03 カルシウム
相変わらず執筆遅めの不定期更新ですみません。
お読みいただければ幸いです。
「ピー ヒョロヒョロヒョロ」
猛禽類なのか魔物なのか距離がありすぎてここからでは判らないが、大きな鳥が飛んでいる。
そういえば、この世界で空を飛ぶ方法はあるのだろうか?
転生から18年、ここ5年位はあちこち見て回っているが、この世界で人が空を飛ぶ所は見たことがなかった。
ファンタジーな世界で人が空を飛ぶ方法と言えば飛竜に代表されるような飛行できる魔物に乗って飛ぶ方法だろう。飛竜を乗りこなす竜騎士が居ることは噂では聞いたことがあるのだがまだ実際には見たことはない。次点で飛空艇のような空を飛ぶ魔道具だろうか。ただ、空を飛ぶ魔道具と一口に言ってもその種類は様々で飛空艇のような大掛かりな物から魔法の箒のような個人持ちの物まで魔法の規模も理論も多岐にわたる。
そういえば、魔法使いが空を飛ぶ方法第一位(自分調べ)の空飛ぶ箒は、異世界魔法では全く見ないのは何故だろうなどと約体ないこと考えていたらさっきまで上空を優雅に滑空していたはずの鳥さんが急激に大きくなり始めた。
「ギェー」
完全に獲物として捉えたこちらを威嚇するような鳴き声を上げながら急降下してくる様子を見ながら
「これが、連合軍を恐怖のどん底に陥れたユンカース Ju87スツーカの
急降下爆撃か~」
とか
「ドイツの軍事力は異世界イチー」
等とくだらないことを考えつつタイミングを見計らってささっと左に交わし、すれ違い様風魔法をスツーカモドキの首に撃ち込んだ。
「ズザザザー」
機首じゃなかった首が取れちゃったスツーカモドキがそのまま地面に墜落したのだが想定以上の大きさに暫く放心してしまった。咄嗟のことで思わずヤってしまったのだがこのまま見なかったことにして立ち去っちゃおうかな?
「ごはん~」
「唐揚げ~」
「焼き鳥~」
うちの子達の反応は早かった。一匹が首の切り口に取りついて血抜きをし始め、残りの二匹に羽根をむしっられて綺麗に解体されていった。
晩御飯は、スライム達のリクエストでスツーカモドキの唐揚げとなりました。
晩御飯を食べ終えて土魔法で作った野宿用の小屋の中で食後のデザートを食べているスライム達を見ながら飛行機の模型を作って見る事にした。
材料は先ほど解体してアイテムボックスに仕舞っておいたスツーカモドキの骨がある。手羽先の骨でも30cm位あるので鶏ガラスープにする分を残してもまだまだ余るのでちょうど良い。
手羽の辺りの比較的小さな骨を使って主翼、胴体垂直尾翼と水平尾翼と錬金魔法の【変形】駆使して造形していく。先ずは手で投げて真っ直ぐ飛ばすだけの翼幅50cm程の大きさだ。
完成した機体で早速試験飛行と行きたいがこのまま投げると小屋の土壁に激突するので正面の壁を土魔法で変形して通り抜けられる様に取っ払った。すでに夜も更け、辺りは真っ暗なので機首、尾翼端主翼端にそれぞれ光魔法で翼端灯を無駄なこだわりで再現しいざ大空へと…とは行かず10m位で胴体を擦りながら着陸した。まあ、座った状態から軽く投げただけなので飛距離はこんなものだろう。特に上下動することもなくスムーズに飛んだので初号機にしてはまあまあのできと言えるだろう。
胴体着陸でもどこも壊れなかったところを見ると強度的にも問題無さそうだ。なので、もう少し飛距離を稼げるようにと翼断面を薄く伸ばし翼面積をとるように変形させる。特に後退角を付けていない真っ直ぐな翼を持つ機体は前世世界のグライダーのようだ。
今度は揚力が有りすぎた。機首が持ち上がっては失速して落下、落下の加速でまた持ち上がる、波打つような挙動を繰り返したあげくに失速してボトッと落下した。少し翼面積が大きすぎたか?最初の状態との中間くらいに再度モデリングし直し再度挑戦する。まだ、機首が上がりぎみだがさっきよりは大分マシになった。これならば後は尾翼の調整で済むだろう。水平尾翼をちょっとだけお尻が上向くように調整し水平に投げ出した状態のまま飛んでいくように調整して出来上がりである。
「えい」
ちょっとだけ気合いをいれて投げると小屋に開けた穴を退け少し離れた夜の森の中に吸い込まれ
「ごん、がさ」
当然木に激突して墜落した。するとさっきまでデザートに夢中だったスライムのうちの一匹が後を追いかけて森に入っていった。
「トト~、見つかったかい?」
従魔のスライムの一匹、"トト"だ。トトは【錬金魔法】と【調合】のスキルを持った錬金術師だ。薬草やら効能のある素材を体内に取り込んで各種ポーションを調合できるとても賢いスライムなのだが、【錬金】のスキルもありこういった魔道具やらガジェット大好きなマッドサイエンティストな一面を持っているので模型飛行機にも早速食いついている。残りの二匹は知らん顔で、晩御飯をデザートまで堪能して満腹になった様で既に寝息をたてている。スライムなのに器用なものだ。
「ピュイ、ピュイ」
どうやら見つけられたようだ。
えっ、あれで判るのかって?スライム愛があれば伝わって来るものなのですよ?
