第71話 番外編②緑と家族そして悪夢
緑がメイドとなって二年が経った。
去年までが優しかったのだと思うほどに若者をこき使うような大量の洗濯物や食器、もちろん掃除もやっていた。
なにより大変だったのは着付けである。コルセットを巻くのにこんなに締め付けていいのと思うほどに締め付けてドレスを着せる。
たったのこれだけだか相手のことを考えないといけないため二時間は普通にかかった。
しかし、一時間ほどは服をどの服にするか決めるのに時間がかかるのだが・・・。
着付けは他のメイドと一緒にやるのだがさすがに11歳の女の子には重たく大きい服。引きずってはいけないため畳んで運ばなければならない。
と緑は思っているがメイド長スミレス的には一人で全部やらなければならないから一人でできるように努力しなさい。
と毎回気付けの時は言われる。鍛えなさいと言うことなのかと毎回思う緑なのであった。
朝起きて、自分の部屋を掃除した緑はとある部屋にやって来た。
その部屋では王城に住む女性が今日何を着るか。考えている。
最初はクローゼットにある100着はありそうなドレスのどれするか悩み、その中からこれだと決まってクローゼットから出したのは10着と多くそれからどこのドレスにするか悩む。
20分後、2着に絞ることができた女性。
10分後2着の内どっちにするか悩む女性。
クローゼットで30分は悩んでいた。
一着に決まり着付けが始まった。
そして、パジャマから下着に着替えるのに10分。
下着と言ってもそれすらも女性が探していた。
そして、ドレスの気付けが始まる。
コルセットで体を縛りあげるのに20分。
ドレスを着せるのに10分。
なぜドレスを着せるのに10分かかるかって……。
そらは文字におこすのはかわいそうなので控えよう。
そして、小道具を着けるのに10分。
計1時間と50分。約2時間。
着付けをして疲れきって廊下へ出た緑はため息をついた。
しかし頑張らないといけないの。
と自分に渇を入れる緑。その時扉が開きドレスの女性が話しかけてきた。
疲れたの、と言われたため申し訳ありませんと言って頭を下げる緑。
今度お茶会を開くのその時そばにいなさい。
いいわねと扉の奥の部屋にいる侍女に向かって言い、はいと返事が帰ってくると立ち去ってしまったドレスを着た女性。
扉の奥に言っているのではなく自分にいっているのだと思った緑ははい!と言った。
奥からはいと聞こえた。
自分は頭を下げて返事をしてしまった緑。
しかし、謝罪のために頭を下げた直角では失礼に当たるのではと頭をあげてもう一度頭を下げなくては面倒だからとこのままでいるのもと思い、頭をあげようと前を見るが女性はもういなくなっていた。
頭をあげ周りを探すのではなく、頭を下げたまま周りを探すと横目にドレスを纏った女性を見かけその場所に残る緑。
「あなたもよ、緑。」
そう女性に言われて一度頭を上げた緑。
はい、つかえさせていただきます。と言い返す緑。
その姿を見て女性は微笑み朝食をとるためであろう食堂がある部屋へと向かった。
そこへメイド長のミスレスさんが話しかけてきた。
よかったわね、これであなたもメイドの一員よ。
そう言われたが……嬉しさを感じない緑。嬉しさより悲しみが強い緑。今まで何をしていたのだろうという脱力感さえ感じていた。
体力面で辛い部分が多かった緑に2ヶ月が過ぎた。
朝は4時起き、夜は8時までとブラック企業な王城。
そして、お茶会当日。
応接室にはイサナの妹アウラとローザの姿があった。
緑が先輩から紅茶を出すように託されたため緑がワゴンから三人にたどたどしく紅茶を出した。
王妃は感謝の言葉を述べて、アウラは物珍しそうに眺め、ローザは出された紅茶をすぐ口にした。
所作が見えないほど出したときにはもう口元にカップが運ばれていた。
驚いて凝視しているとギロッっとロダンに睨まれた緑。
すみませんとお辞儀をして立ち去る緑。
何しているの、早く立ち去らないとダメじゃないの。
と当時メイド長を務めていたミスレスさんに注意される緑。
「驚いたんだけどさ、今の人ってアスカさんよね。」
ね、ね、アスカよねイサナ。
あーあ、あんたが机を押すから溢れてるじゃない。
「そんなわけないわアウラ。あの人は亡くなったのよ。生きているわけないじゃない。」
「ローザの言う通り、あの娘は緑ちゃん。アスカの娘なの、かわいいと思わない。」
そう言うとイサナは緑を呼びアウラを着替えさせる。
青いドレスからメイド服に着替えるため部屋を後にしたアウラ。
「自慢するためにあなたは私たちを呼んだっていうの。」
「そんなわけないじゃない。そもそもここに呼んだのは私じゃないわ。」
「そうなの、あなたが緊急の呼び出ししたんじゃない。」
