第123話 カルディオス王国と悪魔
どうなっているのです。
「ここはカルディオス王国のはずです、アサナ。」
嘘よ。
「嘘よ、おかしいわよ。」
「何ですか、この有り様は。」
「なにも無いです。」
「なにも無いわよ。」
クラノスは地面を叩いている。
「ここに噴水があり、その周辺に家がたくさんあったはずなのに今はなにもない。なんでだ。」
なんでなにもないんだ。
「まだいたんだ、雑魚共のくせにしぶといやつらだ。さっさと全員死んで俺達の糧になるんだ。どうだ、嬉しいだろ。」
ハハハと笑い声を叫ぶ熊の毛皮を被ったような男。
「それはあなた達がここをこんな風にしたってことですか。」
「そうだ、それがどうかしたのか。」
「まともに話すつもりもないなんてふざけないでよ。ここはわたしの故郷だったのよ。」
「それは残念だ。だが俺達も故郷を追われてんだ。お互い様だ。」
なにがお互い様よ、ふざけるのもいい加減にしなさいよ。
「そこでだ、一つ聞きたいことがあったんだ。隣の国の城に行ってきたんだが誰もいなかったんだ。なにか知ってないか。」
「それ本当ですか。」
「本当だ。」
「ってことはここもあんたが着たときにはもうこんな荒野になっていたってことよね。」
「そうだ。」
「サキ様、こんな人ほっといて行きましょう。」
「どこに行くです、アサナ」
「ペルマム王国によ。」
「でも荒野になったって言ってたです。」
「確認したいのよ、サキ様は確認しなくていいっていうのよね。」
ペルマム王国はもう荒野になってるです。
サキは行かないと言って逃げ腰だが、アサナは騎士団の団長でもあるためペルマム王国に行かないという選択肢がなかった。
そのため、サキを説得する方法を色々と考えるアサナ。
男は次の場所を見つけようと去ろうとしてそれにサキ達もつられたようにここを去ろうとしていると一人の女がやってきた。
「ちょっとルワト、あなたなにやっているの。敵が逃げるじゃないの。」
「なに言ってんだ、パピザト。あんなやつらいつでも殺せるんだ。無視してかまわないんだ。」
「そういう驕りが結果としてどうなるかわからないの。」
「それもそうだ。」
ルワトがサキ達に殺気を送る。
その殺気をサキ達はなにも感じないようにペルマム王国に向かおうとしていた。
「ルワト、あなたなめられてるの。」
そんなはずはないんだ、なめられてるわけないんだ。
「なめんなつっんだお前ら。」
そういうとルワトは体育座りをして球体になり、話し合いをしているサキ達に突っ込んだ。
しかし、サキ達はルワトの突撃をかわした。
そのためルワトは壁に突撃した。
アサナが剣を取りルワトに一撃を加える。
アサナの攻撃はルワトにはきかなかったがアサナの剣は刃に二股のヒビが入った。
嘘でしょとアサナは落胆した。
そんなアサナにルワトが襲いかかる。
「アサナ」
それを見ていたクラノスが叫んだ。
サキはクラノスの声を聞きアサナに襲いかかるルワトを見ると七芒星の石が輝き剣へと姿を変える。
その七芒星の剣を持ってアサナの元へと駆けつけるサキ。
サキはルワトを野球のバッターのように待ち受ける。
ルワトはボールのように丸くなってアサナに向かっていた。2mはあるボールとなって。
そんなルワトを斬りつけるサキ。
サキはルワトを斬った。
「これで勝ったと思ったなら甘いんだ。」
そう言ってルワトはサキを殴ろうとする。
アサナが剣でルワトの右腕を袈裟斬りで切り落とした。
「お前らにやられたが他のやつらはもっと強いから覚悟するだ。」
そう言ってルワトは眠りについた。
「あっけないの、ルワト。鉄壁の鎧を持つとか言ってたくせにこの程度なの。」
ホントにあっけない死に方でつまんないの。
「仲間に対してそれはあんまりだと思うのです。」
うるさいの、それぐらいわかってるの。
でもそれくらいいわないとここから離れる道理がなくなるじゃないの。
「バイバイ、ルワト。」
そう言ってサキ達の近くに姿を見せたパピザト。
クラノスが去ろうとするパピザトを斬ろうと剣を振るったが空を斬るだけだった。
「あなたは強いの、わたしの奴隷になるのはどうなの。」
どこからか聞こえる女の声に不気味さを覚えながら剣を構えるクラノス。
「必要ない。」
「そうなの。じゃあさようならなの、かっこいい剣士さん。」
気配を感じて剣を振るったがまたも空を斬った。
頬にかすかに感じる唇の感触に悔しさを感じるクラノス。
「逃げられてしまった。」
「早すぎなのよ。」
「早いです、あんなのを相手したらやられてたです。」
「なんで逃がしてくれたのよ。」
「わからないが生きていることを喜ぼう。一人は倒したんだ。」
それでいいじゃないか。
「あんたがそう言うならいいわよ。」
全く喜んでなさそうなあんたが言うならいいわよ。
「なにがいいんだい。麗しい美女よ。」
空から男が一人降り立った。
「君たちは美しい、我が物にしたいほどに。特に君が美しい。」
そう言って男はサキの元へと向かう。
サキは驚いていた。
「君の瞳や鼻、この長い黒髪に唇も全てが美しい。わたしは君をてにいれて見せよう。」
男の手を退け両手で腕を強く掴み震えるサキ。
「どうしたんだい、麗しの君。」
