第119話 西の苦
アノメデス星の近くに巨大な一隻の宇宙船が漂っている。
やっとここに戻ってきた。
そう次期艦長のアゼトは思っていた。
彼は数十年前にこの星で起きた大戦の生き残りの一人。
そして、今船に乗っている人々がこの星で自国が天下となる日を心待ちにしていた一人でもある。
そんな思いを胸にこの船に乗るアセドはやっとここに着いたにも関わらず一向になにもしない父に反感を抱いていた。
アゼトの父親のベゼドは他の船が来るのを待っていた。
しかし、二日待っても他の船は来なかった。
そんな時にアゼトがベゼドのいる艦長室へと入ってきた。
「失礼します、父上。」
アゼトは昨日も来ていたため同じであろうとベゼドは思ったが、なんようか確認する。
「どうした。」
アゼトは目を見開きベゼドを睨み付ける。
「父上、いつまで待つおつもりですか。」
アゼトの気持ちもわかる。
しかし、今アノメデス星に降り立ち彼らと戦いを挑んだとしても結果は敗走しかない。
それなら待った方がいいのだアゼト。
ベゼドは昨日そう説明したがアゼトはベゼドの考えが理解できなかった。
「まだ数日、待つつもりだ。」
「もう少し、皆の心が静まってから冷静に行こうではないか。里帰りにはまだ早い。ただそれだけのこと。そうは思わんか、アゼト」
そうは言いますが父上、もう二日も待っています。
「しかし、故郷には早く帰りたいもの。」
父上もそうではありませんか。
「そうは言うがまだ我々しか到着していない。」
父上の仰る通り、他は一つも到着していない。
もう二日も待っているのに。
「我々だけで十分なはずです。」
父上、あれを使いましょう。
「皆今日のために準備してきたのだ。待ってやっても損はないだろう。」
我々も用意したのだ。それを試すくらいならいいがな。
「では初陣はこのアゼトにお任せ願いたい。」
そうだな、アゼトであればあれを最大限につかうであろう。
「なにを言うか、はなからそのつもりだ。」
「ありがたきお言葉にございます父上。」
そう言うとアゼトは自室へと戻っていった。
アゼトが出ていったことを見送ると秘書のアンが入ってきた。妻でもある。
「あなた、本当にアゼトに初陣を任せるのですか。」
「そのつもりだ。」
「そうですか、これは嵐になりそうです。」
「そう言うお前も嬉しいのであろう。頬が緩んでいるぞ。」
「そうかもしれません。」
ー
アゼトはとある部屋の前でため息をついた。
これで準備は大丈夫だ。後は人員だが誰にするか。
「あいつらでいいか。」
家に返してやるとでも言えばいいだろう。
二人だけでは小隊としては少ないがあれを使うと考えると大丈夫か。
部屋の前でアゼトは悩んでいたがこの二人でいいだろうと思い二人に声をかけに向かう。
目的の二人がいるであろう部屋とやってきたアゼト。
「失礼する。」
部屋にいた二人はベットになにか投げ込んだが見なかったことにするアゼト。
「どうしましたか、アゼトさん。」
「お前ら二人を先発隊に任命する。」
二人は訳がわからず聞き返した。
「お前らをここから出してやる。あの星に行くからお前らが最初だ。」
二人は顔を合わせて一人が気になったことを聞く。
「俺らが先発に行くのは他の人たちがなにか言いません、大丈夫なんですか。」
アゼトが考えているともう一人が小声で声を出す。
「いいじゃないかよ。」
「そらによ、もしかしたらよ。これが終わったら家に帰れるかもしれないしよ。」
「そうかもしれないけどな。」
「それで、今から向かうから戦闘服に着替えてくれ。俺は外にいる。」
戦闘服こと防護服に着替えた二人が部屋から出てきた。
この服は宇宙に出ても大丈夫な服で度胸と言う意味で戦闘服となった。
そんな二人をアゼトはあれが入ったポットに入れ星へと送る。
・・・
「やっと奴らに復讐できる。はじめからこうすればよかった。」
「しかし、アゼト様。お父上の判断もわかります。」
アセドに声をかけたのはアゼトの副官である。
「そうか、早くすませた方がいいだろ。」
「しかし、お父上はしばし待ち仲間が到着することを信じていまいた。」
そんな二人の会話に一人の男が声をかけてきた。
「アゼト、皆様が集まったわよ。艦長室へ来てくださる。」
「わかりました、母上。」
そしてベゼドは待つようにいい続けて約一年後。
12人がアノメデス星へと降り立った。
12人はそれぞれ思い思いの場所へと向かう。
・・・
「久しぶりだな、ナタレ。」
薄ら笑いを浮かべる目付きの鋭い男がいきなり目の前に降りてきた。
「久しぶりね。」
名前知らないけどね、ナタレ元気かわからないね。
レインって言うね、よろしくね。わけわからない怖い人よろしくね。
