第107話 サキ対ホエド
サキは前を見ながら震えていた。
「行くです。」
「やりやろう、サキさん。全ては見せられないのが残念だ。」
全てはもう見せているのだけどここでこの形で君に見せていたら最後になり得なかった。そう考えると今の自分の姿には感謝しなければならない。
そして……しなければならないな。最後にそれは言うとしよう。
「そうですか。」
鎧の中央にあった核を握りしめ顔の正面に核を握りしめた右手を突き出すサキ。
「こちらはそれでも全力で行くです。」
鎧は剣となり突き出した右手に握られていた。
「面白い、勝負を始めよう。命を懸けた勝負を。」
クラノスはこんなに怖く思えるなんて意外と知らないことって多いです。そして、知りたいことは多いです。
彼らのことをもっと知りたいです。
誰かに会うのは奇跡です。
出会いはその人の全てと聞いたことあるです。
全て本の知識でも真実だと信じているのです。
軌跡を全て見せて誉めてもらうです。
奇跡を起こすのです。
「行くです。でもです、迷わないように聞いておくです。」
「なんだい、サキさん。」
「あなたを殺せたらクラノスは死にますですか。」
「大丈夫、身代わりになるから大丈夫。最悪、彼女が助けてくれる。」
テンギネトラを指差してクラノスことホエドは言った。
「そうですか、すみませんです。もう一度お願いするです。」
距離を取るサキとホエド、二人はなかなか始めない。
「アサナに開始の合図をもらいたいです。」
「そうだぞ、アサナ早くしてくれ。覚悟が歪んでしまう。」
アサナは二人の意味の分からないセリフに一瞬固まってしまった。
「そんなことしなくてもいいと思うのよ。」
それはその通りなの。
「形式と言う言葉があるの。それはあの男クラノスの考えだと思うの。どうするの。それが嫌なら混ざらせてもらうの。そしたらどうなるか分からないの。」
あなたが混ざったらあんなに言った意味があるのよ。
でもあなたは混ざらなかったのよ。
それは望むところだけどサキ様が許してくれそうにないのよ。
「わかったわよ。宣言するわよ。」
左手を上に上げるアサナ。
「行くわよ二人とも準備万端よね。」
「いいです、アサナ。」
「ああ、準備万端とは言えないがやる気は万端。」
「残念なの、楽しそうなの。」
二人の覚悟とテンギネトラの興味をなくした顔を見てから左手を下ろし開始の合図を送るアサナ。
「はじめ!」
剣を抜き鞘に入ったまま突っ込んできたサキの剣をさばきながら鞘から抜き一歩後退しサキに左から右へと一文字を描くように切りつけるホエド。
「やるです、でもそれはあなたの剣技ではなくクラノスの剣技です。」
だからアサナのやり方を真似るです。
いつも見てきたアサナの真似をするです。
後頭部から迫る剣を振り返りながら避け逃げるサキ。
サキはしゃがみ一瞬で起き上がった。
それがホエドの次の行動への対策であった。
「この体の主と一緒にいただけはあります。熟知しているようだ。勝てることやら。」
右手に握りしめた土をクラノスに投げるサキ。
ホエドは目を右手で隠し目に入らないようにする。
目は遠くのものや回りを見渡すのに便利だから目は剣士の命っす。そう言っていたクラノスを思いだしそう行動したサキ。
「サキ様!」
アサナが叫ぶ。
サキの行動に驚いたからだ。
そして、サキは剣を両手で握りしめ胸に向けて剣を突き立てる。
胸の前に剣を突きつけ左腕にかすり傷を受けるホエド。
やったと安心するサキ。
無防備な状態であることはわかってない。
剣を下ろして頭から真っ二つにしようとするホエド。
サキはそれを左手で引き締め右足でホエドを蹴るがなにも感じなかったようだ。
後ろに下がる。サキは左手の甲に傷をおった。
「次に進むです。」
痛い左手を庇って右手に剣を握り剣を突き出してホエドを煽るサキ。
「行こうか。次の世界へ。」
ホエドもサキと同じように剣を突き出す。
二人はフェンシングをするように剣を突き出していた。
二人とも表情は晴れやかだった。
二人の剣がぶつかる。二人は次にどんな行動をとるのか。
「行くのはあなただけです。」
サキは体ごとホエドに近づく自殺行為である。
ホエドは堂々と仁王立ちし空へ向けて剣を正面に突き立てる。
ホエドがサキを煽る。かかってきなさいと。
サキは突き進む。それがどういうことか意味など考えずただ突っ走っていくサキ。目的は勝利の二文字だけ。
サキは突き進み、ホエドの目の前にはやって来た。
右手を引き左手を左胸の前に突き出す。
そして・・・ザムゴシドとアカネは自分の拳で殴りあっていた。
少しだけ時間を遡りアサナが開始の合図を送った後。
「我々も始めるとしよう。」
「本当にやるのね、私たちのことなんて誰も見てないのね。」
アカネはまったく乗り気じゃなかった。
「やり合わないのか。」
「いいじゃないのね。」
ザムゴシドは焦っていた。
