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00 プロローグ

初投稿となります。

よろしくお願いします。


執筆遅めの不定更新となりますが、お読みいただければ幸いです。

朝だ。


またこの世界での一日が始まろうとしている。異世界転生してもうすでに18年。最も前世では半世紀ほど年齢を重ねた高齢者一歩手前のオッサンだったこともあり、まだこちらの世界での生活の方が短いのだが。

元の世界で電車の事故に巻き込まれ死ぬ間際にこちらの世界の女神様に拾われて、女神様からの依頼と加護を受けて転生してきたのが、依頼自体はすでに達成しており後は優雅なチート生活を満喫するだけとなっている。女神様からの依頼と言っても別に魔王を討伐した訳でもなく英雄として祭り上げられることもなかったのでこうしてただの冒険者として生活できているが、そこそこ高難易度のダンジョンを踏破したこともありレベルやスキル的にはそれなりに高く、女神様からいただいた加護やチートのお陰もありステータスに関しては人様には見せられない領域に達している。

だが、向こうの世界と併せてすでに七十歳を超えているのもあり、女神様の依頼達成報酬として予めもらっていた【錬金魔法】と【錬金術】のスキルを使って田舎町で道具屋をしながら半隠居生活を楽しんでいる。


伯爵領の領都から徒歩で半日ほどの所にある旧街道沿いの田舎町に店舗兼用の家を買い込んで早半年、領都の冒険者ギルドに毎月決まった量のポーションを納める以外は、あちらこちら観光がてら採取やら採掘やらに出かけたり、そうやって手に入れた素材を使って錬金術で作った魔道具や各種ポーションを気まぐれに開けた店で売ったりと気ままなスローライフを満喫している。

今日は朝から店を開いているのだが、街から離れた田舎町のさらに外れな上、不定期にしか営業しないこともあり午前中に近所の農家のおっちゃんが畑でとれた野菜を置きに来てお茶して行った以外昼過ぎになっても客は誰も来ていないのだが、まあいつもそんな感じだ。


「カラン、カラン」


そんないつもの午後のお茶の時間となる頃、今日は珍しくまっとうそうなお客さんが来店した。


「あの、ここってお店ですか?」


「疲れたー、何でも良いわ、一休みできるなら。」


恐る恐る入ってきたのは、これまた珍しく街の魔法学校の制服を着た学生さんの二人組だ。一人は金髪巻き毛のゴージャスヘアでもう一人は煉瓦色というか赤が入った茶色のストレート。どちらもなかなかの美人さんだ。街の魔法学校の生徒さんが野外活動用の際に着用する制服にローブとフィールドワーク用の装備を身につけている。


「いらっしゃい。

 一応道具屋なんだけど、まぁお疲れみたいだからそこに座って。

 今お茶を入れるから。」


そう言って、近所のおっちゃんらがたむろするために用意してあるテーブル席を勧める。


「えっと。ありがとうございます。」


「助かります。もうくたくたで。」


学校でフィールドワークの課題でもあったのだろうか?街の魔法学校の生徒さん

がこんなへんぴなところまで来るとは。

今日はお天気も良く気温も上がって少し汗ばむ陽気だし喉も渇いているだろう。アイスティーをLサイズ並みのジョッキで入れてあげるとしよう。ジョッキは勿論おっちゃん達のビール用だったりするけれど、まあ良しとしよう。氷魔法で出したかち割り氷と作り置きのアイスティーをジョッキに注ぎ、お茶請けとしてはパンの耳で作ったシナモンラスクを添えてあげる。


「はい、お待たせしました。アイスティーとシナモンラスクです。」


「「???」」


お約束通りのファンタジーなこちらの世界では、魔法と魔力を使った魔道具が便利に使えることもあり、科学は発展していないため電化製品などはなく、物を冷やすためには氷属性の魔法か魔道具が必要なのだが、ただでさえ希少な魔法の中でも氷属性はさらに希少性が高くこちらの世界では冷蔵庫は貴重な魔道具であり、飲み物を冷やすことには慣れていないのだ。

流通もそれほど発達していないこともあり南方で栽培されている砂糖も希少で高価でありそんな砂糖を使った甘いお菓子も高級品であり、またバリエーションも少ない。なのでパンの耳を揚げただけのよく言えば素朴、ぶっちゃけると貧素な見た目と高級品な砂糖の組み合わせがミスマッチなのだ。