森の中から模型飛行機を抱えてトトが戻ってきた。
「ピュイピュイ」
「うん。飛行機って言うんだよ。」
「ピュイピュイ」
「魔道具ではないからね。」
「ピュイピュイ」
「そう、魔法じゃなくて物理で飛ぶんだよ」
「ピュイピュイ」
「面白いでしょ?トトも作ってみる?」
「ピュイピュイ」
「えっ、乗ってみたいの?飛びたいってこと?」
「ピュイピュイ」
大分興奮している。
トトの大きさは直径20cm程のお饅頭型で重さは2kg位ある。今作った翼幅50cmの機体には荷が重そうである。これの倍、翼幅1m位は必要そうである。今いる小屋の中で作るには少し手狭である。
「判ったよトト。でも今日はもう遅いから、明日、朝ご飯を食べたら
機体を作るところから始めようか」
「ピュイピュイ」
「フフ、トト専用機だ。どんな機体にするか考えないとな。」
明日作り直す機体を考えつつその日は眠りについた。
****************
次の日の朝、歯磨きをしていて急に思い出した。
「そういえば、サキちゃんとミキヒサくんが白い歯の命のもとは
アパタイトだといっていたな。」
アパタイト、リン酸カルシウムは、歯や骨の主成分である。子供の頃は手頃な金属元素として【錬金】スキルのレベルを上げるためにカルシウムを抽出して金属素材として使ってみたのだが柔らかいのと
水に触れると反応して水酸化カルシウムになっちゃうのでそのまま使うのは諦めた。だってスープをすくっただけで反応して腐食しちゃうスプーンはちょっとね。水で洗えないし。
ただ、骨は素材としては子供でも手に入れやすく加工も容易で軽くて丈夫なので今回の飛行機の模型の試作のようにモデリングの材料として重宝していた。
今でこそあちこちの鉱山からこっそりと様々な鉱石を採掘してはインゴット化してマジックバッグに溜め込んでいるが当時は鉄や銅ですら思ったように集まらなくて苦労したものだ。
飛ぶ気満々のトトに急かされて1.5倍サイズに拡大して胴体の主翼のつけね辺りを操縦席っぽくへこませた。翼幅が1mを超えると流石に骨素材では強度の心配もあるので早速操縦席に乗り込んで「すぐ飛ばせ!今飛ばせ!」と騒いでいるトトを説得し先ずはトトと同じくらいの重さの砂袋重石に載せて試験飛行を繰り返す。
少し揚力が足りないのか飛距離が延びないがあまり最初から飛びすぎるのも危険なので良しとする。
いよいよトトの番だ。ダミーの砂袋を下ろし代わりにトトを載せた機体を先ずは胸の高さからそっと押し出した。
「ピュイピュイ」
「おいおい、跳び跳ねたら落ちるぞ」
「ピュイ」
ぼと…がしゃっ
あーあ、落ちちゃったよ。飛行機はきりもみ状態で墜落した。落ちたままの状態でトトが地面の上で固まっている。物理耐性のあるスライムだからあの位の高さから落ちてもどうと言うことはないので精神的に落ちているのだろう。そっと抱き上げて小声で聞いてみる。
「トト、どうした?落ちて怖くなっちゃったかな?」
「ピュイ~」
あれだけの短い時間のフライトだったが余程楽しかったのだろう。目がハートに成っている。そんな芸、何時何処で覚えたんだこいつは。
「そうか、楽しかったか。もう一回飛ぶか?」
「ピュイ~」
あぁ、飛ぶ気満々だ。ならばとトトを肩に載せ墜落した飛行機を拾いに行く。あー、左翼がポッキリいっちゃっている。
「ヒール」
そう、これぞ異世界回復魔法の不思議ポイント、素材が骨で出来ていると少しぐらい壊れても回復魔法で治るのだ。おれた左翼が元通りに成っているが少し補強しておこう。翼の中、中央部分にもう一本骨組みとなる様にパイプを通す。この際だから操縦席を作りパイプの中を通したミスリルのワイヤーを通し翼端1/5位に付けたエルロンまで引き込む。エルロン自体を動かすのはゴーレムやオートマタで使う魔法で動く人工筋肉を取り付けた。魔力で動くフライ・バイ・ワイヤーでミスリルワイヤーで魔力を伝達する。胴体進行方向にもパイプを通し機体を補強すると共に中にワイヤーを通して尾翼のエレベーターとラダーを動かすための人工筋肉が動かせるようにこちらも作り込んだ。ミスリルワイヤーはよういしたゴーレムの魔石と接続し操縦席の座面に埋め込んだ。この上からスライムが乗り込むことで魔石に触れたところから各筋肉に指令を伝達して操縦することができる。操縦法をざっと教えたが、まああとは慣れだろう。トトは器用なのであとは実践あるのみだ。
