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01 魔核

初投稿作品です。

執筆遅めの不定更新となりますが、お読みいただければ幸いです。

「ギー」


動きが渋くなっている扉を開け、寂れた田舎町の冒険者ギルドに珍しく見たことがない男が入ってきた。見たところ旅の冒険者だろうか。肩に小さいスライムを乗せている所を見ると(スライムみたいな弱い魔物をテイムしている)変わり者のテイマーだろうか。


「いらっしゃい。」


この町が、かつて開拓の最前線で華やかだった頃は、美人でさぞ人気者だったであろう受付嬢がけだるげに声を掛ける。


「こんにちは。しばらくご厄介になります錬金術師のユージと申します。

 でこっちは相棒のピナ。所でこのギルド、薬草の買い取りとかしてます?」


「ごめんなさいね。この町には薬草の需要はないのよ。

 ポーションを作れる人が居なくて。」


「デスヨネー。それだったらポーションだったらどうですか?」


「そうね。ちょっと在庫を見てくるわ。」


そう言うと、受付のお姉さんは見た目に反してフットワークよく在庫を調べに行った。


「それでも低級ポーションで3本かしら。まだ保存期間が3ヶ月以上あるならば

 後2本追加で5本までなら買い取れるけど。」


「ご要望があれば、出来たてをご用意できますよ。どこか作業ができる場所

 借りられますか?」


「そういえば、錬金術師って言っていたわね。場所にご要望はあるかしら?

 ギルドの会議室とかでもいい?」


「煮炊きをするので火と水が使えるところが良いのですが。」


「奥の簡易宿泊所に小さな炊事場があるからそこで良ければ使ってもいいわよ。

 どうせ誰も使わないし。」


「あと宿もお願いしたいのですが宿泊所があるのですか?」


「大部屋にベッドが並んでいるだけよ。3軒先に宿屋があるからお金に余裕が

 あるならそちらを進めるけど。」


「なるほど。一旦宿屋に行って先に部屋を確保してきますね。」


宿屋で部屋を取って戻ってきたのだが受付には誰も居なかったのだが奥で人の気配がしているので様子をうかがっていると先ほどの受付のお姉さんが奥から顔を出してきた。


「ああ、戻ってきたわね。こっちよ。入って。」


どうやら掃除をしておいてくれたようだ。生活魔法の【清掃】を使えば一発で綺麗にできたのにとは言わないでおいた方が良いだろう。私は空気が読める錬金術師だし。


「瓶の水は一旦捨てて裏の井戸から汲み直した方がいいわね。

 あと、竈はそこと軒下にもあるから匂いがきつい物とかは軒下の竈を使ってね。

 あーっと、薪代どうしましょう。」


「この辺りでは、薪は貴重ですか?簡易の魔道コンロもあるのですが…

 大体食事一回分くらいを使う予定なのですが低級ポーション一本サービスで

 良ければ薪かな。」


「こちらはそれで良いけれど、少しもらい過ぎかしら。

 この辺りの開拓は大分進んだからあんまりたいした魔物は居ないのよ。

 だから周囲の森は、町の人でも森の奥まで行かなければ割と安全に採取が

 できるから薪は比較的手に入れやすいのよ。」


「では低級ポーション一本追加で計六本納品と言うことでお願いします。

 しかし、討伐も採取もあんまりおいしい依頼が無いように聞こえますね。」


「そうね。町中での作業みたいな駆け出し冒険者向けの仕事か

 後は町の人では対処できないような討伐依頼か森の奥での採取のように

 少し難易度が高めの依頼のどちらかになりがちで初心者から中堅冒険者向けの

 丁度いい依頼が少ないのよ。

 おかげでギルドは、ご覧の通り閑古鳥が鳴いているわ。」


「うわー、聞かなきゃ良かった。

 今は旅をしながらいろいろと見聞を広めているのですがこの辺りの

 特産物って何かありますか?できれば錬金術師的に。」


「錬金術師的にって言われてもねぇ。」


そう言って男が差し出してきたCランクのギルドカードと男と肩に乗せたスライムを見比べながら値踏みしている。


****************


どうも、スライムを連れているけれど【テイマー】ではなく"自称"【錬金術師】をしているユージです。初めて来た町の冒険者ギルドでポーションの納品を無事に終えたので、明日からに備え食料を買い込んだ後、今日の所は宿でゆっくりすることにしたところです。