「そんなことわからないの。着替えが終わるまで待ちましょう。」
「そうね、ならあなたの親友との出会いを聞かせてもらおうじゃないの。」
そんなこと聞きたいのローザ。
婚約者もスイーツ好きだったのそれで出された食べ物に感動してその食べ物を暖かいうちに食べるためにお店に行って看板娘のアスカにあった以上ね。
なにそれ……期待して損した……。
それからお茶会は一時間続いた。
ほとんど近況報告だけで終わってしまった。
また会おう。と三人は別れていった。
「緑、聞きたいことがあるの。」
「なに、なんでしょうか。王妃様。」
ふふと微笑むイサナ。
「息子のことどう思ってるの。」
予想外の言葉に驚き言葉が詰まる緑。
緑は親指に人差し指を激しく交差させて、緊張が見てとれたときにメイド長のミスレスが話しかけた。
「王妃様、お客様がお帰りになりますがお見送りしないのですか。」
・・・うーんよくわからないわ。この二人を連れてくれば何かわかるかもと思っていたけど。
「そうね、変なこといったわね。悪かったわ緑。」
「いえ王妃様。私頑張ります。」
緑がメイドになって五年が経過し、キンレンの婚約に緑が選ばれた。
その日の緑の父の荒れようは凄まじかった。
酒を飲み、足りなくなったからと居酒屋に行ったと水鳥が言っていた。
帰ってきたとき、酔いすぎて吐いたらしい。
珍しいことがあるんだと一瞬思った緑。
しかし、目の前の光景がその事が必然のことと物語る。
サファイアの意識がないことが・・・。
サファイアが優しく父親をさすっていたとき、父親はサファイアを妻だと思い込んだ。蘇ったのだと歓喜した
父親。
その時水鳥は言った。
サファイアだよ。母さんはいないよ。
それが引き金でサファイアはドアノブに強く頭をぶつけて意識を失った。
緑は王室のお抱いの医者に頼んで見てもらったが手遅れだと言われた。
水鳥は言わなかった。
父親がサファイアを蹴ったことを……。
肺に骨が刺さり息が辛いサファイア。
でも、そんなときでもサファイアは緑に言った。
「緑お姉ちゃん気にしないで。お姉ちゃん。」
それが最後の言葉だったかもしれないの。
いや、最後の言葉だった。
医者はサファイアはもう手遅れ、亡くなったと言ったのだ。
緑はその事実を受け止められなかった。
サファイアが死んだ。
嘘なの。そんなの、嘘に決まってるの。
でも……。
「嘘じゃないの。嘘であってほしいの!」
「姉ちゃん。」
これが現実・・・。
「姉ちゃんのせいだ。姉ちゃんがあいつと婚約なんてしなければサファイアは、サファイアは今も……元気に……元気に……元気にお姉ちゃんって言っていたんだ。」
水鳥。
「・・・水鳥、サファイアを連れてきて。」
そこは城の地下最下層。
宝物庫、その中に1個。
緑はこれを使えばサファイアは行き続けられるかもしれない。
そう思ってやって来た。最下層。
それは、鉢に生えている小木にある一つの実がなっている。クルミのような黒く輝き、青と黄色の水玉の実。
「これをサファイアに食べさせられれば……サファイアが帰ってくるかもしれないの。そう思うから、お願いがあるの。サファイアの心臓を取り出して水鳥お願いします。」そう言って頭を下げる緑。
・・・
・・・
・・・
「・・・わかった。ナイフないけどやってみる。」
色々説明してほしいことがあったがサファイアのためにも早くやらないととも思った水鳥は承諾した。
「ナイフなら、ほらあるの。」
いつもサファイアは持ってるのか。と思う水鳥だった。
そして、サファイアの心臓を取り出した水鳥。
心臓を縦に穴をあける緑。
心臓に入れた穴にむしりとった小木の実を入れる緑。
小木の実は何もならなかった。
三日後、最下層の宝物庫。
そこには緑色に輝くサファイアの姿があった。
何も入っていない棺を土に埋めて墓を作る、葬儀屋。
こんなところに墓を作ってくださりありがとうございます。と王妃に言う緑。
サファイアの墓は王室墓地に作られた。
いいのよと言ってくれる王妃様。
申し訳なさとサファイアが亡くなってしまったのだ。と自覚した緑は泣いた。
そして、葬儀が終わった後。
緑は水鳥を置いて城の最下層まで向かう。
最下層へやって来た緑。
そこには緑色に光る扉があった。
驚きのあまり固まる緑。そして、誰かに共有したくなった緑だった。
開けるの。
扉を開け、扉の奥へ進む緑。
扉の奥には・・・。
なんでここ城が多いの。
扉の奥は城のような家が建ち並ぶ全く違う世界だった。
そこはビル郡の東京だった。
どうすればいいの。
・・・
しばらく考え、サファイアが求める物を探すの。
どこかにあるの、サファイアが蘇る世界を探すの。
求めた先が・・・。
●
●
●
・・・どんな世界でも諦めない……。