「下がっていてください、レイン様。あいつは危険ですわ。」
「おいおい、邪魔するなよ。植物風情がよ。」
ナタレじゃないの聞こえなかったのね。
舌打ちしたのね、それに足でリズム刻んでるのね。
ナタレじゃないのはわかったけどどうするか考えてるようなのね。
レインに笑みが浮かんだ。
「お前の方こそなにをわけわからないことを言っているの。この方を守ることが私の使命でありますの。生きる喜びなの。邪魔をすることこそ私の使命なの。」
ククク……ハッハハハと笑いだすレイン達の前に降りてきた男。
「つまり、殺されたいということか。わかった殺してやろう。」
笑みを浮かべたままソクキナレの前に来て蹴る降りてきた男。
ソクキナレはまるでサッカーボールのように飛んでいった。
「やってくれるわね、従者を飛ばすなんてね。」
「よく言う。」
「あのこは私が知ってる中で一番優秀な子なのね。あなたは荒いみたいね。」
「うるさい。」
元気ね、足が一本失くなったっていうのにね。
一蹴されたソクキナレが少しだけ攻撃を与えたことに喜んだのもつかの間、失った足を再生していた。
そこまでできるのね。
レインは感心し笑みが消えた。
男はレインを見てまた笑いだした。
「どうした。余裕な顔が消えちまったな。」
「そうね、部下が頑張った苦労が無くなったのに怒らないでおけないじゃないね。」
そう言ってレインは男へ近づく。
しかし、男はレインからスルリと逃げてしまう。
「そうか、部下がゴミならそこら辺に捨てておけばよかったのにな。邪魔なだけだろう。」
それはいい過ぎね。
「あんたはそうかもしれないけどね、わたしは無理なのね。」
非情なことをさせることはあってもそれは全て私の責任だからね。
「それにお前は上に立つ人間ってものをわかってないな。部下にはなにしたっていいんだよ、こき使うことで喜ぶってもんだ。」
「それは無理があるわね。」
全然ダメね、まだ余裕がありそうなのに追いつけないわね。
「駒としか思わないのも一つの手だけどね、そこにいるのは生き物だって考えないと足元すくわれるからね。さっきみたいにね。」
少しはソクキナレのやったことを警戒して近づかないでほしいのね。
「.そうだな、あれはいい働きだったかもな。でもそれだけだな。もう治っちまったんだ。無意味だったんだよ。」
男は逆にレインの方へと迫ってきた。
レインの顔が男によって殴られた。
「痛いわね、女の顔を殴るなんてやってくれるわね。」
痛いとレインは落ち込んだ。
「今は生きるか死ぬかだ。それをたかが女だからと見過ごすわけないだろう。強敵だったらな……。」
そうなのね。あなたにそう言ってもらうと嬉しいけどね。
「レイン様、戻りましたわ。大丈夫ですか。」
「ソクキナレ、あなたの方こそ大丈夫なのね。」
「大丈夫ですわ。あいつを倒すのは私です。レイン様はここで優雅に紅茶でも飲んで待っていてください。」
わたしは紅茶苦手だからねコーヒーは好きだけどね。
だからってコーヒーを今飲むほどの度胸はないねソクキナレ頑張ってね。
応援してるけど私がやるべきよね。
レインがソクキナレに参戦しようとした時声をかけられた。
「レイン、ここでなにしてるのね。」
「レイン様、ソクキナレさんこんにちは。どういう状況ですか。」
レインに声をかけたのはナタレとミズキの二人だった。
「二人はどうしてここにいるのね。」
「ソクキナレが降ってきてついて来たのね、そしたらここに来たのね。」
「レイン様も一緒にいるとは思いませんでした。ここでなにをしているのですか。」
「古代遺物を破壊してのね。ソクキナレの力を使ってね。」
「なるほどです。」
「そんなこと言ってたわね。それであれはなんなのね。」
「ナタレの知り合いだったみたいね、知らないね。」
「面影は知ってるけど死んだはずなのね。」
「ナタレが二人いるだと、どう言うことだこれは。おい、説明しやがれ。」
「あなたが言った通りね、アゼト。それよりなんであなたが生きてるのね。それを教えたら教えるね。」
ナタレにアゼトと名前を呼ばれた空から降ってきた男は笑みを浮かべた。
「わかった、教えてやろう。」
アゼトはナタレが出した紙コップの中の水で吹っ飛ばされた。
「ナタレさん、今教えてあげようとしてましたよ。」
「なにをやっているナタレ。」
「そうね、ナタレ。やりすぎね。教えてくれそうだったのにね。」
「そうはいってもね、攻撃してたのよね。」
ナタレ以外のマルテトフはそんな動作してないと言った。
「バレたか。あいつ目がいいんだよな。」
今回で二回目か、これはかえれないな。
西の苦。二回苦をくらうと一生苦に陥る。
あいつを俺は許さない。
しかし、二度同じ苦を味わっても西に日が沈むと忘れるものでもある。