「ええっと、アイスティー?これはお酒ですか?」


「ああ、冷やした紅茶です。お酒は入ってないですよ。今日は暑いから喉も

 渇いているでしょうと思いまして、アイスティーにしてみました。

 あんまり馴染みがないかもしれませんが、どうぞ。」


「「いただきます。」」


と言ったきりまだ手を出さないで二人で目で合図し合っている。

得体のしれない田舎の店で出された見慣れない飲み物とお菓子だ。どうやらどっちが先に手を付けるのかを譲り合っているようであったが、やがて煉瓦色の髪の子が諦めたようにアイスティーのジョッキを手に取る。金髪の子の方が立場が上なのかな。

残念ながらストローは用意していないので豪快に行ってほしいのだが、良いところのお嬢さんなのだろう、両手でお上品に持ち上げた。手に取ったときの冷たさに驚いたのかビクッとして手が一旦止まったが驚きながらも口を付ける。最初の一口はその冷たさに驚きつつも喉も渇いていたのだろう。一気にぐいぐい行きだした。

ああ、そんなにいっぺんに言ったらかき氷食べた時みたいになっちゃうのに。


「うう。」


「セ、セリア、どうしたの? 大丈夫なの?」


「ええ。ちょっと頭にキーン来ました。」


「え、それって…ほんとに大丈夫なの?」


「いえ、念のためシャル様はしばらくお待ちを。次はこちらですね。」


そう言ってシャル様に待てをしたセリアちゃんは、次はラスクに手を伸ばす。一口サイズにしてあるのだが、上品に少しずつ食べている。やはり良いところのお嬢様なのだろう。もしかしたらお貴族様の子女なのだろうか。それにしては護衛も付けず二人きりでこんな田舎町までやって来るなど少々不用心なのではないだろうか。もっとも領都のお膝元とも言えるここいら辺は、田舎ではあるものの治安もそこそこ良く盗賊やら山賊の類いは、冒険者や騎士団によってすぐに討伐されている。

同様に魔物も街道沿いにはめったに出てこないし出てきたとしてもゴブリンかフォレストウルフ、角ウサギ辺りの弱い魔物なので、お嬢さん二人とはいえそこそこ魔力量が高そうな魔法使い二人組ならばそうそう後れを取ることもないだろう。

前衛なのであろうセリアちゃんの腰には品良く装飾されているが実用性も十分そうなショートソードがぶら下がっているしシャル様の持っている銀色のロットもかなり上等そうである。

前衛と後衛でバランスが取れていそうだが、回復役も斥候もいない魔法使いの二人パーティーだとゴブリンやフォレストウルフ辺りに数で囲まれたりする危険性は否定できない。


二口、三口食べ進んだところでセリアちゃんの目が光った気がした。そして突然食べるスピードが三割増しになる。そのまま二つ、三つと食べ進んでいったところでシャル様が割り込む。


「セ、セリア、私も食べてもよろしいかしら?」


「いけません、シャル様。これは危険な食べ物です。危険なので私がすべて

 処理いたしますのでシャル様はアイスティー?をいただくだけで

 こちらにはお手を付けませんように。」


そう言ってさらに二割増しで食べ始める。スピードが上がったにも拘らず、お上品な感じはあまり損なわれていないのだが、何かリス的な小動物が一心不乱に木の実をかじっているようでついつい笑いがこみ上げてしまったらセリアちゃんにすごい目で睨まれてしまった。


「そうなの?では私はアイスティーを…いただきます。ん、んぐんぐ」


最初は一寸だけ口に含む感じで続けて一気に飲み始めた。


「ああ、冷たくて喉が癒やされる。って危険と言いながら

 何食べ続けているのよ。」


おお、見事なボケ突っ込み。やるなシャル様。と隙を突いてシャル様がラスクを手に取る。


「ポリポリ、甘ーい、なにこれとってもおいしいじゃない。ちょっとセリア

 あなた独り占めしようとしているでしょう。私にもよこしなさい。」


「もぐもぐ、もぐもぐ」


お上品だったのは最初だけでした。まあ、お代わりはあるのだけれどもかといって食べ過ぎるのもあまり良くないし、二杯目のアイスティーを継ぎ足しながらもう一盛りだけラスクも出した。ようやく人心地が付いたのか最後にはペースが元に戻っていた。丁度タイミング良く街に戻る乗合馬車の御者のおじさんがそろそろ出発するとお嬢さん方を迎えに店に入ってきた。