さっきギルドで仕入れた情報によると昔は北の森の奥で魔鉱石が多少取れたらしい。錬金術師が興味を持ちそうな情報を何か下さいってかなり無茶振りしたつもりだったのだがさすがである。かなり興味深い情報を持ってきてくれた。もっとも、興味を示したらついでに周辺の魔物の発生状況を偵察してきてほしいとちゃっかりお願いしてくるところなどなかなか策士である。冒険者ギルドからの正式な依頼として調査と討伐の両方で用意してくれるところも抜かりない。ありがたい話である。

森の奥まで行くとCランクの魔物が出て来るらしいのでこの町にいるDランク冒険者では少々荷が重いらしく行くならばそれなりに覚悟をして行けとは言われている。まあ、Cランク程度であれば、従魔のスライムでも倒せるので問題ないし最近はあまり人の手が入っていないと言うことなのでレアな薬草でも見つかったらラッキー程度の気持ちで何日か掛けてゆっくり見て回ることにしたのだが。

次の日、朝早めの朝食を宿で頂きついでにお願いしておいた5人前のお弁当を受け取り一旦ギルドに顔を出す。昨日言っていた調査依頼を受けるのと何かついでの採取依頼が無いかを確認してから、一週間ほど掛けて森の中を広く浅く見て回るつもりであることを告げて出発した。


結局町に帰ってきたのは出発から10日も経ってからになってしまった。

最初は順調に進んでいたのだ。出てきた魔物もゴブリンかオーク程度で、後はオオカミ、鹿、イノシシ辺りの普通の獣ばかりでいくつかあった魔力溜りで各種の薬草を採取しながら溜まった魔力を散らして魔物の発生源を潰していった。

様子が変わったのは3日目の午後、山を二つほど越えたあたりである。開けた視界の先には雪解け水をたたえた美しい湖が広がっていた。とりあえず一周した後、本能の赴くままに湖の北西の小川が注ぎ込む湖畔のほとりの木々に隠れるようにして、土魔法と錬金魔法を駆使して拠点となるログハウスを建ててしまった。勿論露天風呂付きで。

それから三日ほど掛けて町まで帰ってきたのだが、変異種に率いられた十匹ほどのオーガの群れにぶち当たってしまった。おおよそ三メートルはあるであろう青い肌の筋肉の塊みたいな角の生えた鬼が九匹とさらに一回り大きな赤黒い肌の鬼が一匹に森の中で半包囲されている。これは確かに町の住人や中級程度の冒険者パーティーには、荷が重いだろう。討伐するにはCランク冒険者5-6人の中級パーティーが複数で当たる必要がありそうである。まあその分オーガからはそれなりの素材が取れるのでこちらもその気で迎えており、すでにテイムしている三匹のスライムのうち二匹は左右に展開し残りの一匹はボディーアーマーよろしく体に張り付いている。斬撃に対しては硬化で衝撃に対しては軟化で柔軟な防御力を発揮する非常に優れた鎧なのだ。

左右から襲いかかってくるオーガは、スライム達が魔法で牽制して近寄らせないようにしてくれるので正面から向かってくるのを叩くだけの簡単なお仕事だ。ただ心臓や目玉は錬金術の素材となるうえ、皮は革鎧の材料となるのでなるべく傷を付けずに倒したいので首を落とすのが一番いいのだがなんせ背が高すぎて届かないので最初の一撃を避けては足を切り落とし倒れこんで頭が下がった所で首を飛ばしていく。

三匹目のオーガを屠るところまでは一歩引いて様子を見ていた変異種のオーガだが、四匹目が切りかかってくるタイミングで【咆哮】を放ってきた。切りかかられたタイミングで【咆哮】スキルで体が硬直させられたらそれはそれで大ピンチとなる良いコンボ技だと思うが効かなければどうということはない。四匹目のオーガも難なく倒すのとほぼ同時に左右のスライム達も二匹目のオーガを倒すところだった。残りはおびえて腰が引けている五匹目と変異種のオーガとなった。

いまにも逃げ出しそうなオーガを押しのけて変異種が出てきた。まあやることは一緒なのだが。真っ赤に見えるくらい強力な強化魔法を全身に這わせて突進してくる。その速度はオーガのそれとは比較にならないくらいの早さだ。こちらも相応の身体と刃先への斬撃付与を強化して迎え撃つ。