なぜ焦っているのか自分でも分からなかった。
そしてザムゴシドはアカネに向けて拳を振るう。
前の臆病だった彼とは似ても似つかない態度だった。
ザムゴシドはある知らなくてもいいことを知った。
サキがいつも見ている知らなくてもいい未来。
それでザムゴシドは焦っていた。
だからこそザムゴシドはアカネと戦う。
「何をためらっているんだい、やろうじゃないか。」
アカネはザムゴシドを見てかわいそうな人と呟いた。
「なんて言った。」
「あなたはかわいそうと言ったのね。」
「なんでだ。」
「あなたは怯えているのね。なにに怯えているのか知らないけどかわいそうなのね。」
そんな人に刃を突き立てることなんてできないのね。
なにかいいアイディアはないのね。
こんな茶番にしかならないことなんてしたくないのね。
それにこんなことに今後を賭けたくないのね。
「なんだそんなもんか度胸も誇りもなにもない。アカネ、君はもう戦う運命で僕も戦う運命なんだ。さぁやり合おう。」
アカネは考えていた。かわいそうと思っていた彼はなにか似ている気がしたからだ。
彼は一族のためとそれ以上に自分のために戦っているのね。それはホエドとサキと一緒なのね。
二人にはただ戦いたいという思いもあるのね。
ホエドはどこか申し訳なさがあったのね。
それにサキ様は同情してという一面もあると思うのね。
でも、こいつは分からないのね。なぜこんなにもやりあいたのかわからないのね。
一つはサキが関係してるのかもしれないのね、操られていたからかもしれないのね。
その自分の不甲斐なさとクラノスを連れてくることにした負い目もあるのかもしれないのね。
そう考えたら相手になってやるのね。
それ意外に理由があるかもしれないのね。
それはおいおい考えるのね。今は目の前にいるのを倒すのね。
アカネがやっと口を開く。
「やっぱり相手になってあげるのね。ここにいるのは
私じゃないとは思うけど相手になるのね。」
「そうだ、やり合おう。」
そして、ホエドとサキに僕の実力をわからせるんだ。
アカネはザムゴシドの行動を見ながら数ある腕をどうするか考えていた。
そして、ザムゴシドがアカネに迫ってくる。
アカネは突っ込んでくるザムゴシドの懐に入って顔面に右のアッパーを食らわせる。
ザムゴシドはアカネに殴りかかるが大振り過ぎて避けられてしまう。
アカネが少し下がって狙いを定める。
ザムゴシドがまた突っ込んで来たため狙っていた場所を爪で切り裂いた。それは熊の右腕。
熊の右腕を切ることができたアカネは次々と腕を切り裂いていく。
そして、後少しでザムゴシドの腕がなくなりかけたときにアカネはザムゴシドを遠くに蹴り飛ばした。
ザムゴシドが起き上がると左右から刃が迫る。
サキとホエドの剣劇の間にやってきたからだ。
ザムゴシドは両手で刃を防ぐために手を出す。
しかし勢いは殺せず切られてしまう。
そのため後方に下がるザムゴシド。
二人の剣劇を眺める。
ザムゴシドが来たのはサキがホエドにかすり傷を負わされた時であった。
立ち尽くすザムゴシドに右のフックと左のストレートを顔面に食らわせるアカネ。
ザムゴシドは倒れてしまい立ち上がることができなかった。
痛みで両手を使って体を持ち上げられないザムゴシド。
しばらく試行錯誤して起き上がることはできたがフラフラなザムゴシド。
そんなザムゴシドにアカネは尋ねた。
「こんなことしてる意味ってあるのね。」
「ないかもしれない。あちらの方がよっぽど大切だから。」
「なら観戦するのね。もう少しで終わるみたいだからなのね。」
「それがいいかもしれないな。」
二人はフェンシングをするようにする二人を見て傷ついた自分達とは比べ物にならない戦いをしているのに誰も見てくれないことに少しだけ苛立ちを覚えていた。
だからこそ一時休戦としたのだ。
そして・・・、サキの剣は空を切った。
代わりにホエドの剣は赤く血に染まっていた。
サキは右手を失い、ホエドはサキの一撃をかわして剣を振り下ろして腕を切り裂いた。
サキは切られた右手を見ながら悶絶しそうになる痛みを忘れるように剣を取る。
その間にホエドはサキの首めがけてもう一度剣を頭上に持ち上げる。
そして、サキに向けて剣を振り下ろすホエド。
サキは痛みを必死に堪えてホエドに剣を向けるのだった。
そしてサキは手を離し倒れる。
「お見事。」
その言葉が聞こえる。
「腕が、腕がなくなったです。」
「こっちはそうはいかなかった。」
サキの剣はホエドのクラノスの胸を赤く染め上げていた。
前に倒れるホエド、そのホエドをサキは支えたが血は止まらない。ホエドがなにかサキに言う。
サキは胸に手を入れて何かを取り出した。
それは七芒星の印のある石。核であった。
アサナがやって来てクラノスの名前を叫ぶ。
次にテンギネトラがやって来てサキから核をもらうがサキが右腕から血が流れすぎて倒れた。