわけだが、実際、戦闘用ロボットの発明はロボット工学界でもかなりグレーだったらしく、必要以上の処置だったと思われる。


「少子高齢化社会の世界だ。若返りの薬でも作られない限り需要は必ずある」


 普段は頑固な奴だが、今回ばかりは俺の依頼に答えてくれたらしい。


●◯


「……だれ?」

「吉田小次郎さん」

「うん、だから誰?」


 三階の吉野坂の研究室には全く持って顔なじみのないおっさんが椅子に縛られていた。頭にはヘルメットのようにゴツい機械が装着され、ぐったりとしている。


「ウチの研究には人体実験が不可欠やけんね。お金払って協力してもらっとっとよ」


 吉野坂佳恵は脳科学者の卵だ。確かにその才は教授お墨付きではあるが……。


「やっていいことと悪いことがあるだろっ!!」

「そんな怒鳴らんでばい」


 悪戯がバレた子供のように笑ってごまかそうとする吉野坂だがこれはまずい。世間にバレれば警察沙汰だってあり得る。


「ちなみに、ほとんど研究は成功しとるけん。そげか心配いらんよ」

「研究って?」

「言語の習得よ。ほら、新しい言語って覚えるのめちゃくちゃ難しかろ? 英語とか中国語とか。やけん無理やり脳みそば改造すると。そうすれば1日で言葉ば覚えられるけんね」

「そんなことが……」


 倫理的、道徳的な観点を除けばあまりに画期的な発明である。文字通り世界をひっくり返すことになるだろう。


「ちなみにこの人はホームレスで身寄りがないらしいっちゃんね。ちゃんとやること全部説明してあるし、同意書だって書いてもらっとるけん」

「分かった……絶対に失敗するなよ」


 ぐったりとしたおっさんをチラリと見て、俺は三階を後にした。


「さてさて最邪凛はどんな研究をしているのやら」


 天才生物学者、最邪凛の元へ向かう。

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