「あのー、お代の方は…」


「あー、いいのいいの。ここのはサービスだから。わしらもこうやって

 勝手に飲んでいくし。」


代わりに御者のおじさんが、自分の分のお茶を勝手に自分でついでごくごく飲みながら教えてた。元々、作業中ですぐに対応できないときに備えて勝手についで飲めるようにカップやらなんやらおいてあるのだが、常連のおっちゃんらはフリーダムだから適当に入って来て勝手に飲んでいく。

まあ、飲んだ分の代わりに野菜やらその日に取れた獲物やらを物々交換として置いて行ってくれるのでお互いに"なあなあ"でやっている。


「おじさん、呼びに来てもらっておいて言うのもあれだけど、こんな所で

 のんびりお茶してても平気なの?ほかのお客さんが待ってるんじゃないの?」


のんきにお茶し始めたおじさんにお客さんを待たせているのではないかと心配になり、そう言うとお嬢さん二人も慌てたようにおじさんの顔を見る。


「大丈夫、大丈夫。今日の街に戻るお客さんは、このお嬢さん達だけだから。」


「なら良かった。じゃあ一寸、待ってね。えっと、ほいほいっと。

 こんな物かな。はい。」


そう言って残っていたラスクを入れた紙袋をシャル様とセリアちゃんにそれぞれ渡す。


「ええと、これは?」


「お土産にラスクを入れといた。大分お気に召したみたいだったから。

 帰りの馬車で摘まんでも良いし、持って帰って誰かに見せて、同じ物を

 作ってもらっても良いし。ただ、今日、明日中には食べちゃってね。」


「ありがとうございます。でも良いんですか?まねして作ったりしても。」


「いいのいいの。そんなに難しい物じゃないし。似たような物は街の

 パン屋さんにもあるしね。ただ、帰りの馬車で食べ過ぎて晩ご飯が

 食べられなくなって怒られても知らないよ。」


「そんな子供じゃありません。でもありがとうございます。」


「あっはっはっは、じゃあ遅くなっちまわないうちにそろそろ

 出発するとしようか。」


冷たい飲み物と甘いお菓子で少し元気が出たみたいで、店に入ってきたときとは比べものにならないくらいの軽い足取りで御者のおじさんに連れられて二人が帰っていく。


****************


街に向かって出発してしばらくたった帰りの馬車の中で思い出したように御者のおじさんがお嬢さんらに話しかけていた。


「お嬢さん達は運が良いな。今日はたまたまやっていたが、

 あの店はあのお兄ちゃんの趣味でやって居るみたいなもんで

 気が向いた時しか開けてないらしいからな。

 ただ何か珍しいのかあそこでしか買えない変わった物が

 売っているらしくて、時々あの店目的の冒険者とか乗せるんだけど

 店が開いて無くて空振りに終わることが多いんだよ。

 お嬢さん達はなんか買ったのかい?」


「あー、お茶飲んでお菓子食べてただけでお店の中、何にも見てないー」


「そういえば、ポーションの瓶とか並んでましたし…

 何を売っていたのでしょうか。」


「あっはっはっは、そりゃ残念だったな。

 まあポーションだったら確か街のギルドにも卸しているみたい

 だからそっちでも同じものが手に入れられるだろうけどな。

 あのお兄ちゃん、俺もたまに乗せるけどギルドにポーション納めに

 街へ出かけているみたいだな。」


「ということは、あのお兄さんが【調合】しているのでしょうか?

 【薬師】さんなのかしら。」


「薬の調合だけで無くなんか魔道具とかも作っているらしいぞ。

 魔道具も作っているから自称【錬金術師】だって自分で言っていたし。

 自分で"自称"って付けてる辺り怪しさ満点なんだけどな。

 あっはっはっは」


「「…」」


売っている魔道具を買うかどうかは別にして、次に課題で野外活動したときにはまた、"アイスティー"と

"シナモンラスク"をご馳走になりに来ても良いかなと思う二人だった。


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