そう言って手を伸ばす男の手をアサナが振り払った。
「あんた突然けしかけてきてふざけたことしないでよ。サキ様は繊細なのよ。」
「そうか、サキというのか。すまなかったあまりにも可憐で触らずにはいられなかったのだ。」
アサナは男を睨みつける。
まるで我が子を守る母親のように。
クラノスは男に剣先を向けて睨みをきかせながら男に言う。
「それならどこかへ消えろ。」
「怖い、怖い。わかった。今日はもう去る。すまなかった。」
そうして男は姿を消した。
「なんだったんだ今のは。」
「わからないわよ、サキ様大丈夫ですよ。」
サキはまだ震えていた。
・・・
「あなた、いつもああ言ってるの。キザト」
「さぁ、どうだろうな。このキザト。前しか見ない主義なのでな。何の話だか覚えておらん。」
「これだからこの人苦手なの。」
本当に覚えてなさそうなの。
「なにか言ったかパピザト」
それなのに耳は良いから嫌になるの。
「なにも言ってないの。」
大音が聞こえてキザトは隠れようとしていた。
「先程の醜態みていたぞ。なにをしているんだぞ。」
「何の話だ、覚えておらん。」
そうなの、キザトは記憶にないの。
「醜態っていうけどルワトが剣で二つにされたの。」
「ルワトとはあの鉄壁の鎧で有名なルワトでござるか。」
「そうなの。」
こいつも面倒くさいの。
キザトに逃げたいと目でウィンクしてアピールするけど投げキッスしてきたの。
今そういうの求めてないの。
「そうか、それにも関わらず敵前逃亡を図ったとは全く兵士としての風上にもおけん。」
そうなの。
「そこまで言うならあなたが相手してなの。」
「わかった、このベビロト様が不甲斐ないおまえ達に代わって相手してきてやろう。」
「ベビロト様、頑張ってなの。」
なら。とサキ達の元へ向かおうとするキザトの腕にしがみつき行かせないパピザト。
「キザトはここに残ってベビロトがあの人達と戦う姿を見るの。」
「なぜだ、パピザト。」
本当にこの人記憶力皆無なの。
「キザトの行動が醜態だったってベビロトが言ったの。」
「パピザト、醜態とはなんだ。」
キザト様!それすらわからないの。
醜態っていうのはどういうことなの。
「パピザトもわからないんだ。」
なんかムカつくの。
キザトの言葉に苛つき殴りつけるパピザト。
「痛いんだがなにをするんだ。」
「うるさいの。」
なんで話してるだけでこんなにイライラしないといけないの。
「ベビロトが彼女達と戦う姿を見るの。」
「なぜだ。」
「笑うためなの。」
「なぜだ。」
「ムカつくから仕返しなの。」
「つまり復讐だ、意味がないんだ。やめとくんだ。」
「ただ見てるだけで復讐になるからいいの。」
「それならいい、それは復讐ではなく憂さ晴らしだ。」
「そうかも知らないの。」
「彼女達は美しい、話しかけてこなければ。」
「ダメなの。」
「なぜだ。」
「ベビロトが先なの、待っててなの。」
「わかった待つとするんだ。」
素直なの。
ベビロトはサキ達の元へと向かった。
「おまえら、この俺様ベビロトと勝負するんだぞ。」
突然のベビロトが発言を聞き驚くが無視してサキ達はペルマム王国に向かうことにした。
「無視するじゃないぞ。ふざけるんじゃないぞ。」
そう言うとベビロトは三mあった体をさらに大きくした。
怒りによって10mの体となったベビロト。
「どう思いますよ、サキ様。」
アサナはどう思うです。
「大きくなったです。」
面白いやつだが邪魔する気なら相手してくれる。
「俺があいつと戦う。」
「そんなことする意味無いと思うよ。クラノス。」
クラノスが心配でそう言うアサナ。
サキはアサナがクラノスが心配しているのだとわかったがベビロトという未知の存在が恐ろしかった。
「クラノスよろしくです。」
サキのその言葉に怒るアサナ。
「サキ様!」
「恐いのです。」
あ、つい怒っちゃたのよ。ごめんなさいなのよ、サキ様。
「ごめんなさいなのよサキ様。そうよね、サキ様の考えもわかるわよ。」
恐いって考えてるサキ様の意味もわかるわよ。
恐いからクラノスが心配なのよ。
「それでアサナ、アサナは……。」
「サキ様、どうしましたのよ。」
「なんでもないです。」
なにかおかしいです。なんで今回はこんなに見えるです。
「大丈夫よ、サキ様。私達がついているわよ。」
涙を流すサキを抱きしめるアサナ。
「ありがとうです。」
「無視するんじゃないぞ。」
百mまでになったベビロト。
「今いいところなんだ。あんた邪魔するな。」
ベビロトを睨みつけるクラノス。
「無視し続けるからだぞ。今までだって誰も見てくれなかったんだぞ。でもあの人のお陰で全ての人が見てくれるようになったんだぞ。あの時世界がわかったんだぞ、それなのに君達は見ようともしないんだぞ。何でだぞ。」
そう言うとベビロトはますます大きくなっていった。
「あなたも悲しい過去があったですか。」
同情するサキであったが同時に恐怖した。
ベビロトは約1kmはある巨体へと姿を変えたからだ。
「うるさいんだぞ。お前らが無視し続けたんだぞ。存在しないように無視し続けたんだぞ。覚悟するんだぞ。殺してやるから覚悟するんだぞ。」