第106話 失速と加速
ナスターク帝国の救護室。
「テンギネトラはなんでまだいるの。」
突然ザムゴシドが口を開いた。
「いちゃダメ、そういいたいの。ザムゴシド。」
少し怒ったように言うテンギネトラ。
「テンギネトラさん。ザムゴシドさんの言う通りだと思います。テンギネトラも仕事ありませんでしたか。」
テンギネトラの仕事はロダラン荘興国への侵略。
しかし、テンギネトラはそれをしたくないからとタヒリキオと一緒にロキシマリア連邦の殲滅作戦に参加していた。
そして今は救護員としてナスターク帝国の救護室にいる。というのがテンギネトラの現状である。
「今ここにいるのが仕事なの。それ、わかってないの。」
わかってますテンギネトラさん。
しかし、あなたはワガママを言う子供です。
そんなピりついた空気の中、扉が開いた。
「邪魔する。」
「やっと来たの、ソクキナレ。」
タヒリキオには辛口だったテンギネトラもソクキナレにはそこまでであった。
「よかったのですか、ラプオビに留まるのではなかったのですか。」
「レイン様に聞いたか、それはもう無意味。誰もいない場所に誰かが何かする意味なんてないだろ。」
あなた、いま単独行動なの。そうなの。
「それは違いますソクキナレ。そこに宝があるかもしれないならそこに向かって盗みに行く。誰もいないならむしろそうする。」
ホエドの言う通りなの。だラもいないならむしろやりたい放題なの。
「・・・そうだったかも、しれない。」
「今はラプオビに、誰もいないのですか。本当に、それはヤバイことになりそうです。」
「それってどういうことなの、ホエド。」
「この体の記憶では、あそこには奇跡に等しいほどの強者がいる。それを誰かが盗みにいくとそう思わないですか。」
強者と言う言葉にホエド意外が疑問に思った。
テンギネトラが声に出してつっかかりを聞く。
「強者って、兵器があるってことなの。」
「その通り。」
「あれってそういうことか……。」
レイン様。
「どうかしましたか、ソクキナレさん。」
「そうなの、なにかあったの。」
「あった。かもしれない。分からない。」
顔を見合わせるホエドとザムゴシドとテンギネトラ。
「意味分かんないこと言わないでなの。」
「悪かった、邪魔した。失礼する。」
ソクキナレは兵器という単語が気になりラプオビへと戻っていった。
「なにしに来たの、ソクキナレ。」
テンギネトラは疑問を口にした。
「それは心配して来てくれたんだと思います。テンギネトラ。」
ホエドは安堵したようにテンギネトラに答える。
「そうは見えない。」
ザムゴシドはホエドの意見に賛同てきではなかった。
「そう見えないの、ホエド。」
それはテンギネトラにとっても同じであった。
「やっぱりテンギネトラはそう見えましたか。」
なんなの、ザムゴシド。あなたも同じ意見なんじゃないの。
・・・
地図を自分の七芒星の宝石越しに見ていたホエドが突然声をあげた。
「あれ、これってサキさんじゃないですか。」
「サキだ、これはサキだ。どうする、どうする。」
あなたはそんなに慌ててどうしたの、ザムゴシド。
「任せればいいんじゃないの。」
任せるってどういうことテンギネトラ。
慌てた様子のザムゴシドはテンギネトラの意見に理解できなかった。
「任せるのはもう遅いと思います。」
おう、どういうこと教えてホエド。
「そうなの、ホエド。」
「そうです。」
任せるってどういうこと、ホエド。
二人共どういうことか教えて。
我慢できなくなったザムゴシドは任せる意味を聞きました。
「任せるってどういうこと。」
「サキ達に任せようと言うことなの。」
聞いたらあっさりとテンギネトラが教えてくれてそれはそうなるなとわかりきったことだと納得したザムゴシド。
「それは無理だな、ホエドはサキさん達の仲間だったからな。忘れたのかテンギネトラ。」
「そうだったの、忘れていたの。ごめんなの。」
ごめんなの、ザムゴシド。
「それは違うザムゴシド、俺は殺されるべきです。さようなら二人共。今度なにか美味しいものでも食べに行きたかった。」
そんなこと言ってる場合じゃないの。早く考えるの。
「・・・なに言ってるの、ホエド。」
「もういいんです。疲れましたから。」
ホエドさん、テンギネトラの言う通りだと思う。
「ふざけてるんじゃないの。このバカホエド。あんたなんか勝手に死んじゃえばいいの。」
「そうです、テンギネトラさん。ありがとう。」
テンギネトラさんの言う通りだとは思いますホエド。
テンギネトラさんすみません、ホエドがそんな風に考えるのは俺のせいです。すみません、テンギネトラさん。
「俺も行く。俺のせいだから。ホエドは間違ってたりしないと思うから一緒に行く。」