オーガとは比べものにならない堅さの手応えはあったもののバッサリ着られた太腿から血を流している変異種の首をはねる。残りの一匹はどうやらスライム達が片付けておいてくれたようだ。

解体は後で良いだろう。討伐部位の角だけ別に切り分けて残りは解体すること無くそのままアイテムボックスに放り込んでおく。


ようやく町の冒険者ギルドに着いたのだが、ギルドの中は上へ下への大騒ぎだった。どうやらオーガの目撃情報が入ったのだろう。そんな中、こちらを見つけた受付のお姉さんが慌ててやってくる。


「ユージさん、無事だったのですね。よかった。」


「はい。おかけ様で。所で何かありましたか?」


「実はユージさんに様子を見てきてもらうようにお願いしていた北の森で

 オーガの目撃情報がありまして、それで心配していました。」


「はぐれオーガでしょうか?一匹ですか?」


「それが五匹以上いて中には一回り大きくて色が違うのが一匹居たようです。

 そんなリーダー種が引き連れたオーガの群れにこの町の冒険者だけでは太刀打ち

 できないので今周辺の冒険者ギルドに応援を要請する準備をしています。

 それでユージさんがオーガの群れに遭遇しないかすごく心配したんですよ。」


そっかー、オーガの群れかー。五匹以上でリーダー種が居たと言うとあの赤いオーガの群れだろうなー。

覚悟を決めて受付のお姉さんを引っ張っていって少し奥まったところにあるカウンターの上に先ほどのオーガの討伐部位である角を見せる。


「十匹居ました。うち一匹は変異種で。多分もう大丈夫だと思いますが、

 討ち漏らしがあると不味いので今日一日はこのまま警戒を続けてください。

 今日はさすがに疲れたので宿屋のベッドで休みたいので。

 明日になったら北の森ではぐれオーガが残っていないか巡回してきますので

 今日は宿屋のベッドで寝かせてください。」


驚きを通り越して呆れていたお姉さんの許可をもらいそのまま宿で晩飯を食べて久々のベッドでの就寝となった。それから一週間ほどギルドの緊急依頼として北の森を中心に周辺捜索に当たったがそれっきりオーガは見つからず警戒解除となったので、ようやく解放されたので当初の目的である魔鉱石探索に戻ることにした。


湖の畔にこっそり立てた風呂付き別荘を拠点にして、そこから奥にもう一山越えた岩場での採取を行った。岩場には野生のゴーレムがウロウロしていたのだが予想に反して魔鉱石化しているエメラルドやルビーの原石が採取できた。この大きさと質であればそれなりに高機能な魔法を付与した魔道具が作成できるだろう。

ここいら辺一帯、様々な鉱物資源の採取が期待できる、元の世界でいうとオデッサの様な土地であり、これらの豊富な鉱物資源を使えばあと十年は戦えるであろう位の資源量を含有しているのだが同時に周辺魔素の濃度が高く凶悪な魔物が徘徊する危険地帯となっており、こんな物騒なただの荒野に好き好んで近寄るような物好きもいないため美味しい私物の鉱山としてとしてありがたく独占させていただくことにした。

しかもモンスターレベルがBランクは有りそうなトカゲやらサソリやら蛇の魔獣がおりそこから取れる魔核もそこそこの品質で使い勝手が良い物が採取できるうえ、天然物のゴーレム魔核まで手に入るのである。天然ゴーレムから取れる魔核は普通の魔獣のものと異なり錬金術で人工のゴーレムやオートマター、ホムンクルスなど魔法生物を生成する核として利用できる性質がある。

そもそも魔核とは、魔獣や魔法生物などの魔物が体内に持つ魔素の結晶のことで魔核の有無で魔獣か普通の獣化の区別がなされている。魔物が魔法を使えるのも体内に魔核があるためと言われている。

通常の魔物の魔核は純粋な魔力の結晶なのだがゴーレムの魔核はゴーレムのような魔法生物を動作させる為のSYSTEM BIOSとして使える基本的な魔法回路が残った状態なのだ。元の世界で例えると普通の魔物からとれる魔核がクリーンコンピューターのM*-80で ゴーレムの魔核はROM-BASICを搭載したP*-8001と言ったところだろうか。


風呂上がり、ゴーレム由来の魔力を含有した岩石やら鉄鉱石やら魔核を眺めながら作る魔道具に思いを馳せてニヤニヤしながらその日は眠りにつくのだった。


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