第131話 逃走者
艦へと戻って来たデウストドとハバロトは壁を殴ったり地団駄を踏む。そこへユワトがやってきた。
「釈然としない。」
「どうかしたのか、ユワト。」
「どうしましたユワトさん。」
恐る恐るユワトに聞くハバロトと何しに来たんだとただただ疑問しかないデウストド。
そんな間の抜けた二人を睨みつけるユワト。
「釈然としない。」
もう一度そう言った。
「そうか、ユワト。キザトとパピザトに裏切られたなら仕方ないことだった。諦めろ。」
デウストドが二人は裏切るから仕方ないとユワトを慰める。
「それは仕方ありません、パピザトさんとキザトさんなら仕方ありません。」
それはハバロトも同じであった。
二人のその言葉で沸々と怒りを燃やすユワト。
「ふざけてるのか、お前らのせいであいつらと一緒の班になったんだぞ。」
突然のユワトの怒声に驚いてしまったハバロトとデウストド。
「なにを言っている、ユワト。俺らと一緒に行きたくないと言ったのはユワト、お前の方だ。」
お前がアンに執着心が強いからゼベドが許せないだけだろう。それでゼベドと一緒ではなく我々とだけとわがままを言ったが我々もゼベドがいいとわがままを言った。
結果としてユワト、お前は生き残りゼベドは死んだ。
「そうそう、ゼベド様と一緒は嫌だって言ったからキザト様達と一緒の班になったのにそこすら文句を言うことなのでしょうか。」
「うるさい、うるさい。みんなお前らのせいなんだ。」
「うるさいのはあなたの方じゃないかしら、ユワト。」
三人の元に目を赤く充血させたアンがやってきた。
「アン様、申し訳ございません。私どもがついていながらゼベド様をその・・・。」
「もう終わったではないかしら。仕方ないんじゃないかしら。」
「そうであってもアン、すまなかった。」
「……いいんじゃないかしら。もういいんじゃないかしら。」
アンはそこで涙を流してしまった。
いたためられない気持ちになったアン達四人。
そのためユワトは部屋を出ていった。
なぜゼベド達の援護に向かわなかったのかと後悔するユワト。
アンが泣いてしまったため慰めるデウストドどハバロト。
「一人にした方がいいか、アン。」
「大丈夫。」
「アン様。」
慰めるのはそんなにだった二人。
・・・
涙も止み聞きたいことを聞こうと思ったアン。
「聞きたいこときいてもいいかしら。」
聞くことってと思ったデウストド。
「なにを聞きたいんだ。」
どうしたのだろうと思ったハバロト。
「なにをでしょう。」
話します。と顔をしてから話し始めるアン。
「キザトとパピザトの二人はいないのかしら。」
あー、あの二人。あの二人は好きってことで帰ってこないと思うデウストド。
「あの二人は想いがあるからいないな、アン。」
「二人は帰ってはきません。」
「そう、どうしてかしら。」
それは……言わないといけないのですか。
「キザトはサキって人に興味津々で恋してるのかもな。パピザトはアンもわかったと思うけどキラキラした目で恋した乙女だから。」
「そう、二人って恋してたんだ。知らなかった。」
「知らなかったの、ハバロト。恋してるって思わなかったかしら。」
「そう言うけどアン。恋してるのは知ってた。」
「知らない、知らなかった。今知った。そうだったの。」
デウストドはやっぱり知らないのか、と思った。
「そう、あの二人はそういう関係。」
「知らなかった。」
ハバロトも知らなかったっておかしくないかしら。
「こんなタイミングで聞くのはどうかわからないんだけど聞いていい、アン。」
でもあの二人が好きな者しか見てないの。知らなかったのちょっと悔しいの。
「なにかしらデウストド。」
「ベビロトとフォルトトってもう回復したか。」
あ、そう。デウストドさんそれ気になる。
「どうなっているか知りたい。」
「あの二人なら……。」
・・・
レトトの診療室。
「早く星に行かせろ。」
そう駄々をこねるベビロトをあきれた様子でみているフォルトト。
「なにいってるの、ベビロト。あんたがあそこに戻ったってまた同じことになるに決まってないの。」
心配なので少し厳しいことを言うフォルトト。
「ベビロト、それはもう少し傷が癒えたらにしてほしい。」
仕事が増えるから。
「もう少したったらやってもいいのか、レトト。」
「いえ、やってほしくはありません。」
仕事が増えるから。
「どっちなんだよ。」
少しだけ怒りを露にして腕が長くなるベビロト。
「あんたは弱いってこと。」
辛口ですねフォルトト。
「なんだとフォルトト。この俺が雑魚だっていいたいのか。」
フォルトトの台詞で身長が20cmほど伸びたベビロト
「よくわかったじゃない。あなたはそんなに強いわけじゃない。言ってしまうとあなたは弱い方。」
バルゼルム騎士団でも下から二番目ぐらい一番弱いのは私フォルトト。
「つまり俺は雑魚だってことか。フォルトト。」
「そう言えるかもしれない。そこにいるレトトにあなたが勝てる気がしない。」
レトトは五番目には入るかもしれないから。
「そうか、レトト。フォルトトがああ言ってるがお前はどう思う。」
フォルトトなにしてくれてんの、仕事が一つ増えたじゃないか。こんなに大きくなったベビロト鎮静剤打って小さくしないと行けないのは僕なんだけど。