「ありがとう、ザムゴシド。でもこれは自分のことであってザムゴシドは関係ありません。」
ホエドはそう思ってるかもしれない。でも俺にだってサキ達に用事はある。
「それでも、一緒に行く。サキさんに会いに行く。俺も個人的な用があるからホエドと一緒に行く。」
「わかった。」
「それで、どうしましすかテンギネトラさん。」
「二人を見ていたいの、一緒に行くの。ダメって言わないでなの。」
「言いません。」
「言わない、一緒に行こう。三人で。」
「はい。」
・・・
ナスターク帝国に着いてしばらくしてザムゴシドとホエドことクラノス、そしてテンギネトラの三人がサキ達の前に現れた。
「返してよ。クラノスを返してよ。」
いきなりそれですか、あなたは。
「待ってです、アサナ。大丈夫です。返してくれます。」
サキさんの言う通りです。ここに来たのはこの体を返すためです。・・・がありますから返すのです。
「そんなの分かんないじゃないのよ、そんな悠長なこと言ってクラノスが死んだらどうするのよサキ様。」
「少しは落ち着いて考えた方がいいと言っているのです。」
よしよし、いい流れです。このまま行けば……。
なるほどなの。ホエドの言っていたことも少しは納得したの。それにこれを見てるとさっきまでの自分と重ねてしまうの。
「サキ様の言う通りね、アサナさん、頭を冷やした方がいいね。」
クラノスが返ってこなかったらもともこもない。
そもそもここにいる全員が死ぬ可能性もあるためアサナをなだめるアカネ。
「わかったわよ。」
「8秒数えると落ち着くです、アサナ。」
アンガーマネジメント。怒らないようにするためにすることなので返してよ。とアサナが言った後に言うのがベストのタイミングだったかもしれない。
そして、アサナはサキにそのことを言われて少しだけ気分が落ち着き自分の知っている情報を提示した。
「それは6秒だと思うわよ、サキ様。」
1・2・3・4・5・6秒。
サキに対して意外で取り乱すのはほとんどないアサナ。
そんなアサナがこんなに取り乱すのは一体・・・。
「サキ、この後どうするのね。本当に取り返すのね。」
「そうです、それに少しだけ楽しそうです。」
アカネはサキのその言葉を危険視した。
「それであなた達はなにがしたいのよ。」
「あなた達に会いに来たの。サキたん。」
「テンギネトラさん、サキたんよりサキさんでいいと思います。」
「そうなの、ホエド名前教えてもいいの。」
「わからない。」
「なんで意味ないのにそんなことするの。」
「ごめんなさい。」
テンギネトラもホエドのことを呼んでいたのにも関わらずホエドが謝ってるのに首をかしげるザムゴシド。
「あなた達の名前なんて今はどうでもいいのよ、早くクラノスを返しなさいよ。」
アンガーマネジメントをした意味なくそう叫ぶアサナ。
「アサナがこう言ってるけどどうです。」
「ダメだ、サキとこの体で対戦してサキが勝ったら返してやる。」
「そんなのダメよ。無条件で返しなさいよ。」
アサナかいつものあさなじゃないです。
「そうは言っても無理です。向こうにとってはクラノスが人質としての価値があるなら使うまでです。」
「なによ、サキ様まで。なんであんな奴らのいいなりになれって言うのよ。」
「二人共、落ち着くのね。」
「あなたは蚊帳の外でいいわよ、関係ないことよね。」
突然の衝撃発言に言葉をなくすアカネと驚きを隠せない様子のサキ。
「アサナさん、落ち着いてです。」
「わかったわよ。アカネが千手観音に勝ってもクラノスを返してよ。」
「関係ないのね、そうなのね。」
「そうですアサナ。アカネは関係ないです、アサナがやらないのです。」
「やらないわよ、殺されるだけよ。やる意味ないじゃないよ。」
「サキの言う通りなのね、アサナさんがやってほしいのね。」
「やらないわよ。」
「アカネを押すぐらいならアサナ自身が出た方がいいと言うのはそうです。でもです、今のアサナが千手観音のあいつに勝てるとは思えないです。」
サキと同じ意見なのね。そうは分かっていても認められないのね。蚊帳の外って言った人をなんで参加させるのね。
「そうよね、ごめんなさいね。アカネ、サキ様。お願いなのよ、クラノスを助けて欲しいのよ。お願いよ。」
「どうするです、アカネ。お願いみたいです。」
お願いなのね。
「……わかったのね。」
「ありがとう」
「感謝するのはまだ早いのね。」
「そうです、アサナ。感謝はまだ早いです。」
サキは震えながらもそう口にした。
サキのその震えは武者震いか、それとも・・・なのか。
こうして、サキ対ホエド(クラノス)とアカネ対ザムゴシドの決戦が決まった。
果たして、どうなるのだろうか。