パラグライダーのように見通しのよい丘の上から飛び立ち一通り滑空して湖面に着水するを繰り返しすっかり操縦にも慣れたようだ。
「トトよ。お前はこの世界で世界初の空飛ぶスライムとなったのだ。
この一歩は小さな一歩だがスライムにとっては大きな一歩と成るだろう。」
ただ、湖の真ん中で止まってしまうと動力が付いていないので自力では帰ってこられない。風魔法を使って引き寄せて回収していたのだが胴体下と翼下にフロートを付けて水上機に改修するついでについ動力を付けてしまった。
「飛べないスライムはただのスライムだ」
「ピュイピュイ」
この時点で二人(一人と一匹)のテンションは既に最高潮を越え、大分怪しい領域に達していた。
風魔法を応用したジェットエンジンモドキは既に試作済みだ。真ん中に穴の空いた円筒形の筒に魔方陣を刻んで片方から空気を吸い込み勢いを付けて吐き出して推力とするジェットエンジンモドキを垂直尾翼の上端に付け新たに胴体内に追加したスツーカモドキの魔石を魔力供給用の魔力タンクとして接続し完成である。では、スライムによる世界初の動力飛行に移るとしようか。機体の真ん中のへこんだ操縦席にトトがピッタリと収まるとなんだか「V-1ロケット」に見えなくもないが縁起が悪そうなのでみなかったことにした。
「キーーーーん」
ちょっと予想外の音をたてて機体が湖面を滑るように進んでいく。滑走距離が充分に取れる位置まで移動すると一旦、エンジンを止め、エルロン・ラダー・エレベーターと各部の動きをチェックする。しまった、フラップ付け忘れた。これ飛び立てるか?
するとトトが触手を伸ばしてサムアップした。
「ごーーーーー」
フルスロットルでダイ*ソの掃除機のような音をたてて加速していく。尾翼に付けたエンジンに押されて機体後部が少し沈み反対に機首が上を向いて進んでいく。これならフラップなしでも離陸する為の揚力が稼げそうだ。も、勿論想定通りであり、決してフラップつけ忘れた訳ではない。
「ふわり」
おぉ~飛んだ~
無事に飛び上がってしまえば操縦は慣れたものでひらり ひらりと気持ち良さそうに飛んでいる。しばらくは右に左に舞う様に飛んでいたのだが、やがて少し離れていきはじめた。
少し距離を開けてから機首をこちらに向けるとエンジン音が一際大きくなった。どうやら頭の上を高速でフライパスするようだ。
「ぐごごごーーーーーーーごひゅ」
「ピュイ!!!」
ボトッ
ちょうど頭上に差し掛かったときトトの叫び声と共にエンジンが止まり墜落した。それはまるでロンドン上空に到達したV-1ロケットのように…
慌てて墜落現場に駆け寄るとエンジンの吸気口にトトが詰まって目を回していた。どうやら出力を上げすぎて吸い込まれたようだ。エンジンは魔方陣に組み込まれた緊急停止の仕組みで停止したのでトトに大きな怪我は無いようで一安心である。
そうっと抱き上げると気がついたのか「ピュイピュイ」泣きついてきた。驚いたのか痛かったのか大分混乱しているようなのでそのまま撫でていると何処からともなくソイツハアラワレタ。
「ぼくホイミソみんなのみかた、回復ならお任せ」
そうだった。この世界にはこいつが居たんだった。
空を飛ぶ(と言うか…浮かんでいるだけど)スライム。世界初でも唯一でもないじゃんか~。
そう、あの国民的RPGにも出てくるお饅頭ボディの下にタコの足のように触手が生えていて空中を漂う回復魔法使いのスライムが。
「ヒール」
トトに回復魔法を掛けるとそいつは現れたときと同じようにフヨフヨと空中を漂いながら去っていった。
「一猟行こうか」
「ピュイ」
【ホイミソが仲間に加わった。】
書き溜めのストックが尽きました。
次回、なるべく早く更新できるよう頑張りますので
気長にお待ちください。