それに僕がこんな大きいベビロトに勝てるわかないじゃないか。
「それはもちろんベビロトが勝つにき、決まってるじゃないか。」
また少し大きくなった。自分の発言が失敗だったと思ったレトト。
「世辞は要らねえんだよ。」
5mまで大きくなったベビロトに胸ぐらを捕まれ足が着かずにバタバタと足を動かすレトト。
「世辞ではなくてですね、僕は治癒するのが得意な冴えない男です。そんな男があなたみたいなガタイがいい人に勝てるわけないでしょ。」
「それもそうだな。」
そういうとベビロトはレトトを地面に下ろした。
やっと足が着けると安堵するレトト。
「レトト、俺と勝負しろ。俺はもっと、もっと強くならなければならないんだ。」
断りたい、仕事が今増えてるのにまた増える予感しかしない。これも全てフォルトトのせいだ。誰だあんなわがままに育てたのは今度会ったらただじゃおかないぞ。
でもあいつら死んだんだよな。
「わかった、勝負する。でも負けたら僕の言うことを聞くように。」
「いいぞ、レトト。お前が負けたら俺の言うことを聞けよ。」
「わかった、約束。間違っても約束は守ってベビロト。」
「当たり前だ。そっちこそ守れよ。」
「なら練習場に出発です」
そう言って治療室の扉を開こうとすると勝手に開いたフォルトト。
扉を開けたのはアンだった。
「どこ行くのかしら。」
どこか行こうとするベビロト達が気になったアン。
やってきたアン達に不安になったフォルトトとレトト。
「アンさん、どうしました。」
「アンさん。」
レトトはアンが来てくれて嬉しいと口を隠す仕草をした。
「あんた達が大丈夫かしらって思って、この二人に見せに来たのだけどどうしたのかしら。」
「そう、これからベビロトとレトトの二人に練習場で試合して欲しいって思うの。」
「それ意味ないんじゃないかしら。」
「なぜそう思うんアン。」
「レトトがベビロトに負ける予想ができない、そう思わないかしら。」
そう、ベビロトが負けると思う。
「そう、負けるって言ったの。そしたら、ベビロトが怒って私が余計なレトトの方が強いって言ってしまってそれで試合しようって話になりました。」
「やらなくていいんじゃないかしら。」
アンさん、ありがとう。やらなくていいじゃないか。
「やりません。そう言って欲しい。」
そう言うフォルトト。
「それ言って欲しいんだ。頼むからなんとかそういう話にしてくれないかアンさん。」
なにを言っているのかしらと言う顔をするアン。
「それなら鎮静剤打てばいいんじゃないかしら。」
「それができたら苦労しない。」
「そう。」
そんな会話が終わった直後にハバロトがベビロトに鎮静剤を打ったのだった。
[キーンコーンカーンコーン]
放送が入る。
「艦内にいる人は艦長室にお集まりください。
繰り返します。艦内にいる人は艦長室にお集まりください。」
その放送を聞いて全員がアンを見る。
「なにかしら。わたしなにも聞いてないのだけど。」
この中にいない人だとメフザトかしら。声もそうだったかもしれないからメフザトじゃないかしら。
・・・
ゼベド様、最後の作戦を決行します。
見ていてください。我々バルゼルム騎士団の勇姿を。
亡きゼベドにそう訴えかけて艦長室の椅子に座るメフザト。
「ハハハ、今日から私が艦長だー。」
椅子をクルクル回して有頂天なメフザト。
そんな中艦長室の扉が開く。扉を開いた者はそれを見て何事もなかったようにそっと扉を閉めた。
「サタセト、閉めた理由は。」
「よくはしゃいでいられるなって思ったから。」
「艦長の椅子に座ってはしゃいでて不謹慎だっていいたいってのサタセトは。」
「そう、メフザトはゼベドが死んだことどう思ってる。」
「どう思ってるとサタセトは思う。」
質問を質問で返された。
メフザトは。
「メフザトは少しは悲しみの気持ちはあるけどもうはしゃげるぐらいだからそれなりに割りきってるって思ってる。」
「サタセトは真面目だね。」
メフザトも諦めてる気もするけどな。ゼベドは死んでしまってもういないから。
「それでメフザト、話がそれたけどなんで放送いれたんだ。」
「それは教えられない。」
「そうか、ゼベドと艦長と関係あることか。」
「なにか知ってるのサタセト。」
「ゼベドにM作戦があることは聞いてる。」
「M作戦、マジック作戦とか。」
「メフザト、ふざけない。それにMはお前自身のことだろ。」
「……全部知ってるの、サタセトは。」
「ゼベドに聞いたからな、全部知ってる。ちょっとゼベドにようがあってなその時に言われた。
『戦いを早くすませるならどちらかが消えるしかない』
ってな。」
まったく、戦わずにすむならたたかいたくないって言うのがゼベドだったのに、今は撤退すべきだろう。
なぜ、それをしようと思ったゼベド。
「それでサタセトはどう思う。」
「なしに決まってる、今すぐ撤退が妥当な判断だと思うな。」
サタセトはそう言うと艦長室から出た。
「そう。」
サタセトが出ていった扉を見つめるメフザト。
「なら、どうすればいいのよ。」
・・・
サタセトが扉の前で佇んでいるとアン達がやってきた。
ベビロトとレトトの対決は中止となった。